Cooperative Security, Arms Control and Disarmament フィリップ・カストナー | 2025年07月19日
和平合意に必要な四つの要素――コンゴ民主とルワンダの合意は満たしているか?

この記事は、2025年7月15日に「The Conversation」に初出掲載され、許可を得て再掲載されたものです。
2025年6月、コンゴ民主共和国(DRC)とルワンダの両政府は、DRC東部で何十年にもわたり続いてきた紛争を終結させるための和平合意を締結した。国連はこの合意を、同地域における「緊張緩和、平和と安定に向けた重要な一歩」として歓迎した。
筆者はこれまで、いくつもの和平交渉や和平合意を分析してきたが、紛争当事者を交渉のテーブルにつかせるために要することと、最終的に合意される内容とを区別することは重要である。この記事では、一般的に合意の持続性を示す四つの不可欠な要素が、DRC・ルワンダ合意には見られるかどうかを検証する。
まず、和平合意に関する二つの大きな点について、そしてDRCとルワンダのケースにおける一つの複雑化要因について論じる。
第1に、1度の合意だけで複雑な紛争を解決できることはほぼない。ほとんどの合意は一連の取り決めの一部であり、時には異なる当事者の間で結ばれることもある。多くの場合、それらは以前の合意に言及し、また、後続の合意によって参照される。
第2に、和平とはプロセスであり、広範かつ持続的な取り組みを必要とする。武装グループのような他のアクターを交渉の場に引き込むことが不可欠である。重要なのは、これには市民社会のアクターも含むことだ。交渉においては多様な意見に耳を傾けることによって、合意はより正当で有効なものとなる。
DRC・ルワンダ合意に関する一つの大きな複雑化要因とは、米国が主要な仲介者であるということだ。ワシントンは、和平の実現を目指す中立的な調停者というより、自国の経済的利益を追求しているように見えるのである。これは良い兆候ではない。
良い和平合意に単純なレシピは存在しないが、研究によれば、次の四つの要素が重要とされる。すなわち、全当事者による真剣な取り組み、正確な文言、明確なタイムライン、そして、強力な実施条項である。
良い合意を支える要素
第1に、全当事者が合意を真剣に受け止め、その条件を履行する意思と能力を備えている必要がある。合意は、時間を稼いで再武装したり戦闘を続行したりする隠れ蓑として利用されてはならない。さらに、持続的な平和は、国家の政治指導者層のレベルだけで実現することはできない。関係するコミュニティーからの意見や支持を取り入れた、より包摂的なプロセスの結果として結ばれた合意のほうが、成功する可能性は高い。
第2に、合意は、解決を要する課題に取り組まなければならず、その条項は慎重かつ明確に起草されなければならない。重要な点に関して合意内容が曖昧であったり、言及していない場合には、それは短命に終わることが多い。過去の経験は、和平交渉の担当者や調停者が起草作業を行う際の指針となり得る。国連や学術機関が構築した和平合意のデータベースも、そのための有用なツールである。
第3に、明確で現実的なタイムラインが不可欠である。そこには、武装勢力の特定地域からの撤退、難民や国内避難民の帰還、補償やその他の形態によって移行期正義を提供するメカニズムの設置が含まれる。
第4に、合意には、その実施に関する条項が盛り込まれるべきである。これに関しては、一般的に外部からの支援が有用である。第三国または国連やアフリカ連合のような国際機関に、この段階を監督する任務が与えられることもある。また、これらの機関は、安全保障を提供し、さらには平和維持活動を展開することもできる。重要なことは、これらのアクターが和平プロセスに真剣に取り組み、自己の利益を追求しないことである。
特定の和平合意から、現実的に何が期待できるかを知るためには、そのような合意が極めて多様な形を取り得ることへの理解が重要である。それらの形態は、交渉前の取り決め、停戦合意、包括的な和平合意や実施協定にまで及ぶ。
紛争当事者のごく一部が一時的な停戦を取り決めただけの場合、紛争の恒久的な解決を期待するべきではない。
DRCとルワンダの和平合意: 多くの欠点を抱えながらの重要な一歩
現時点では、DRCとルワンダが和平に対してどこまで本気であるか、また、彼らの取り組みが十分なものとなるかを判断することは難しい。 彼らが互いの領土を尊重し、侵略行為をやめると主張している点は、確かに重要である。
しかし、ルワンダには、直接的な軍事活動を1990年代以降DRCで展開してきた歴史がある。また、この合意における、「ルワンダによる軍の撤退/防衛手段の解除」についての言及はかなり曖昧なものだ。さらに、DRC東部に数千人規模で展開していると報じられるルワンダ軍の撤退については具体的な言及がない。
ポール・カガメ率いるルワンダ政府は、1994年のルワンダ大虐殺以降、DRCにおけるツチ族系住民からなる武装グループも支援している。「3月23日運動」(M23)は、現在DRC東部で活動している最大の武装勢力である。しかし、DRCとルワンダの両政府間の合意には、M23や他のグループが含まれていない。両政府は、現在カタールの仲介によって進められているDRCとM23との交渉を支持すると約束しただけである。
この合意では、もう一つの武装グループであるフツ族系主体の「ルワンダ解放民主軍」(FDLR)の「中立化」も想定している。このグループは、DRC国内のフツ系ルワンダ人難民を保護すると主張しているが、ルワンダ政府からは「ジェノサイドを実行した存在」と見なされている。同グループは、この計画に対し、政治的解決とより包摂的な和平プロセスを要求するという反応を示している。
何が必要か
DRCとルワンダの合意には、DRC東部での戦闘によって避難を余儀なくされた何百万人もの人々の帰還など、紛争の影響を最も受けた人々にとって極めて重要な条項が含まれている。しかし、その他の重要な問題は取り上げられていない。
例えば、人権および国際人道法を推進するという一般的な約束以外に、全ての当事者によって行われたとされる、広範囲な人権侵害や戦争犯罪については一切言及されていない。これには、即決処刑、子供に対する暴力、性暴力およびジェンダーに基づく暴力などが含まれる。
このような大規模な暴力に対処するためには、例えば、比較的成功を収めた2016年のコロンビア政府と「コロンビア革命軍」(FARC)との間の合意のように、何らかの形の正義や和解の仕組みが検討されるべきである。それは、犯罪行為は決して報われることはないという明確なシグナルを送るものであり、さらなる違反を防ぐことに寄与し得るだろう。それはまた、人々が癒されるのを助け、平和が実現する可能性を高める。
そのための単一のモデルというものは存在せず、また、いわゆる移行期正義(「社会が大規模な過去の人権侵害の遺産に向き合い、責任の所在を明らかにし、正義を実現し、和解を達成するという試みに関連づけられる一連のプロセスやメカニズム」と定義される)については依然として議論が大きく分かれている。例えば、戦争犯罪の裁判に固執することは、脆弱な和平プロセスを危うくするものと見なされる可能性がある。
しかし、この数十年間、リビアから中央アフリカ共和国に至るまで、世界各地の和平合意は一律の恩赦から距離を置くようになっている。特に重大犯罪に関しては、説明責任を確保するための条項が和平合意に盛り込まれることが増えている。しかし、DRCとルワンダの合意は、これらの問題について沈黙している。
思わぬ成り行き
DRCとルワンダの合意は、ワシントンの役割と経済的利益の追求によって複雑化している。
両国は、アフリカ連合、カタール、米国をメンバーとする合同監視委員会を設置することに同意している。委員会は「地域経済統合枠組み」を想定しているが、それはDRCの豊富な鉱物資源に対する外国の影響力を招き入れるものとして批判されている。DRCは、例えば再生可能エネルギー部門に不可欠なコバルトの世界最大の産出国である。
そのような新植民地主義的な「搾取と引き換えの和平取り引き」は、前向きなシグナルを送らない。そして、恐らくそれは、天然資源の搾取によって激化してきた武力紛争の終結には寄与しないだろう。
フィリップ・カストナーは、西オーストラリア大学で国際法の上級講師を務めている。