Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ジョセフ・カミレリ  |  2020年11月17日

核兵器禁止:長い夜を抜けて

 数週間前にホンジュラスが50番目の批准国となり(2020年10月24日批准)、核兵器禁止条約がまもなく発効する運びとなったことは、重大な出来事である。条約は、1個の核弾頭も削減しないが、核兵器が倫理的に許されず、国際法に反するという原則を強化するものである。

 核兵器保有9カ国あるいは国連安全保障理事会の常任理事国がいずれも条約の署名や批准を行っていないことは、さして驚くべきことではない。これらの国の政府はいずれも、2017年7月の条約採択を喜ばず、いくつかの国、なかでもトランプ政権は激しく反対した。

 状況をさらに物語るように、G7参加国とNATO加盟の諸国はいずれも、条約の批准はおろか署名すらしておらず、いずれも近い将来署名する見込みはない。G20については、参加20カ国のうち6カ国のみが採択に賛成票を投じ(アルゼンチン、ブラジル、インドネシア、メキシコ、サウジアラビア、南アフリカ)、そのうち署名と批准を行ったのは南アフリカのみ、そのほかに署名したのはインドネシアのみであった。

 このほか2カ国が、国際舞台における特筆すべき対応を見せた。EU加盟27カ国のうち、比較的影響力の小さい5カ国(オーストリア、キプロス、アイルランド、マルタ、スウェーデン)のみが条約の採択に賛成し、3年後にアイルランドとマルタのみが締約国となった。

 経済協力開発機構(OECD)の場合、加盟37カ国のうち、採択に賛成したのはわずか7カ国、批准手続きを完了したのはオーストリア、アイルランド、ニュージーランドの3カ国のみである。

 このような分析がなぜ重要なのか? なぜなら、経済的、軍事的に力を持つ国家はほぼ例外なく、核兵器の開発、保有、威嚇、使用を違法化する動きへの参加を拒否していることが分かるからである。もっとも、必死の努力にもかかわらず、核兵器保有国が条約を阻止できなかったことは紛れもない事実である。忠実な同盟国や従属国の支援と励ましを受けて、彼らは現在、条約を牙のないトラのままにしておこうともくろんでいる。

 このような悪質な戦略は、必ずしも成功するとは限らない。条約がわずか3年で必要な批准を獲得できたのは、心強い話である。いまや目指すべきことは、今後3年間で批准国を倍増させることである。それにより、条約の道義的力を増強し、核依存症を手放すよう、各国政府や一般の人々への圧力も高めていくことができる。

 条約への支援を広げることはきわめて重要である。しかし、それだけでは十分ではない。条約に加盟するには程遠いにもかかわらず、各国、とりわけ核抑止が自国の安全保障の鍵になると考えている国は、実質的で検証可能な、期限を区切った核軍縮合意の見込みを高めるかのような振る舞いをすることがある。

 例えば、包括的核実験禁止条約の発効は、同条約第14条に指定された44カ国すべての批准を条件としており、36カ国は粛々と批准したものの、主要国、具体的には米国、中国、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエル、イラン、エジプトは、まだ批准していない。

 その他の重要なステップには、次のようなものがある。

  • 核兵器使用に対する作戦即応性の引き下げや先制不使用方針など、核兵器保有国による核リスク低減策や核の透明性に関する対策
  • 核保有国による核備蓄削減と核兵器近代化計画の中止の合意
  • 中東非核兵器地帯を確立する国連プロセスの再開
  • 北東アジア非核兵器地帯を確立する前段階としての信頼醸成措置

 核保有国が核軍縮に向けて動くという責任は、議論の余地がない。それでも、米国の影響力の強い同盟国や友好国が果たしうるきわめて重要な役割がある。ロシアと中国の場合、同盟国や友好国は数が少なく、影響力も概して小さいが、だからといって彼らを看過するべきではない。

 これらの中小国は、核兵器不拡散条約の締約国のほぼすべてを占める。その多くは、さまざまな場面で、自らを核軍縮の熱心な提唱者であると表明してきた。現在、米国の同盟国で核兵器禁止条約を批准しているのは、ニュージーランドとフィリピンの2カ国のみである。ロシアが主導する集団安全保障条約機構では、禁止条約を批准した加盟国はカザフスタン1カ国のみである。

 これらの国の少なくとも一部から一定の支援を引き出すことは、戦略的に重要であり、政治的に実行可能である。核兵器禁止条約に現在欠けているものは、他の多国間合意、特にオタワ条約(対人地雷禁止条約)、クラスター弾禁止条約、(国際刑事裁判所に関する)ローマ規程に対して欧州諸国が示したような力強い支援である。京都議定書からパリ協定まで、気候変動対策についても同様のことがいえる。

 核兵器の話となると、米国の一部同盟国の態度を変えることは難しいだろう。特にフランス、また、それほどでもないが英国もそうである。しかし、NATO内では、カナダ、ノルウェー、オランダ、ギリシャ、イタリア、さらにはドイツやトルコなど、かなり多くの国が時間をかければ説得に応じてくれるかもしれない。アジア太平洋地域でも、日本、韓国、オーストラリアに同様のことがいえるだろう。

 これらの国の1カ国あるいは何カ国かが兄貴分に逆らって条約に署名するようもっていくことを、戦略的優先事項とみなすべきである。それにより、条約が切に必要としている地政学的影響力を獲得して、他の同盟国が後に続くための先例を作り、核兵器保有国が条約への姿勢を再考して実質的な核軍縮アジェンダを支援するよう、圧力をかけることができる。

 このようなことは、国民感情(「世論」とは別に)の大きな転換がなければ、ほとんど、あるいはまったく起こらない。確かに、いくつかの組織は広範囲にわたる啓発キャンペーンやアドボカシーキャンペーンを実施している。その中には、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、PragueVision、核軍縮・不拡散議員連盟、バーゼル平和事務所、グローバル・セキュリティ・イニシアティブ、平和首長会議2020ビジョン、アボリション2000がある。これらのうち最も大きな成果を挙げているのが、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)であり、設立後わずか10年で、2017年ノーベル平和賞を受賞した。ICANは、共感を得られそうな国の政府に集中的なロビー活動を行い、政府間プロセスや政府間交渉にまで介入し(成功の度合いはさまざまであるが)、国連においてより強固な足場を築いてきた。

 しかし、彼らは、冷戦終結の前触れとなった1970年代後半から1980年代前半の大衆の熱狂と動員を再現することはできなかった。核兵器が実存的脅威をもたらすという命題は、抽象的には広く認められているが、緊急の集団行動を要請するものとしては受け止められていない。ここでの問題は、「あまりにも多くの不吉な暗雲が頭上に漂う状況にうんざりしている一般の人々を、いかに活性化できるか?」である。この点について、特に米国と密接な同盟関係にある欧州およびインド太平洋地域の国々において、我々は持続的な国民的対話を行う必要がある。

 そのような対話は、大胆かつ創造的な思考を養うものでなければならない。それは、我々が抱える核の苦境の症状だけでなく、その原因を探るものでなければならない。核の脅威が、他の問題や危機、とりわけ気候変動と密接に絡み合っており、それらの問題はいずれも単独で十分に理解することはできないし、まして対策を講じることもできないということを明確にしなければならない。きわめて重要なこととして、我々は安全保障への分別あるアプローチを妨げる障害を特定し、目的に合わない考え方や制度を疑う姿勢を持たなければならない。そして、これらはすべて、包括的なアウトリーチプログラムの一環として、職業団体、企業、労働組合、コミュニティーや宗教団体、スポーツおよび文化的ネットワークなど、さまざまな組織と連携しながら行う必要がある。

 道はまだ始まったばかりである。

 

ジョセフ・アンソニー・カミレリは、ラ・トローブ大学名誉教授であり、1994年から2012年まで国際関係論の講座を担当した。また、2006年から2012年まで同大学Centre for Dialogueの初代センター長を務めた。オーストラリア社会科学アカデミーのフェローである。執筆または編集に携わった主要な著書は約30冊、執筆した書籍の章および学術誌の論文は100本を超える。テーマは、安全保障、対話と紛争解決、社会における宗教と文化の役割、オーストラリアにおける多文化主義、アジア太平洋地域の政治などの分野に及ぶ。最近の共著には、マイケル・ハメル・グリーンとの “The 2017 Nuclear Ban Treaty: A New Path to Nuclear Disarmament” (2019年)、デボラ・ゲスとの “Towards a Just and Ecologically Sustainable Peace: Navigating the Great Transition” (2020年)がある。