Peace and Security in Northeast Asia ラメッシュ・タクール | 2023年05月15日
核武装はソウルにとって得策ではないかもしれない
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この記事は、2023年5月5日に「ジャパン・タイムズ」紙に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。
核武装は、韓国の世界的地位を高めるというよりむしろ傷つける
2023年5月2日、ペンタゴンの報道官、パット・ライダー准将は、米国のオハイオ級弾道核ミサイル搭載潜水艦が1980年代以降初めて韓国に寄港することを認めた。
この寄港は、米国のジョー・バイデン大統領と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が4月26日、両国の2国間同盟70周年を祝って調印したワシントン宣言に基づく拡大抑止強化の一環である。
この合意は、米国が韓国への「戦略資産の定期的な展開を通じて、抑止力をより可視化する」ことと、新たな核協議グループを創設し、ワシントンが朝鮮半島における脅威事態にどのように備えるかについて、韓国からのインプット拡大を促すことを定めている。これは、グローバルな核不拡散体制の枠内にとどまるために韓国が要求し、支払われた対価である。
2023年1月、尹は現職の韓国大統領として初めて、韓国が自前の核兵器を持つ可能性を提起した。世論調査では、独自の核抑止力を持つことに賛成する韓国国民の割合が、2016年に60%、2022年に71%、そして2023年1月にはほぼ77%と、上昇の一途をたどっている。これは米国の核兵器の韓国配備より好ましいと考えられ、国民は、米国との同盟、中国との関係、北朝鮮非核化の見通しに生じ得る悪影響については気にしていなかった。
米国による核の傘の信頼性が疑問視されていることに加え、地政学的圧力が高まっていることが、核武装論の魅力を高めている。2022年10月にウラジーミル・プーチン大統領が口にした、世界は第二次世界大戦以来の最も危険な10年に直面しているという警告に異論を唱えるのは難しい。バイデンも同月、核のアルマゲドンについて警告した。一方、中国は着実に核兵器を増強し、その数は世界第3位の410発に達している。それでも、それぞれ5,000発を超えるロシアと米国にははるかに及ばない。
地域で高まるナショナリズム、海洋領土紛争、北朝鮮の核による反抗、米国の抑止力の信頼性に対する疑念は、核武装論の強力な促進剤となっている。ロシアのウクライナ侵攻、一連の核の威嚇、イランの核兵器開発再開を示唆する兆候、相次ぐ北朝鮮のミサイル実験は、「世界最大の火薬樽」としての朝鮮半島に関する懸念をいっそう高めるものにほかならない。
韓国が核武装するための技術的および物質的能力を有することを真に疑うものはいない。国立ソウル大学の原子核工学者、徐鈞烈(ソ・ギュンリョル)教授は、2017年に「ニューヨーク・タイムズ」紙に対し、ソウルはそうと決めれば6カ月で核兵器を製造することができると述べた。唯一の深刻なハードルは、政権の政治的意志だという。彼以外のほとんどの人は、それには3~5年必要だと考えている。
法的な道筋は、例えば北朝鮮が7回目の核実験を行い、ソウルがこれをきっかけとして核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言した場合、容易になるだろう。第10条は、「・・・・・・異常な事態が自国の至高の利益を危うくしている」場合に締約国が条約から脱退することを認めている。ソウルにとって重要な国のうち、この理由に本気で反論する国がどれだけあるだろうか?
日本、EU、米国は、核開発に踏み切った韓国に制裁を科すことはないと思われる。北朝鮮が戦術核弾頭、ICBM能力、水中核攻撃ドローンを獲得し、米中間の緊張が高まる状況において、米国人は、韓国の核抑止力を米国への直接核攻撃のリスクを低減するものと見なすようにさえなるかもしれない。中国に関するソウルとワシントンの政策の食い違いや、世界秩序を担う米国人の意志も能力も低下しているという証拠は、さらなる誘因をもたらす。しかし、韓国が核武装することによって、米国が同盟を完全解消したいという衝動を募らせたとしたら、ソウルはそれで落ち着いていられるのだろうか?
2022年の世論調査は、独自の抑止力を支持する理由について詳細に尋ねた。韓国国民は、北朝鮮を現在最大の脅威と見なしているが、10年後には中国の方が大きな脅威になると考えている。大多数の人が核兵器を望む理由は、北朝鮮以外の脅威に対する防衛のため(39%)、次いで国家の威信向上のため(26%)、北朝鮮の脅威に対抗するため(23%)、そして米国の信頼性に対する疑念のため(10%)だった。
これらの信念の一つ一つが争点となる。韓国が核武装すれば地域に核軍拡競争が勃発し、歯止めのきかないエスカレーションサイクル、誤算、誤解、あるいは事故によって破滅のリスクが劇的に高まるだろう。戦時下の苦い記憶や根強い不信の歴史を背景に持つ東アジアにとって、最も必要ないものはソウルと東京の核をめぐる緊張であり、それはすでに極めて不安定な状態にある地政学的緊張をさらに高めるものである。
韓国が核武装すれば、北朝鮮を非核化しようとする全ての努力が台無しになり、米国との同盟も破綻する恐れがあり、ソウルは中国、北朝鮮、ロシアの足並みを揃えた圧力に対していっそう脆弱になるだろう。それは、ソウルの世界的地位を高めるというよりむしろ傷つける可能性が高い。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の国家安全保障問題特別顧問を務めた文正仁(ムン・ジョンイン)は、さらに踏み込み、韓国の民生原子力産業が米国の1954年原子力法に基づく「123協定」にいかに大きく依存しているかを指摘する。
ラケッシュ・スードは、マンモハン・シン元インド首相の核不拡散・軍縮担当特使を務めた。彼は2022年7月、戸田記念国際平和研究所に寄稿した意見記事において、今日最も喫緊の核政策課題は78年間続いてきた核兵器使用のタブーが破られないようにすることだと論じた。2023年2月、ワシントンに本拠を置く軍備管理協会のダリル・キンボール会長は、その目標に向けたいくつかのステップを説明した。2023年4月、創価学会インタナショナルの池田大作会長は、5月に広島で開催されるG7サミットに対して「核兵器の先制不使用の誓約に関する協議を主導」するよう提言を発表した。
一方、ワシントン宣言は、韓国で盛り上がる核武装論に待ったをかけた。バイデンは、ソウルに対する米国のコミットメントは「揺るぎなく、強固」であり、米国は核兵器も含む全ての能力を用いて拡大抑止を支えると繰り返した。それに対しソウルは、「米国の拡大抑止の約束を全面的に信じ、米国の核抑止力への揺るぎない信頼の重要性、必要性、利益を認識する」と表明した。また、「グローバルな不拡散体制の基礎である」NPTへのコミットメント、そして原子力の平和利用に関する2国間協定へのコミットメントを再確認した。
しかし、2024年の大統領選挙でドナルド・トランプが米国の大統領に再び選ばれたら、韓国は再び神経を尖らせ、エスカレーションサイクルが再び始まるだろう。
ラメッシュ・タクールは、元国連事務次長補。現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長、および戸田記念国際平和研究所の上級研究員を務める。「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」の編者。