Climate Change and Conflict ロバート・ミゾ | 2022年12月07日
COP27におけるインド: 中心的役割を果たしたか?
Image: Bengaluru Metropolitan Transport Corporation's electric bus service - PradeepGaurs/Shutterstock
気候変動に関する国際交渉においてインドが重要なアクターであることは、近頃シャルム・エル・シェイクで開催された条約締約国会議(COP)27で如実に示された。2015年のパリ協定で約束したことを達成するため、締約国間の新たな連帯を追求するサミットで、インドは国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国としてきっぱりと主張しつつも、協調的な姿勢を見せた。気候変動はすべての国の協調的努力によってのみ対処できるという普遍的合意はあるものの、平等、正義、公正にかかわる問題は依然として波乱含みである。シャルム・エル・シェイクにおけるインドの大きな貢献は、これらの問題への対処に関係する。
インドは、同国がグローバルな正義や平等という根本的問題に引き続き取り組んでいくことを十分に明らかにしたうえで、サミットのカバーテキストにおいて「主要排出国」や「上位排出国」といった言葉を使用することには反対した。このような言葉は、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えるために、歴史的に気候変動の原因となってきた富裕国だけでなく、インドと中国を含むすべての上位排出国が厳しい排出量削減を行わなければならないという含みを持つ。COP27でインド代表団を率いたブペンドラ・ヤーダブ環境・森林・気候変動大臣は、これを「共通だが差異のある責任と各国の能力(CBDR-RC)」という原則を損なおうとする試みと見た。インドは、歴史的に気候変動の原因を作った国々とひとくくりにされることなど到底受け入れられず、そのような試みに対しては、条約の衡平原則に基づいて抵抗することを明確に表明してきた。
さらにインドの交渉担当者らは、エネルギー使用量、排出量、所得の明らかな格差が各国間にあり、この世界が依然として不公平である遺憾な事実を強調した。そのためインドは、貧困国が気候変動の影響に対処するとともに、各国の能力に応じた排出量削減の実施に同意できるよう、気候資金の強化を強く求めた。インドは、国のゼロエミッション計画(達成目標は2070年まで)や国が決定する貢献(NDC)に基づく他の排出量削減プログラムとは別に、低排出開発経路に移行するための主な戦略を提示する長期低排出開発戦略(LT LEDS)を、国連気候変動枠組条約に提出した。インドの低炭素開発戦略は「世界の炭素収支の公平かつ公正な割り当てを受ける権利」という観点から考えなければならないと、ヤーダブ大臣は強調した。文書では、インドがその計画を実施するためには2050年までに何十兆ドルもの資金が必要であるという重要な点が指摘されている。また、「先進国による気候資金の提供は非常に重要な役割を果たすものであり、助成金や無利子融資の形で大幅に強化し、UNFCCCの原則に従って、主に公的資金を財源として、規模、範囲、スピードを確保する必要がある」と記載されている。
さらにインドは、気候資金に関するサミットでの議論を他国とともに主導した。これは、先進国が2020年までに年間1,000億米ドルを拠出するというパリ協定での約束が達成されなかったことを踏まえると、サミットの議題のきわめて重要な要素であった。インドは、気候資金の定義に関する多国間の合意を形成しようとするなかで、「融資」は貧困国や途上国にさらなる負債を負わせるため、気候資金と認めるわけにはいかず、「助成金または無利子の」資金提供が望ましいとした。そのためインドは、他の途上国とともに、富裕国が新たな世界規模の気候資金目標、すなわち気候資金に関する新規合同数値目標(NCQG)に同意するべきであり、それは気候変動の激化に対処し適応するためのコストとして何兆米ドル単位であるべきだと主張した。会議の最終文書にNCQGへの言及はなかったものの、シャルム・エル・シェイク実施計画では、「先進国や他の資金源による途上国への資金援助を加速することは、緩和策を強化し、資金調達の不平等を解消するために極めて重要である」と強調されている。
インドは、最も脆弱な国々に対して気候変動により被った損害を補償するための「損失と損害」基金(L&D)の設立を歓迎した。基金は、より貧しい国々、特に小島嶼国のニーズを明確に示し、当然ながらCOP27における歴史的進展として賞賛された。資金の管理、拠出者、拠出比率に関する重要な詳細は、今後「多国籍委員会」によって概略が策定され来年のCOP28で提出され、採択されることになっている。ただし、インドのブペンドラ・ヤーダブ環境大臣は、インドは提言される資金を拠出する責任はなく、むしろ気候変動の影響に対処するために資金提供を受ける権利を主張することを明確にした。そのような基金を設立する合意がなされたことは、気候正義の達成に向けた長い旅路における適切な一歩と見なされる。
セメント、肥料、鉄鋼といった炭素集約型の製品に2026年以降課税する、炭素国境調整メカニズムをEUが提案したのに対し、インドは他のBRICS諸国とともに反対した。インドとBRICS同盟国は、そのような税は市場の歪みをもたらし、当事国間の信頼の欠如を悪化させる恐れがあり、回避しなければならないと主張した。このグループは、先進国と途上国の貿易収支の問題をもたらすとして、差別的かつ不公平な市場の‘‘解決策”に反対している。彼らはむしろ、先進国が資金提供と排出量削減の公約を実行することによって、リーダーシップを示すべきだと主張している。これは、気候緩和の負担を不釣り合いに、また不当に負わされる国がないようにすることで、平衡性の原則を守ろうとする努力である。
化石燃料の使用を削減する努力について、インドは、石炭だけでなく「全ての化石燃料」の使用を段階的に廃止するという提案を繰り返した。このような立場の根拠は、石油や天然ガスのような石炭以外の燃料も温室効果ガスの原因となっており、したがって、2021年のグラスゴーCOPでEUが支持した石炭の段階的廃止案と同等に、段階的に廃止しなければならないというものである。しかし、インドは電力需要を満たすために石炭に大きく依存していることから、これはインドの外交的駆け引きと見なされた。そのため、「全ての化石燃料の段階的廃止」案は米国とサウジアラビアを中心とする石油・ガス産出国の抵抗にあい、文言は「石炭の段階的廃止」となったのである。
インドはCOP27において、積極的かつ影響力のある締約国として、解決策を見いだす責務を果たすとともに、途上国および低開発国の利益を守るために断固とした姿勢を見せた。インドは、気候危機の被害者であって加害者ではない世界の人口の「多く」の利益を代表した。気候変動に関する将来の国際交渉におけるインドの役割と貢献は、この国が大切にする価値観、すなわち、平等、公正、世界的正義に今後も基づくものとなるだろう。
ロバート・ミゾは、デリー大学政治学部助教授(政治学、国際関係論)。気候変動政策研究で博士号を取得した。研究テーマは、気候変動と安全保障、気候変動政治学、国際環境政治学などである。上記テーマについて、国内外の論壇で出版および発表を行っている。