Cooperative Security, Arms Control and Disarmament リディア・カリル  |  2024年04月19日

イラン対イスラエル: エスカレーションの試算

Image: Stigura20 /shutterstock.com

 この記事は、2024年4月17日にローウィ研究所により「The Interpreter」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。

 イランによる週末(2024年4月13日)のイスラエル攻撃は阻まれたが、その影響をどのように計算するべきだろうか?

 中東で起きたその週末の出来事により、長年にわたるイスラエル・イラン間の陰の戦争に注目が集まり、ガザ紛争が地域戦争に拡大するのではないかという懸念が高まっている。イランとその代理勢力は、イスラエル領土に対するイランによる初の直接攻撃において多数の無人機とミサイルを発射した。これは、先にイスラエルがダマスカスのイラン大使館別館を攻撃し、革命防衛隊の幹部司令官らを標的として殺害したことへの報復として行われた。イスラエルの戦時内閣は、どのような対応を取るかを検討するためにこの数日間を費やしてきた。

 近頃の出来事は、主要当事国であるイラン、イスラエル、米国のいずれにとってもエスカレーションは利益にならないにもかかわらず、この地域が地域戦争に向かって「ゆっくり行進」しているのではないかという懸念を浮き彫りにする。

 この紛争における多くの側面と同じように、その動きはニュートンの第3法則に反しているようだ。イスラエルやイランのそれぞれの行動に対し、必ずしも等しい大きさの反応が生じるとは限らない。むしろ、各行動に対しては多様な反応が生じている。重要なことは、どの逆方向の衝撃が相手の衝撃を打ち負かす、あるいは打ち消すかを判断することではなく、それらが同時に発生していると認識することである。

 イランはイスラエルに対し前例のない攻撃を仕掛けておきながら、イランの体制はこれ以上のエスカレーションを望んでいないという明白なシグナルを発している。イランは、イスラエルと近隣アラブ諸国に対して攻撃の事前警告を行ったと主張し、攻撃後には、イランの国連代表部が「事態は終結したと見なし得る」という声明を公表した。

 同様にイスラエルも慎重な姿勢を示しており、タカ派の悪名高いベンヤミン・ネタニヤフ首相や強硬な右派閣僚らが即時対応を求めているにもかかわらず、今のところは「しかるべき時が来たら」対応すると述べている。このイスラエルの重しとなっているのが、ジョー・バイデン米大統領が米国はイランに対するイスラエルの報復行動には参加せず、支援もしないとストレートに警告していることである。

 しかし、イスラエルに対するイランの直接攻撃は同時多発的な逆影響を生じさせるため、エスカレーションのリスクは残っている。

 ガザにおける行動と軍事作戦をめぐり、イスラエルに対する国際的圧力が高まっている。民間人の死者数、さらなる人道上の影響、軍事行動の明確な戦略目標の欠如は、イスラエルの国際的孤立を深め、主要同盟国との関係を悪化させている。

 しかし、もしイランがその主張通りハマスの野心を支持し、パレスチナ人を擁護するというなら、今回の攻撃は判断ミスである。それはガザでの軍事行動から注意をそらし、イスラエルに対する国際的支持と同情を集め、対ハマス作戦でより自由な行動をイスラエルに許すことになった。

 その一方で、イランの攻撃によって、イスラエルの対ハマス作戦の難しさは持続し拍車がかかっている。その最も明白な理由は、イスラエルの注意がガザでの軍事作戦と対イラン報復の準備に分割されているからである。イランに気を取られている今、ラファでの軍事作戦は延期され、ハマスに一息つく余裕を与えている。

 イランがイスラエルを直接攻撃する危険を冒したという事実は、イランに関するイスラエルの戦略的正統性の欠陥を露呈した。イランに対する抑止は強圧的な措置が最も効果的であり、イランを強く叩けば叩くほど、相手は抵抗しなくなるというものだ。

 イスラエルは、防衛体制が意図された通りに機能し、イランから発射された無人機やミサイルの99%を迎撃したと誇った。しかし、最近の報道では、空からの攻撃のほとんどがイスラエル領空に到達すらしないうちに米軍の共同軍事行動に阻止されたことが示唆されている。対応の選択肢を検討する際のイスラエルの及び腰も、これによって説明がつく。イスラエルの防衛戦略に関する立場に変化が生じており、ダマスカスのイラン大使館構内への攻撃を、イスラエルの元高官らが判断ミスであるとして非難している

 しかし、実際のところ、イランの報復はそこまで強力なものだったのだろうか? 発射された兵器の半数以上が失敗に終わっている。イランにとって、ヒズボラのような代理勢力を利用しない限り、体制の安定性を揺るがす重大なリスクなしにイスラエルを攻撃する手段はほとんどない。また、今回の攻撃では、イランの攻撃を阻止する米国主導の作戦に関与したヨルダンのようなイスラエルのアラブ・パートナー国は、パレスチナ自治区におけるイスラエルの行動による関係悪化にもかかわらず、安全保障問題については引き続き協力を行うことが明らかになった。

 イランの空中攻撃はイラン領内から発射されていたが、イラク、シリア、イエメンから発射された無人機やミサイルもあった。イスラエルの暗殺によってイランの「コッズ部隊(革命防衛隊の特殊部隊)」の統率力と活動が打撃を受けたにもかかわらず、イランは、非常に多様な代理勢力に協調行動を取るよう指令する能力があることを示した。

 しかし、注目するべきはイランの最強の代理パートナーであるヒズボラの行動であった。ヒズボラはイランの共同報復攻撃の一環として数発のロケット弾を発射した。それは、何も今に始まったことではない。ヒズボラとイスラエル軍は、戦争が始まった時から毎日のように互いに攻撃し合っている。そのことが、ヒズボラの独立的立場をいっそう強固なものにしている。ヒズボラは、世界でも強力な(最強でないとしても)非国家主体の一つである。その能力全てをイスラエルに向けたら、イランの限られた軍事力を大幅に増強するものとなるだろう。今のところ、そうはなっていない。

 これらの相対する影響もあり、中東においてエスカレーションと封じ込めの間で現在揺れているダンスは、今後も続くことになるだろう。

リディア・カリルは、ローウィー研究所のトランスナショナル・チャレンジプログラムのディレクターであり、民主主義に対するデジタル脅威プロジェクトの統括を務める。また、ディーキン大学アルフレッド・ディーキン研究所(Alfred Deakin Institute for Globalisation and Citizenship)の上級研究員、暴力的過激主義とテロリズムの急進化(Addressing Violent Extremism and Radicalization to Terrorism: AVERT)対応研究ネットワークの発起人、学術誌『Studies in Conflict and Terrorism』編集委員でもある。戸田平和研究所の国際研究諮問委員を務めている。