Climate Change and Conflict アセム・マヤール  |  2025年04月03日

取り残されたアフガニスタン:なぜ自国だけで気候変動に対処できないのか

「私たちには全ての国に対応する資金はない。援助は大幅に削減された。各国は鉱物などの自国の資源を活用して、気候変動に取り組むべきだ」。

 私が最近参加した2つの会議において、西側の代表者が述べたこの発言は、国際的な気候資金をめぐるナラティブの変化を反映している。経済的制約に直面している先進国は、途上国が自国の天然資源、とりわけ鉱物資源を通じて気候変動対策の資金を調達すべきだと主張するようになっている。しかし、このアプローチはアフガニスタンのような脆弱国においては非現実的であり、統治能力、財務基盤、安全保障に関する課題がその実行をほぼ不可能にしている。

 アフガニスタンは、チャド、南スーダン、ソマリア、ニジェール、マリ、イエメン、エチオピア、ウガンダ、イラクと並んで、これまで十分な気候資金を受けることができなかった10カ国の一つである。これらの国々は深刻な気候リスクに直面しているにもかかわらず、国際的な気候資金メカニズムは必要な資金をほとんど提供できていない。気候適応資金指数(Climate Adaptation Finance Index: CAFI)2024によれば、途上国の90%は、気候リスクに見合った気候適応資金を受け取っておらず、アフガニスタンをはじめとする7か国は、気候リスクが最も高いカテゴリーに含まれている。

 気候災害は、アフガニスタンに甚大な経済損失をもたらしてきた。2024年5月にバグラン州で発生した鉄砲水は、315人を超える死者と2千棟を超える家屋の損壊をもたらし、同国の極度な脆弱性を浮き彫りにした。人道的被害だけでなく、このような災害は経済にも壊滅的な影響を与えてきた。アフガニスタン経済の基盤である農業は、干ばつや洪水によって繰り返し重大な打撃を受け、その結果、食料不安が深刻化し、さらに多くの人々が貧困に追いやられている。

 アフガニスタン・アナリスト・ネットワーク(AAN)の報告書によれば、アフガニスタンにおける気候関連の経済損失は、通常の年で5億5,000万ドルに達し、深刻な干ばつ時には年間30億ドルを超える。これは、同国GDPのおよそ3.2%から18%以上に相当する。2023年におけるアフガニスタンの国家予算がわずか27億ドルに過ぎず、基本的な政府機能をかろうじて維持し得る水準であることを考えると、この損失規模は衝撃的である。一方、アフガニスタンの「国が決定する貢献(NDC)」は、2021~2030年の間に、適応策および緩和策のために年間17億ドルを要すると推計していた。しかし、タリバンによる権力掌握以降は何の進展もないことから、この数値は、2026~2030年を対象とする2025年の改定に反映される可能性が高い。これだけの資金を確保できる可能性は、ますます低くなっているようだ。

 外国援助の代替案としてしばしば挙げられるのが、1兆ドル以上と推計されるアフガニスタンの未開発の鉱物資源である。しかし、さまざまな要因から、これを気候変動対策資金の解決策とするのは現実的ではない。 第1に、アフガニスタンの鉱業部門は大幅に開発が遅れており、専門知識、インフラ、規制の枠組みを欠いている。タリバン支配下では、機能する憲法すら存在しない。ロガール州のメス・アイナク銅山の失敗は、鉱業収入に依存することの困難さを浮き彫りにしている。同鉱山は世界で2番目に大きな銅鉱床であり、中国企業MCCと契約を結んでいるにもかかわらず、アフガニスタンに収益をもたらすまでには至っていない。タリバンは中国企業側に操業を開始するよう圧力をかけ、式典まで行ったものの、目立った進展は全く見られない。

 第2に、大規模な鉱物採掘には長期的な投資が必要だが、現在のアフガニスタンの政治的環境においてそれは望みにくい。国際的に承認されていないタリバン政権は制裁に直面しており、政権交代後の専門家の大量流出によって同国の技術力はさらに弱体化した。

 最後に、アフガニスタンのパキスタン向け石炭輸出でさえ、資源採取に依存することの限界を如実に示している。石炭輸出量は増えているにもかかわらず、得られる収入は依然として国家予算にも足りないほどであり、ましてや気候変動対策の資金調達どころではない。アフガニスタンが最低限の支出の資金調達にさえ苦労しているのを見れば、鉱物資源のみによって大規模な気候適応策を資金的に支えることを期待するなど現実的ではない。

 援助の削減は、まさに気候資金を増加すべき重要な時期と重なっている。COP29では2035年までの資金拡大に向けた野心的な目標が掲げられたが、これらの約束は今や危機に瀕している。米国がパリ協定から離脱し、ドナー国が開発援助を次々と削減している今、世界で最も脆弱な国々への支援がさらに危険にさらされている。

 十分な気候資金が提供されないことで、「無害」原則を含む、気候変動および災害リスク削減に関する国際合意の信頼性が損なわれている。アフガニスタンは、多くの後発開発途上国と同様、世界の温室効果ガス排出量にはほとんど寄与していないにもかかわらず、気候変動によって不釣り合いなほど大きな被害を被っている。

 さらに、十分な資金がなければ、2030年持続可能な開発目標(SDGs)の達成はほぼ不可能になるだろう。気候レジリエンスは、いずれも主要なSDG目標である経済の安定性、食料安全保障、災害対策にとって極めて重要である。財政的支援がなければ、脆弱国はさらに取り残され、世界的な不平等はさらに悪化するだろう。

 脆弱国の政府が気候資金にアクセスする際に直面する課題、特に技術的能力の不足を考慮すると、分散的なアプローチの方がより有効となるかもしれない。気候適応プロジェクトを実施するため、国際的ドナーや開発機関は中央政府のみに依存するのではなく、現地コミュニティー、市民社会組織、国内NGO、地域機関といった多様なステークホルダーと連携していくべきである。

 このアプローチは、完全な解決策ではないにせよ、少なくとも近い将来における気候変動からの圧力を軽減し得る、小中規模の気候適応プロジェクトへの資金供給に資するかもしれない。そのような行動を起こさなければ、気候への影響は制御不能に陥り、将来的な介入は一層高コストかつ非効果的なものとなるであろう。

 ドナー国が経済的制約に直面しているとはいえ、援助の削減はアフガニスタンのような脆弱国ではなく、国内収入を生み出す能力を有した中所得国を対象とするべきである。気候に対して最も脆弱で経済的にも弱い国の一つとして、アフガニスタンは支援の対象として引き続き優先されなければならない。同国にとって気候危機は単なる環境問題ではなく、経済的および人道的緊急事態なのである。

 アフガニスタンが自国の資源を用いて気候変動に対処できるという考えは、危険な誤解である。同国の財政的制約、統治上の課題、安全保障上のリスクが、その実現を不可能にしている。援助の縮小を受けて、国際社会は気候資金における脆弱国の優先性を早急に認識するべきである。

 最終的に、気候正義とは、最も脆弱な国々が必要とする支援を受けられることを要請する。アフガニスタンのような脆弱国を支援しなければ、国の危機が悪化するだけではなく、気候変動との闘い全体を弱体化させ、強制移住や安全保障上の脅威といった深刻かつ広範な影響をもたらすことになるだろう。今こそ断固とした行動を起こすべきである。

M・アセム・マヤール博士は、気候変動の専門家であり、アフガニスタンのカブール工科大学の元講師である。現在はドイツを拠点とする独立した研究者である。@assemmayar1としてXに投稿している。