Climate Change and Conflict ジャクリーン・ピール  |  2025年07月31日

国際司法裁判所が歴史的判断――気候変動は「あらゆる生命を危険にさらす」と認定、対策怠る国に警告発する

この記事は、2025年7月24日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。

 国際司法裁判所(ICJ)は、気候変動は「あらゆる生命を危険にさらす」ものであり、各国は気候変動対策を講じなければ国際法に基づいて責任を負わなければならないとの判断を下した。

裁判所は7月23日、待望されていた勧告的意見を公表した。この画期的な判断により、気候災害の影響を受けている国々が主要排出国に対して賠償を求める道が開かれた。

 また、市民は、自国や他国の政府が気候の安全性を確保するための適切な措置を講じなかった場合、政府に対し人権保護を怠った責任を追及することができる。

 裁判所の判断内容と、そこから予想される世界的影響は以下の通りである。

 ICJへの提訴は、2019年にバヌアツの南太平洋大学の法学生たちによって起こされた。彼らは、裁判所に対して、温室効果ガスから気候を保護する各国の義務と、それを怠った場合の法的結果という二つの主要な問題を検討するよう求めるキャンペーンの立ち上げに成功した。

 裁判所は、クリーンで健全かつ持続可能な環境は、他の多くの人権を享受するために不可欠であるとし、そのため、気候システムや他の環境要素の保護がなければ人権の完全な享受は確保できないと判断した。

 これによって、気候変動は単なる法的問題にとどまらないことが確認された。裁判官らの結論によれば、むしろそれは、

あらゆる形態の生命と地球の健全性そのものを危険にさらす、地球全体の存続にかかわる問題である。

 ICJは、ほとんどの国は「市民的および政治的権利に関する国際規約」のような国際的な人権協定の締約国なのであり、各国はこうした権利の享受を保障するためにも、気候変動への対策に取り組まなければならないと判断したといえる。

 国際司法裁判所の勧告的意見は、法的拘束力を持たない。しかし、それは、法の現状と、法が破られたときに補償を求める各国の権利に関する権威ある説明である。そのため、勧告的意見は大きな法的重要性を持っている。

 気候変動に関する政府間パネルの気候科学評価が気候変動の原因と影響を理解するための最高レベルの判断基準となったように、国際司法裁判所の判断は、気候変動に対する各国の行動または不作為を評価するための明確な基準となるものである。

 この数年、多くの国のパリ協定に基づく排出削減目標は、世界の気温上昇をせいぜい2°Cに抑えるレベルで「落ち着いた」ように見えた。

 しかし、国際司法裁判所は、それよりはるかに野心的な1.5°C目標がパリ協定のもとで科学的根拠に基づいて合意された目標となっていると判断した。

 一部の国は、公式な排出削減目標は各国政府の裁量に任されるべきだと主張した。しかし、裁判所はこれに反する判断を下した。むしろ、各国の目標は、気温上昇を1.5°Cに抑えるという世界目標に沿ったものでなければならず、それに対して適切な貢献をしなければならないと示した。

 裁判所は、各国の排出削減目標は厳格な「デュー・ディリジェンス」基準に照らして評価されるべきであると判断した。この基準は、各国のこれまでの排出寄与度、開発レベル、国内事情などの要因を考慮に入れるものである。

 この勧告により、オーストラリアのような富裕国は、現在アルバニージー政権が検討中の2035年目標のように、パリ協定に基づくより野心的な排出削減目標を立てることが国際法のもとで義務付けられることになる。

 また、裁判所の決定は、小島嶼国にとって気候正義を実現する手段ともなる。これらの国々は歴史的に排出量が少ないにもかかわらず、他の国々よりはるかに高い気候変動リスクに直面している。

 気候変動は地球規模であるため、異常気象による損害が特定の国または国家グループの行動に起因していると判断するのは困難であるが、不可能ではない

 裁判所はこの問題について、気候変動は多くの人間活動の累積的影響に起因するものの、世界の排出量に対する各国の総寄与度を、過去および現在の排出量を考慮に入れて判定することは科学的に可能であると述べた。

 もし、ある国が、他の国または国々の集団による国際的な気候義務の不履行に起因する損害をこうむった場合、害を及ぼしている国に対して訴訟を起こすことができるということを、この判断は意味している。その結果、補償やその他の救済措置につながる可能性がある。

 小島嶼国連合(AOSIS)の加盟国のような気候に対して脆弱な小国にとって、これは、高排出国に対し適切な気候変動対策を講じるよう促す努力において、より多くの法的選択肢を開くものである。

 重要なのは、気候変動による損害が企業のような民間主体の活動を含む多くの原因からもたらされている場合でも、国が法的責任を問われる可能性があることを明確にした点である。

 つまり、国は、問題の原因になっているのは他者であるという理由で責任の免除を求めることができないということだ。また、国は、自国の管轄下にある気候変動に影響を与えている企業や他の事業体の活動を規制する措置を講じなければならない。

 オーストラリアなど数カ国が裁判所に提示した議論の一つは、気候変動枠組条約のみが国際法のもとで気候変動対策に取り組む義務を示しているというものだった。

 しかし、裁判所はそうではないと判断した。むしろ、他の国際法も適用されるとした。

 米国は、2025年初めにパリ協定から離脱した。裁判所の意見は、それでもなお、米国や他の国々は、全ての国が法的に拘束される他の国際法のもとで気候損害に対する責任を問われることを意味している。

 国際司法裁判所は、真に歴史的な判断を下した。

 これは、各国が気候変動対策において果たすべきことの新たな基準を確立し、十分な気候対策を行っていない高排出国に対して法的手段を取る新たな道を切り開くことになったのである。

ジャクリーン・ピールは、メルボルン大学の法学教授およびMelbourne Climate Futures所長である。