Contemporary Peace Research and Practice スタイン・トネソン(Stein Tønnesson)  |  2021年07月23日

ミャンマーのパンデミック:国連が行動を起こせ!

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 ミャンマーで新型コロナの検査を受けた人のうち、3分の1を超える人の陽性が判明している。ヤンゴンの火葬場では全ての遺体を処理できない状態である。2月1日のクーデター以来、多くの保健従事者がストライキを続けている。彼らが自発的に人々を助けようとすると、逮捕のリスクを冒すことになる。ソーシャルメディアには酸素を求める必死の声があふれている。

 これが、政府のない国で起きていることだ。軍による国家行政評議会(SAC)も、昨年11月に選挙が行われた議会を代表しようとしている国民統一政府(NUG)も、パンデミックと闘うために必要な手段を持っていない。NUGは、新たな保健対策部門の設置を宣言したところだが、秘密政府ができることはそのくらいである。ミャンマー国軍(タッマドゥ)は、同国最高の病院を確保しているが、それは主に軍人たちのためである。ヤンゴンのある軍病院では職員の間で新型コロナの感染急拡大があった。

 ベンガル湾に面したラカイン州の大部分においては、昨年11月の国軍との非公式停戦の恩恵を受けている反乱勢力のアラカン軍(AA)が、新型コロナとの闘いを主導している。重大な疑問は、2016年から2017年にバングラデシュから追放されず、ラカイン州北部の町に残っている40万人から50万人のロヒンギャの健康上のニーズに誰か対応しているのか?ということだ。カレン、カチン、カレンニ、シャンおよびチンの各州、さらにサガインなどの地域でも、国軍と地元の武装勢力との戦闘が継続している。英字誌『フロンティア・ミャンマー』によれば、カチン州の町パカントでは先週、軍当局が戒厳令を発した後、軍が二つの村を砲撃し、住民が避難を余儀なくされた。武装民族グループの上官2名、ラカインのAA幹部1名と、民主カレン慈悲軍(DKBA)の総司令官が新型コロナのため今週死亡したと報告されている。

 多くの地域で、いまや地方行政は機能していない状態だ。SACが軍に忠誠を誓う人々とともに、合法的な村や地区の行政官に取って代わろうとすると、地元の人々はしばしば軍の任命官を脅迫または暗殺する形で反応する。このような人々の怒りにより、複数の軍任命官が辞任し、そのあとには行政が空白となるか、秘密政府の首脳部が残るが、中央当局との繋がりがない状態で取り残されてしまう。

 パンデミックは、ミャンマーの人口を減少させ、2月のクーデター以来、日々悪化している社会・経済の危機をさらに深める恐れがある。国際労働機関(ILO)は、ミャンマーでは今年120万人が失業したと推定する。昨年はパンデミック初期のためにさらに多くの失業件数があったが、さらにこの数が加わるのだ。その悲惨な状況のなか、ミャンマーは新たな変異種の培養地となり、近隣の国々に感染を拡大しかねない。タイ北部のチェンマイおよびメーソートでは、既に相当数のミャンマーからの越境者の陽性が判明している。中国は、雲南省においてミャンマーに行ってきた人々の感染例を報告しており、国境の一部に電気フェンスを建設中である。日本は、ミャンマーから入国する人全員に6日間の隔離施設滞在と2回の検査を義務付けることを発表した。

 ミャンマーは、自分たちでは状況に対処できない。緊急に人道介入を行なう必要がある。国連事務総長および、その特使とまだ任命されていないASEANの特使は、非政治的な緊急委員会がパンデミックへの対応に従事することをミャンマー軍に認めさせる取り組みに対して、隣国である中国、ラオス、タイ、バングラデシュおよびインドを巻き込み最善を尽くすべきだ。この緊急委員会は、国連または世界保健機構(WHO)が任命する保健の専門家が主導すべきで、SACおよびNUG、ならびにミャンマーの主な政治団体、特にNLD、USDP、さらに主要な民族の代表者らと協議する権限を与えられなければならない。また、感染予防策を決定し、ミャンマーの人々とのコミュニケーションにソーシャルメディアを使うための全面的な自由を有する、強力な事務局を備える必要がある。この委員会が機能するために必要な条件は人道的な一時的停戦であり、タッマドゥならびに全ての民族武装勢力や自警団は停戦を誓約し、尊重するべきだ。

 以下は、7月18日に国連およびEU高官経験者のグループ(チャールズ・ペトリ―、レティティア・ファン・デン・アッスム、ロバート・クーパー、ギー・バニム、ショーン・ファレン、イアン・マーティン、マイケル・ドイル)が発表した、国連への5項目の勧告である:

  1. 国連事務総長による調査。その目的は、i) 新型コロナ対応を阻害している武力紛争の影響およびその結果としての人的損失を評価し、ii) かかる阻害要因を取り除き、ワクチン接種を可能とする一時停戦を実現するために必要な手段を明確化すること
  2. ミャンマー軍に対し、医療関係者および医療施設を含む民間人およびインフラに対する作戦の停止を求める。また、人道的停戦の遵守状況を監視する、効果的で信頼できる仕組みを構築する国際支援の提供
  3. ミャンマー国民が信頼できるワクチン接種プログラムを含め、新型コロナ対応の取り組みを調整するための、あらゆる事業体およびサービス提供者、特に民族行政体、市民社会団体および地方政府といった地方における業務能力を有する当事者と協働する支援調整機構の創設
  4. ミャンマー国外からの空路を通じた十分な人道支援ラインを緊急に開設し、各地の調整機構を通じて支援物資を供給すること
  5. ミャンマーの5つの隣国(中国、タイ、ラオス、インドおよびバングラデシュ)と連携し、共同して人道支援をサポートする体制を創設する

 最近のシリアにおける人道回廊の確保について、全会一致の賛成を得た成功事例に触発を受けるように、関係する全ての政府がこれらの勧告を早急に支持し、国連事務総長が安保理の強力な付託に基づき、積極的に国連を動かすことが不可欠だ。

スタイン・トネソン(Stein Tønnesson)は、オスロ国際平和研究所(PRIO)研究教授、ジャーナル・オブ・ピース・リサーチ誌アソシエイト・エディター(アジア担当)、グローバル・アジア誌編集委員。研究分野は東アジアの平和、東南アジアの国家構築、南シナ海の紛争、ベトナムの革命と戦争、ミャンマーの国内武力紛争におけるソーシャルメディアの役割。2011~2017年にはウプサラ大学東アジア平和プログラムの責任者を務め、その成果として、Explaining the East Asian Peace (NIAS Press 2017) を刊行。2018~2020年には、ミャンマー平和安全研究所(MIPS)と武力紛争におけるソーシャルメディアに関するプロジェクトを共同で行った。そのプロジェクトに基づく最初の論文がジャーナル・オブ・コンテンポラリー・アジア誌に受理された。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。