Contemporary Peace Research and Practice ラメッシュ・タクール  |  2023年03月18日

リベラルな国際秩序のほころびが政策志向の研究に及ぼす影響

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 第2次世界大戦終結時に米国主導のもとで構築されたリベラルな国際秩序に崩壊が迫っていることについて、すでに何年も前から多くのアナリストが言及している。

 国際政治とは、権力、経済力、そして良い国際社会を目指す理念の相互作用に基づいて、国際秩序の支配的な規範を構築しようとする争いである。この数十年の間に富と権力は西側から東側へと移行し、世界秩序のリバランスをもたらしている。中国が世界の大国へと劇的に地位を高めるにつれて世界情勢の重心がアジア太平洋へと移行すると、中国中心の秩序に適応するための西側諸国の能力や意欲について、多くの気まずい疑問が提起された。数世紀ぶりに、どうやら世界の覇権国が西側国でなくなり、自由市場経済国でなくなり、自由民主主義国でなくなり、英語圏諸国でなくなるのだ。

 より最近では、アジア太平洋という概念枠組みは、インドの象がついに踊りの輪に加わったことにより、インド太平洋の概念へと再構築された。また2014年、とりわけ2022年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州の安全保障、政治、経済の構造という問題が議論の最重要テーマとして再浮上している。

 ロシア問題が地政学的優先事項として再燃したことに加え、核の時代に大国間の安定性を支え、予測可能性をもたらしていたさまざまな条約、協定、合意、実践からなる国際軍備管理体制の主柱のほぼ全てが崩壊した。

 AUKUS級攻撃型原子力潜水艦の開発計画を伴う新しい米英豪安全保障協定(AUKUS)は、地政学的現実の変化を反映するものであると同時に、ほぼ間違いなくそれ自体が世界的な不拡散体制への脅威であり、中国との関係における新たな緊張の火種となるものと言える。2023年3月13日にサンディエゴで潜水艦計画の発表が行われた際に英国のリシ・スナク首相が述べたように、世界が直面する安全保障上の課題の深刻化、すなわち「ロシアによる違法なウクライナ侵攻、中国の強硬姿勢の拡大、不安定化をもたらすイランと北朝鮮の行動」は、「危険、無秩序、分断の全てを大きな特徴とする世界を生み出す恐れがある」。一方、習近平国家主席は、米国が西側諸国を主導して「中国に対する全面的な封じ込め、包囲、抑圧」を行っていると非難した。

 最後に、地域および世界のガバナンス制度は、その根底にある地政学的、経済的国際秩序という構造から切り離すことができない。また、これらの制度は、気候変動やパンデミックといった、存亡を左右する脅威のような他の喫緊の世界的課題や危機を管理するという目的を十分満たしているとは言えない。驚くことではないが、台頭する修正主義国家は、国際的なガバナンス制度を改変して自国の利益、統治理念、好みを反映させることを望んでいる。また、これらの国は、管理機構を主要西側国から自国の首都に移転することを望んでいる。イランとサウジアラビアの和解において中国が果たした役割は、今後起こることの前触れかもしれない。

 歴史の転換点を証明するような「現実世界」の出来事は、研究機関やシンクタンクに重大な挑戦を突きつけ、今後(数)十年にわたる研究課題や政策提言の見直しを迫るものである。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を務め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。