Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ハルバート・ウルフ  |  2025年05月08日

カシミール:戦争へエスカレーションか?

 カシミール地方のインド支配地域で武装グループがテロを起こした2週間後、インド空軍はパキスタン領内への空爆を開始した。米国、ロシア、中国、そして恐らく他の国々も巻き込む可能性のある戦争が今、迫っているのだろうか?

 これまでニューデリーとイスラマバードの両政府は、カシミールでのテロ攻撃に対して、外交官の引き揚げ、国境検問所の閉鎖、処罰についての話し合い、インドによるインダス川水利条約の停止など、自制的な対応をしてきた。しかし、インド政府は報復を示唆していた。ニューデリーによれば、5月7日に実施された多数の空爆「シンドゥール作戦」は、攻撃が「計画され、指示」された「テロリストのインフラ」を排除することを目的としている。今や核保有国同士が対立しエスカレートしているように見える。インドとインドが支配するカシミールで2機の戦闘機が墜落したと伝えられている。パキスタンは、2機を撃墜したと主張している。双方に死者、負傷者、破壊が発生している。

 パキスタンのシャバーズ・シャリフ首相も今や「適切な措置」による報復を発表した。パキスタン政府はいかなる関与も否定し、インドの空爆を「不当かつ露骨な戦争行為」であり、「パキスタンの主権の侵害」であると述べた。パキスタンの軍事専門家は、墜落した戦闘機の1機はフランスの最新型ラファールだったと主張している。この機種は2022年からインド空軍で運用されており、同じフランスのメーカーであるダッソー・アビエーションが2000年代半ば以降製造している旧式のミラージュ戦闘機も同様に運用されている。双方の死傷者の報告は食い違っている。インドはパキスタンの標的を破壊したが、戦闘機も数機失った。特に痛手だったのは、フランス製のラファールが撃墜されたのは、どうやらパキスタンが中国から輸入したJ-10戦闘機によるものだったということだ。

 実際にフランスの戦闘機だったのかどうかはまだ分からない。この衝突は確実に、武器供給国や同盟国といった他のどの国がこのエスカレートする紛争に巻き込まれる可能性があるのかを明らかにしている。

 ロシアのウクライナへの全面侵攻以来、インドはロシアに対して「中立」であると繰り返し批判されてきた。その理由の一つは、インド軍がロシアからの武器や予備部品の供給に依存していることにある。この側面は、より大きな構図の一部にすぎない。20年前、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、インドが輸入した全武器の約4分の3はロシアからのものだった。インドの兵器輸入には、インドでライセンス生産されたソ連の兵器も含まれていた。今日では、状況は全く異なっている。2005年に米国とインドの関係が改善し、中国との競争においてインドが米国の潜在的な同盟国とみなされるようになって以来、インドは欧米諸国から武器を購入することが増えている。インドは世界最大の武器輸入国であり、近年は近代的な装備に数十億ドルを費やしている。

 ロシアからの武器輸入が2012年から2013年にかけてピークを迎えて以来減少しているのは、単一の供給国への依存を減らすための意識的な決断である。それはロシアに対してというよりも、供給源の多様化に向けられている。しかし、この方向転換は数十年にわたるプロセスであり、主要な兵器システムを購入するという決定は、通常、協力パートナーを長期にわたって拘束する。今日に至るまで、インド空軍は60年以上前に調達が決定されたソ連製戦闘機MiG-21を近代化して使用している。

 インド軍の兵器の約半分は、今でもこの協力関係に由来している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、テロとの闘いにおけるモディ首相への「全面的な支援」を最初に確約した一人であり、最近のカシミールでのテロを「野蛮」と表現した。それにもかかわらず、インドはロシアの武器供給への依存度を減らそうと努力している。現在インドにとって第2位の武器供給国であるフランスのほか、残りの武器、特に近代的な防衛技術はイスラエル、米国、ドイツからのものである。

 パキスタンでは逆の傾向が見られた。米国は何十年にもわたってパキスタンを大規模な軍事援助で支援し、1971年のバングラデシュ独立戦争ではパキスタンの味方だったが、今やパキスタンの主要な武器供給国となった中国に取って代わられている。20年前、パキスタンは武器の約3分の1を米国から輸入しており、その中には最新のF-16戦闘機も含まれていた。もう3分の1は中国から輸入していた。現在、パキスタンの主要な武器輸入の80%以上は中国からである。現在の紛争において、中国政府は「南アジアの平和と安定を確保する」ためにイスラマバードを「常に支援する」と表明している。

 1947年のインド亜大陸分割以来、カシミールは紛争の火種となってきた。分割時、イスラム教徒が多数を占めるジャンム・カシミール地方については、最終的な決定は下されなかった。統治者であるヒンドゥー教徒のマハラジャは当初独立を望んでいたが、パキスタンの反乱勢力が侵攻した際にインドに軍事支援を要請した。この結果、カシミールのインド支配地域とパキスタン支配地域の間には現在も分断が存在しており、インド側には依然として分離主義の傾向が見られる。

 エスカレーションの連鎖につながる可能性のある対立には、少なくとも四つの紛争レベルがある。第1段階は、カシミールのインド支配地域で何年にもわたって行われてきたテロ攻撃であり、インドは繰り返しパキスタンを非難している。攻撃が緊張や衝突につながったことも何度かあった。2016年にインド兵19人が殺害された際、インド軍は国境を越えて「外科的攻撃」を実行した。その3年後、爆弾攻撃で40人が死亡した。インドはパキスタンの内陸奥深くへの空爆で応じた。軍事衝突は限定的なものにとどまった。

 紛争・エスカレーションの第2段階は、両交戦国間の大規模軍事衝突の可能性である。インドとパキスタンは1947年から1949年にかけてカシミールをめぐって戦争を行ったが、1965年と1999年にも、そして1971年にも東パキスタン(現在のバングラデシュ)の分離独立をめぐって戦争を行った。しかし、これらの戦争もカシミール問題の解決に至らずに終わった。

 第3段階として、1950年後半にジャワハルラール・ネルーと毛沢東のもとでインドと中国の間の反植民地主義的友好関係が終了して以来、ヒマラヤ山脈の三つの国境地域で続く紛争がある。両国は1962年に激しい戦争を繰り広げ、インドの敗北に終わった。それ以来、何度か軍事衝突があり、直近では2020年に起きた。双方は、互いに既存の合意に違反していると非難している。どちらも、自国の領土をたとえほんのわずかでも手放すつもりはない。習近平とナレンドラ・モディの間の最高首脳レベルでさえ、国境紛争を解決しようとしたこれまでの試みは全て失敗に終わった。両国は競争と対立を特徴とする関係にある。

 最後の第4段階として、武器供給国や同盟国といった対外的に関与している国が紛争に巻き込まれる危険がある。中国はパキスタン寄り、ロシアと米国はインド寄りの立場を取っている。これまでのところ、両国政府に自制を求め、調整役を務めている。彼らの呼びかけが十分な影響力を持ち、新たな大規模な戦争を回避することが期待されている。双方は報復措置を取ってきたが、報復措置を激化させる可能性は排除できない。

ハルバート・ウルフは、国際関係学の教授であり、ボン国際紛争研究センター(BICC)元所長である。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学・開発平和研究所の非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所の研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会の一員でもある。