Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ハルバート・ウルフ  |  2024年11月21日

ウクライナ戦争終結の機は熟したか?

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 ドナルド・トランプ米国次期大統領は、ウクライナ戦争を1日で終わらせたいと考えている。それは、何度も強調してきたことだが、どうやって終わらせるかは口にしていない。ウクライナの地で交わされている激しい戦闘をよそに、交渉がうまくいく見込みが現在あるのだろうか? 交渉の「機が熟するとき」は近いのか?

 戦争は衰えることなく続いている。終わりは見えない。われわれは、ドナルド・トランプがこの戦争を終わらせるためにウラジーミル・プーチンとの個人的関係を結ぶことを期待できるだろうか? ドイツのオラフ・ショルツ首相とプーチンが11月15日に行った2年ぶりの電話会談は、甘いものではなかった。なぜなら、プーチンが「交渉の準備はあるが、こちらの条件に合わせろ」という既に知られている立場を改めて主張しただけだからである。言い換えれば、「新たな領土の現実」と「ロシアの安全保障上の利益」を認めろということである。具体的に言えば、ロシアが一部を占領しているウクライナ東部4州とクリミアの割譲を意味する。ショルツは、「公正かつ永続的な平和」を目指した交渉を呼びかけたが、その主眼はロシア軍の撤退である。

 ロシアの攻撃とウクライナの防衛は消耗戦へと発展し、現時点での軍事的優位性はロシアにある。ロシアの戦略は、軍事的勝利を目的とするエスカレーションと表現できるだろう。これまでのところ、ウクライナとその支援国は激しい抵抗をもって反応してきた。西側は、より効果的な兵器を供与し、勝利はなおも可能であると信じて支援を拡大してきた。しかし、彼らの間ではある種の疲弊感が高まっており、トランプは米国からの莫大な支援がもう来ないことを明確にした。

 ウクライナ戦争の帰結はどうなるのか、そして、死者が増える一方のこの戦闘に代わる選択肢は何か? 今、交渉するべきか? 軍事的勝利のない和平はありえるか? しかし、どちらの側も本格的な交渉を行う準備はまだできていない。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ショルツのイニシアチブを快く思ってはおらず、宥和政策だと述べた。そのような電話会談は、プーチンの国際的孤立を和らげるものだからでもある。

 米国の政治学者ウィリアム・ザートマンは、交渉を成功させる前提条件として必要な紛争の「成熟度」について語っている。ザートマンによれば、「機が熟する」という概念の中心は、敵対国同士が「痛みを伴う膠着状態」を認識することにある。軍事的勝利は不可能であり、戦力、すなわち兵士と兵器はもはや十分ではないということを双方が自覚したとき、交渉しようとする意志は高まる。気が滅入るような結論であるが、戦争が千日近く続いている現在も、そのような機運はロシアにもウクライナにも見られない。しかし、双方で増加している兵站上のボトルネック、そして、代わりのきかない、取り返しのつかない、永久的な損失は、恐らく紛争が交渉に向けて成熟していくプロセスにあることを示しているのかもしれない。ロシアでさえも、現行の領土奪取を進めるなかで、死傷者の交代要員を補充することはできていないようだ。約1万人の北朝鮮兵がロシアに派兵されたことを受けて、クレムリンは膨大な損失を埋めることができるのかという疑問が生じている。

 四つのシナリオが考えられるが、いずれも理想的な解決策からは程遠い。

 第1に、多大な破壊と人命の犠牲を出しながら3年近く続いている戦争が、終わりの見えないままさらに数年続くことは考えられなくもない。

 第2に、ドナルド・トランプが実際にウラジーミル・プーチンと取り引きをし、恐らくはウクライナを犠牲にする可能性もある。トランプは駆け引きを信奉している。ロシアはウクライナ国内のロシア軍占領地を受け取り、この境界に沿ってウクライナ国内に非武装地帯が確立され、ウクライナは安全保障の確約を受け(NATO、国連、または中立国のグループにより)、平和条約の締結は後になるまで延期されるだろう。そして、「後になるまで」とは、平和条約を結ばないまま何十年も経つことを意味するかもしれない。

 第3に、一方が軍事的勝利を収めるかもしれない。可能性は低いが、全くあり得ないわけではない。クレムリンはこの可能性を固く信じており、ここ数週間の領土奪取によって意を強くしている。同時にロシアの指導者層は、2022年2月にウクライナへの全面的侵攻を開始した当初、ウクライナの抵抗意志を過小評価しており、その後、キエフの政権転覆とウクライナのロシア連邦への併合という戦争目的を大幅に限定せざるを得なくなった。

 第4のシナリオは、停戦と紛争凍結である。真の解決を見ないまま凍結状態にある紛争は、数多くある。近年では、ウクライナ戦争に関して同様の解決策を検討するために、朝鮮半島の状況が何度も取り上げられている。このシナリオが、恐らく最も可能性が高いだろう。

 当然ながら全ての紛争はそれぞれ異なり、個々の状況も異なっている。それでもなお、ウクライナの将来を考える糸口となりそうな紛争のパターンと紛争解決のパターンが、どちらもあるかもしれない。米国のジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院の歴史学者であるセルゲイ・ラドチェンコは、ウクライナ戦争が始まった1年後にニューヨーク・タイムズの論説記事で朝鮮戦争との類似点を指摘している。70年以上前の1953年7月、休戦協定が結ばれて非武装地帯が確立されたことにより、朝鮮戦争は凍結され、朝鮮は二つの国に分割された。

 米国で最も影響力のある政治学者の一人であるジョセフ・S・ナイは近頃、「ウクライナにおける勝利とはどのようなものか?(What Would Victory in Ukraine Look Like?)」と題する記事で「朝鮮戦争式解決」を挙げた。「ウクライナが定義する勝利が、2014年以降ロシアに占領されている全ての領土の奪還であるなら、勝利の目途はつかない。しかし、最終的な領土返還を求める権利を留保しつつ、欧州と結び付きがある繁栄した民主主義国家として独立を維持することを目指すのであれば、勝利はなおも可能である」と、彼は書いている。朝鮮戦争も、1950年から1953年まで紆余曲折があった。現在ウクライナで起こっていることと同様、北側も南側も、それぞれの支援国も、軍事的勝利に希望を持っていたがゆえに戦争を早期に終結させる準備がなかった。1953年7月の朝鮮戦争休戦協定は、38度線で国を分割し、戦争前の状態を回復することを定めた。朝鮮は今もなお南北に分割された国であり、紛争は凍結されたままである。平和条約は締結されず、南北境界に沿ったいわゆる非武装地帯は、世界で最も重武装された国境の一つである。平和条約を結ぶことなく、恒久的停戦に至ったのである。

 「朝鮮戦争式解決」の支持者らは、破壊と人命の犠牲が終結し、韓国はいまや強靭な民主主義国家となり、新興経済国となっていると指摘する。ウクライナではそれと同じように、民主的発展と西欧への統合が後に続くと考えられる。

 そのような解決策に対して批判的な人々は、朝鮮戦争の休戦を「解決にあらず」と言う。スイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校の陸軍士官学校で研究を行っているスイス人歴史学者ローランド・ポップは、この朝鮮戦争式解決には「40年にわたる世界で最も野蛮な独裁政権の一つ、何万人もの市民の大虐殺、…あるいは韓国版CIA部長による1979年の大統領暗殺も伴っていた」と書いている。さらに、西欧が負う膨大なコストと不確実性を指摘している。

 1953年、中立国監視委員会が朝鮮半島に設置された。70年以上にわたって休戦協定が存在するなかで、境界線付近では無数の軍事的小競り合いが起こっている。北朝鮮の核兵器計画は脅威であり、それと同じように北朝鮮は韓国と米国の軍事同盟を脅威と呼ぶ。まさしくその理由から、この休戦協定が多大な損害を伴う新たな戦争を70年以上にわたって防いできたことは注目に値する。欧州の状況に朝鮮戦争式解決を適用した場合、その結果として恐らく、朝鮮半島の例と同様、冷戦初期のような軍拡競争が生じるだろう。

 ウクライナ戦争を終わらせるために、例えばインド、南アフリカ、ブラジル、スイスのような中立国も重要な役割を果たし得る。ウクライナで当事国のどちらも目立った戦果を挙げられなければ、停戦は不可能ではないだろう。恐らく、ウクライナがロシアに占領された全ての領土を回復することはないだろう。ロシアは、現に掲げている目的を放棄したとしても、面子を保つためにそれを部分的勝利と解釈する可能性がある。紛争は凍結されるだろう。好ましい結果とは言えないが、それでも戦争が終わる。武力戦争よりは凍結された紛争のほうがましである。しかし、凍結された戦争の歴史を見れば、それらがいつでも武力戦争に発展し得ることが分かる。ウクライナの場合は、不公平な解決を強要すれば、ウクライナ人パルチザンの抵抗運動が起こる可能性がある。

 考え得る5番目のシナリオは、ロシアとウクライナが協定を結ぶことによる、国際法に基づく拘束力を有する和平合意であるが、これは今のところ全くあり得ないと思われる。

ハルバート・ウルフは、国際関係学の教授であり、ボン国際紛争研究センター(BICC)元所長である。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学・開発平和研究所の非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所の研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会の一員でもある。