Peace and Security in Northeast Asia ヒュー・マイアル  |  2023年06月20日

G7後の北東アジア展望: 強風、荒波、さらには危険な嵐か

 G7サミットの後、北東アジアには緊張状態が続いている。サミットは、この地域における利害や秩序の対立を調整するのではなく、米国主導の秩序の原則を強く主張したためだ。日本や他の米同盟国にとっては、抑止力を強化しつつ対話を維持しようとする努力は北東アジア政策の屋台骨であるが、習近平は中国国民に対して「極端なシナリオ」に備えるよう警告している。

 2023年5月19~21日のG7サミットは、広島で開催されたこととウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領がサプライズ出席したことで注目を引いた。大きなニュースになったのは、サミットがウクライナを支持し、ロシアによる核の威嚇を非難したことである。

 G7は、法の支配に基づく国際秩序を守り、自由で開かれたインド太平洋を支持し、力または威圧による現状変更のいかなる一方的な試みにも反対することを表明した。G7はまた、核兵器のない世界を実現し、核不拡散条約(NPT)を維持することを誓った。しかし、広島の被爆者は、G7の核保有国が核兵器の削減や核抑止に対する姿勢の変更について何も言わず、核廃絶に向けたロードマップを何も提示しなかったことに失望を表した。

 サミットにはインドや他のグローバルサウス諸国が招待されたが、ロシアを孤立させ、米国が主導するルールに基づく秩序を推進し、民主主義を独裁主義に対抗させるキャンペーンに賛同を得ようとする米国の努力は、グローバルサウスではほとんど成功を収めなかった。

 6月3日、日本の浜田靖一防衛相が、東アジアにおいて紛争を防止し、平和と安定を維持するために、抑止と対話を組み合わせて用いるよう国際社会に呼びかけた。「今、国際社会は『対立・不和』と『協力・調和』の岐路にある」「力や威圧による一方的な現状変更の試みが、特に海洋において進展している」と彼は述べた。さらに、「意思疎通の強化によって誤解や誤算を回避しつつ、対話による信頼醸成の促進を目指す努力も不可欠だ」と加えた。この努力の一環として、日本と中国は防衛当局間を結ぶホットラインの運用を開始した。この措置は、海上や上空の偶発的衝突を防止するためのより広範な2国間の意思疎通メカニズムの一部である。

 浜田が望むように、この抑止と対話の組み合わせが対立と紛争の回避に成功するかどうかは、今後を待たねばならない。

 6月半ば、ブリンケン米国務長官が北京で習近平主席と会談した。これは、4月に米国が中国の気球を撃墜した後、対話を再開し、米中関係にガードレールを設定しようとする努力であった。両国は、あからさまな敵意を避ける必要性、気候変動のような問題に関する協力の範囲、トップレベルの対話の重要性については合意したが、軍同士の対話に関する米国の申し出は拒絶された。

 同時に、中国人民解放軍のミサイル増強と極超音速ミサイル開発を受けて、米国はアジア太平洋に所在する基地の脆弱性を低減させるため、軍事資産の分散化と臨時航空基地の設置に動いている。

 習近平は、それより前の5月30日に行われた国家安全保障をめぐる幹部会議において、「われわれは最悪の極端なシナリオに備えなければならず、強風、荒波、さらには危険な嵐という大きな試練に耐える用意ができていなければならない」と国民に警告した。1週間後、内モンゴルで開催された会議で、彼は「極端な状況下でも国家経済の正常な運営を確保する」ためには、国内経済を強化する努力が必要だと述べた。中国は、今後5年間で、外国の市場や技術への依存度を低減した強靭な経済を構築する計画である。

 アイザック・B・カードンの新著「China’s Law of the Sea: The New Rules of Maritime Order」(Yale University Press, 2023) によると、中国は、南シナ海と東シナ海で海洋法を書き換えようとしている。九段線の内側の海域に対する主権を強く主張することによって、中国は国際海洋法の規定を否定し、中国の歴史的優先権を海洋法が無効にすることはできないと論じている。中国は、自国海岸付近の公海を外国軍艦が通過することに異議を唱えており、また、海洋法の紛争解決制度による判決を拒絶している。しかし、中国は海洋法条約の締約国であり続けており、米国は条約の批准を拒否している。従って中国は、国際海洋法裁判所の裁判官を選任し、制度の進展を方向付けることができる。このようにして中国は東アジア秩序のルールを作り直そうとし始めているといわれている。

 米中関係の悪化は、この地域における他の関係を再編成しつつある。日本と韓国は両国関係を修復しようとしているが、中国と韓国の関係は尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の就任後に悪化した。在韓中国大使は、米国の味方をしているとして韓国国民を脅したと報道されており、中国に対する韓国の国民感情はかつてないほど低下している。

 台湾海峡で、中国の駆逐艦が米国の駆逐艦に150ヤード(約137メートル)以内まで接近し、米国はこれを危険な行動と評した。一方中国は、東南アジア諸国とインド太平洋諸国に対し、グローバル安全保障イニシアティブに加わり、ブロック側につくのを避け、いじめや覇権よりも相互信頼を推進するよう訴えた。台湾では、2024年に行われる総統選挙の新たな対抗馬、台湾民衆党の柯文哲(カ・ブンテツ)が、与党・民進党のスキャンダルによる恩恵を享受している。彼は、海峡を超えて中国と政治的・経済的に関与することを主張している。

 それでもなお、この地域における国家間関係の険悪化傾向を食い止める機会は明らかにある。戸田記念国際平和研究所がG7サミットと同時期に開催した政策検討会では、紛争を防止し、協力と人間の安全保障を強化するために、勢力図の変化や、グローバルガバナンスにおける新たな規範や改革の範囲について議論がなされた。政策検討会の概要報告は、こちらで読むことができる。

ヒュー・マイアルは、英国・ケント大学国際関係学部の名誉教授であり、同国最大の平和・紛争研究者の学会である紛争研究学会の議長を務めている。ケント大学紛争分析研究センター所長、ケント大学政治国際関係学部長、王立国際問題研究所の研究員(欧州プログラム)を歴任した。マイアル教授は戸田記念国際平和研究所の上級研究員である。