Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ジョン・ティレマン  |  2021年09月22日

原子力潜水艦: 核拡散への影響を低減するために

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 オーストラリアは原子力潜水艦を導入する決定を発表し、その際当然ながら、このプロジェクトが核兵器の獲得ではなく動力源の獲得を目的としていること、オーストラリアは核物質や核技術の不拡散、安全、セキュリティを確保する最高水準の保障措置を継続することを強調した。

 原子力潜水艦技術の導入は、核不拡散条約(NPT)に加盟する非核兵器国としてのオーストラリアの立場や南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)に基づくオーストラリアの義務と十分に両立する。

 また、国連の核監視機関で、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)とオーストラリアが締結した保障措置協定とも、おそらく両立するだろうが、何らかの“取り決め”をIAEAと交渉してまとめる必要があるだろう。

 バイデン大統領は、プロジェクトがIAEAとの「協力と協議」のうえで実施されるとことさらに強調した。

 これは非常に心強いことだが、世界の不拡散努力は法的義務の技術的遵守をはるかに超えている。オーストラリアの防衛力獲得、特に長距離精密打撃ミサイルの開発やもっかの原子力潜水艦獲得の動きは、明らかに地域の軍拡競争と世界の拡散圧力に拍車をかける。ミサイル技術については、ミサイル技術管理レジームにおいて多国間対応が展開されるだろう。また、IAEAは、加盟国が参加する年次総会を今週開催(9月20日~24日)することになっており、すでに潜水艦に関する発表の検討を行っている。

 オーストラリアは、発表についてIAEAに報告済みで、ラファエル・グロッシーIAEA事務局長から「原子力による海軍の推進力に関するオーストラリア、英国、米国の三国間協力に対するIAEAの見解」と題する、適切な言葉で表現された声明が出された。「事務局長は、3カ国が早期の段階でこの状況をIAEAに報告していたことを指摘する。IAEAは、その法的任務に従って、かつこれらの3カ国それぞれがIAEAと締結した保障措置協定に沿って、3カ国とともにこの問題に取り組む」。

 IAEA理事会は、オーストラリアの発表時に会合を開いていた。当然ながら、中国の王群IAEA大使は辛辣なコメントを発し、これを「核拡散行為にほかならない」と評した。

 ロシアも、ミハイル・ウリヤーノフIAEA大使のツイートという形で、「#米国の不拡散政策に戦略変更があったようだ。米国は何十年にもわたって #HEU (高濃縮ウラン)を他国から返還させ、あるいは返還を支援してきた。しかし、いまや米国政府(と英国政府)は、最も扱いに注意を要する技術と物質を #オーストラリアに拡散させることを決定した」と反応した。悪意はあるが、まったく的外れでもない。原子力推進に舵を切ったオーストラリアに対し、米国は、長年他の密接な同盟国には供与を断ってきた技術を提供する気満々で応えたのである。

 ウィーンにおけるオーストラリア外交のタイミングは、これ以上ないほど悪かった。総会は、イランの核開発計画に対する制限再開の努力、北朝鮮による違法な核活動再開に関する決定的な公開情報に基づくIAEAの所見、苦境に立つNPTの延期されている50周年記念会議をめぐる環境の改善に集中するはずだったのである。

 高濃縮ウラン(HEU)を燃料とする原子力装置がオーストラリアの核兵器獲得を可能にすることはないと保証するために、単純で非常に効果的な方法があると、一部の専門家は主張する

 しかし、取り決めの交渉は慎重を要し、また今後の前例となるものであるが、拡散という代償も伴うだろう。

 1970年代初め、IAEA加盟国はNPTの検証規定を実施するモデル保障措置協定を取り決めた。モデル保障措置協定第14条は、海軍推進システムのような、核物質の非違法軍事利用の問題を取り上げている。当時、イタリアとオランダがこのような技術に関心を表明していた。

 しかし、2カ国の関心は薄れ、1987年まで新たな計画は浮上しなかった。IAEAの歴史を編纂したデヴィッド・フィッシャーは、当時の反応をこう振り返った。「20年近く、イタリアとオランダの計画については音沙汰がなかった。……NPTの抜け穴は空文化しつつあった。しかし、1987年、カナダ政府が原子力潜水艦の小艦隊を取得する計画であるという驚くべき発表を行った。……NPT、IAEA保障措置、そして核不拡散全般を強力に支持する国によってなされたという点で、発表はなおさら意外なものだった。」[David Fischer, History of the International Atomic Energy Agency, IAEA, Vienna (1997) pp.272-3] オーストラリアの発表も、同じように受け止められているに違いない。多くの人にとって安心なことには、カナダは、わずか2年後に原子力潜水艦という選択肢を放棄した。

 現在、他の二つのNPT非核兵器国が原子力推進の導入を計画中である。最有力候補のブラジルと、その歴史的な核のライバルであるアルゼンチンである。ブラジルはフランスと協力協定を結んでおり、その第2段階は原子力船の建造となっている。

 オーストラリアと異なり、ブラジルは自前の濃縮能力を有しており、その能力の一部を潜水艦計画に活用することを構想している。これは、民生活動と軍事活動の混合につながる可能性がある。その結果、検証が困難になり、拡散が急増する恐れが生じる。

 過去30年、全世界で民生用途における兵器級高濃縮ウランの使用撤廃を目指す、米国主導の強力な動きがあった。

 拡散の恐れを緩和する一つの方法は、潜水艦の燃料を兵器に適さない低濃縮ウランに限定することであろう。フランスは、自国の潜水艦の一部に低濃縮ウランを使用しており、ブラジルも低濃縮ウランを使用するつもりであることを宣言している。

 米国は、より濃縮度の低いウランの利用を模索しているが、現在のところは高濃縮ウラン(HEU)のみを利用していると考えられており、オーストラリアにはHEUを燃料とする原子炉が提供されると思われる。HEUの利点は、原子炉の燃料補給が不要なこと、つまり潜水艦の寿命に比して燃料が十分長持ちすることである。しかし、オーストラリアがHEUに依存すれば、イラン核合意の主要項目の一つである高い濃縮度を禁じる規範確立の努力を損なうものとなる。

 より広範には、オーストラリアが潜水艦の原子力推進を導入すれば、この技術の導入を望んでいる他の国々は当然ながら黙っていないだろう。日本は、原子力推進の船舶への応用を早期から唱えていたが、その技術を潜水艦計画に利用することは控えていた。韓国もこの選択肢に関心を表明しているが、これまでのところ米国政府に拒否されている。

 オーストラリアは、確かに原子力潜水艦を望まざるを得ない安全保障上の理由があるかもしれない。しかし、緊張関係を管理し、核リスクを低減する既存の構造が脆弱であるか、または存在しない状況では、それが地域の軍事競争を悪化させることを認識しなければならない。これまでのところ、オーストラリアの外交がそのようなリスクを阻止できていないのは明らかである。オーストラリアは伝統的に、NPTとIAEAを主要な柱とする核不拡散体制を断固として支持してきた。オーストラリアの外交は、不拡散規範や規則に基づく国際秩序などに原子力潜水艦導入がもたらすダメージを最小限に抑える権限を与えられる必要がある。不拡散体制のもつグローバルな要素を引き続き支持しつつも、オーストラリアはいまや、信頼醸成措置と予防外交により、地域のパートナーとともにインド太平洋が直面する増え続く核の脅威に集中的に取り組まなければならない。

ジョン・ティレマンは、アジア太平洋核不拡散・軍縮リーダーシップ・ネットワークのシニアアソシエイトフェローである。元外交官であり、ハンス・ブリックスおよびモハメド・エルバラダイIAEA事務局長もとで官房長を務めた。