Climate Change and Conflict トビアス・イデ  |  2023年08月29日

性差から見る気候と紛争の関係

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 この数年、気候変動がもたらす安全保障上の影響が重大な政治課題として浮上している。例えば、国連安全保障理事会は2023年2月、海面上昇に伴うリスクについて議論を行った。同様に、女性・平和・安全保障の課題は、多くの国連機関、各国外務省、援助機関、NGOの垣根を超えた課題である。また、いずれの主題領域についても、詳細な研究がいっそう進められている。平和と紛争における女性の役割は、政治科学研究において顕著に取り上げられており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書では、気候関連の紛争リスクがさまざまな章で論じられている。

 これまでのところ、気候変動と紛争に関する論議、そして女性・平和・紛争をめぐる議論は、おおむね別々の場でなされていると筆者は考えている。この二つのテーマに交わり合う部分が多くあることを認識し、互いの取り組みを補強し合うどころか、両問題の専門家の間にはほとんど交流がない。国連モナシュ大学による報告のような注目すべき例外は極めて少なく、また、依然として人間の安全保障に強く力点を置いている。

 しかし、これまでの限られた研究や議論からでも、明白なことが一つある。ジェンダーは、気候と紛争の関係の重要な側面であるということだ。

 例えば、筆者の最近の研究では、反政府グループに女性メンバーが多い場合、気候関連災害の後に暴力がエスカレートする可能性がより高く、戦闘を縮小する可能性がより低いことが分かった。その理由は、女性が追加的な労働力と戦闘力を提供するからである。また、民間人との関係構築(災害後に反政府勢力が支援を頼る可能性がある)や情報収集(災害後の急速に変化する状況において鍵となる)といった特定任務の遂行において、女性はしばしば男性より力を発揮する。例えば、2004年のインド洋津波の後、タミル・イーラム解放の虎(LTTE)はスリランカ政府への攻撃を強めた。大きな理由は、情報収集役と、死亡した男性戦闘員に代わる要員に女性メンバーを頼ることができたからである。2010年の洪水で同様の状況にあったパキスタン・タリバン運動は、女性メンバーを認めておらず、資源と人的(女性)パワーの欠如のために戦闘規模を縮小した。

 同様に、チャドのような国では、コミュニティーや家庭で気候変動に対するレジリエンスを構築するうえで、女性は極めて重要な役割を果たしている。例えば、追加の食料を庭で育てる、地元の水資源を管理する、あるいは異常気象の後に医療を提供するなどである。同時に、気候変動の影響は女性たちのこうした働きを低下させる。例えば、出て行く男性に代わって追加の仕事を引き受けなければならない、あるいは水や薪を手に入れるために長い距離を歩かなければならないといった場合である。このように、ジェンダーによる労働分担と気候変動の影響は、女性が気候回復力を作りだし、地域開発を促進する働きを低下させる。そして、回復力の低さや気候変動による生計への悪影響は、虐げられ、絶望的になった人々がボコ・ハラムのような過激派集団に加わる傾向をいっそう強める恐れがある。そのような集団は収入を与え、権力を握れば暮らしを良くしてやるという(多くの場合は内実のない)約束を与える。

 しかし、ジェンダーとは、ただ女性を参画させればいいという問題ではない。ジェンダーとは、「男性」または「女性」であることに伴う社会的な規範、期待、力関係である。ケニア北部では、コミュニティー間の家畜略奪とそれに伴う暴力紛争が大きな安全保障リスクとなっている。気候変動は、肥沃な土地と水をめぐる争いや干ばつ期の牧畜民の移動パターンの変化により、これらの紛争を激化させる可能性がある。しかし、これらの紛争は性差による役割とも深く関係している。男性は、結婚するために資金を支払い、社会の成人構成員と見なされることが期待されている。家畜略奪は、結婚資金を得る一つの機会なのである。また、これらの社会では、優れた戦士であることが男性の魅力や家族を養う能力を示すものと見なされており、女性は暴力的な家畜略奪に加わることを拒否する男性をばかにすると報告されている。同じような力学が、ナイジェリア南スーダンウガンダの牧畜民コミュニティーでも起こっている。そのため、これらの地域で発生する牧畜民の紛争は本質的に政治経済的闘争であり、気候変動によって激化しているが、根本的にはジェンダー規範によって引き起こされているのである。

 今後、ジェンダー専門家と気候専門家が平和と紛争の分野で協力を行えば、さらに多くの知見、事例、優れた実践が生まれるだろう。例えば、家父長制的なジェンダー規範(女性の主体性と土地を入手する権利を制限し、それゆえに彼女たちの不満を高めるもの)と異常気象(女性の生計手段を損なうもの)はいずれも、女性たちが武装グループに加わる動機になる可能性がある。従って、ジェンダー規範の変容「だけ」あるいは生計手段の保証「だけ」を目指す政策は、それらを組み合わせ、統合しない限り、反政府集団のリクルートを抑制するには十分ではないだろう。そのような洞察を実現し、十分な政策対応を策定するために、学者と実務家がそれぞれの縦割りの快適領域から抜け出て、ジェンダー、気候、紛争について統合的見地から話し合いを始める必要がある。

トビアス・イデは、マードック大学(オーストラリア・パース)で政治・政策学講師、ブラウンシュバイク工科大学で国際関係学特任准教授を務めている。環境、気候変動、平和、紛争、安全保障が交わる分野の幅広いテーマについて、Global Environmental Change、 International Affairs、 Journal of Peace Research、 Nature Climate Change、 World Developmentなどの学術誌に論文を発表している。また、Environmental Peacebuilding Associationの理事も務めている。