Andrew King and Linden Ashcroft  |  2025年03月17日

サハラ砂漠の洪水、干上がるアマゾン支流、1.5°C超えた温暖化 – あらゆる悪い記録を更新した2024年

この記事は、2025年3月19日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。

 気候変動は、人類が今世紀直面している最も切迫した問題である。気候が実際にどのように変動しているかを追跡することは、かつてないほど重要になっている。

 3月19日、世界気象機関(WMO)は2024年の年次報告書「地球気候の現状に関する報告書」を公表した。これによると、2024年は最高気温記録の更新が相次いだ。2024年は、産業革命前の平均気温を1.5°C以上上回る最初の年になったようだ。また、大気中の温室効果ガス濃度は過去80万年間で最も高いレベルに達した。

 高温と野放図な排出の組み合わせは深刻な影響をもたらすと、WMOは指摘する。イベント・アトリビューション研究により、気候変動と、米国南東部に破壊の爪痕を残したハリケーン「ヘレン」やアフリカの乾燥地「サヘル地域」で発生した前例のない洪水による災害との間には関連性があることが分かっている。

 危険の度を増しつつあるこれらの地球に起こる変動を減速させるためには、化石燃料からクリーンエネルギーへの迅速な移行が必要である。

 北極から南極まで、海洋から陸地まで、この報告書は地球のバイタルサインに関してこれまで以上に大きな警鐘を鳴らしている。

 着実に上昇する地球の平均気温は、われわれが温室効果ガスを排出することによって閉じ込めている余分な熱の影響を証明している。過去10年間は観測史上最も温暖な10年間となった。

 報告書は、2024年が175年前に包括的な世界規模の観測が始まって以来最も暑い年であることを示している。地球の気温は、1850年から1900年までの気温よりも推定1.55°C(±0.13°C)上昇した。

 2023年と2024年を合わせると、それ以前の世界の平均気温からの飛躍的な上昇が見られる。それ以前の最高記録の年(データセットによって2016年または2020年)と2023年の間には約0.15°Cもの開きがある。2024年はさらに暖かく、2023年を約0.1°C上回った。

 2024年は、地球の気温が産業革命以前の水準を1.5°C以上上回ったと見込まれる初めての年となった。だからといって、われわれが気温上昇を1.5°C以下に抑えるという2015年パリ協定を破ったということにはならない。その闘いに負けたことが正式に確定するには、気温が何年間にもわたって維持される必要がある。しかしながら、これは良いニュースではない。

 この記録的な世界の気温には、いくつか特別な要因も働いている。例えば2024年前半に太平洋東部の海水温を急上昇させたエルニーニョ現象、船舶からの排ガスの減少がもたらした洋上の雲の減少、さらには太陽活動の活発化などがある。

 研究者らは、なぜ地球の平均気温が2023年と2024年に急上昇したのかを解明しようと熱心に取り組んでいる。しかし、2024年の記録的な暖かさや報告書に記載された他の不都合なデータのほとんどは、人為的な気候変動がなければ起こらなかったということは明らかである。

 記録を塗り替えているのは地球の気温だけではない。

 大気中の二酸化炭素濃度は、2024年に427ppm(百万分率)に達した。海面上昇は加速し、いまや1990年代初めより約11センチメートル高くなっており、海水温は観測史上最高を記録している。

 北極圏および南極圏周辺の季節性海氷は2024年に(最低記録まではいかなかったが)低水準まで縮小しており、また、予備データから氷河融解と海洋酸性化が急速なペースで進行していることが分かっている。

 世界のほぼ全ての場所で2024年の気温は近年(1991~2020年)の平均気温さえも大きく上回り、熱帯地方の多くが記録的な猛暑となった。

 英語圏のメディアでは、米国を襲った破壊的なハリケーン「ヘレン」やスペインの鉄砲水など、北米、欧州、オーストラリアに被害をもたらした極端な気象現象が大きく取り上げられている。

 それとは対照的に、アフリカ、南米、東南アジアにおける極端な気象現象とその影響はそれほど報道されていない。

 2024年9月、スーパー台風「ヤギ」は、フィリピン、中国、ベトナムで何百人もの死者を出し、広範囲にわたる被害を出した。同じ年の終わりにはサイクロン「チド」がマヨット島やモザンビークを襲い、10万人以上が避難を余儀なくされた。アフガニスタン、イラン、パキスタンでは、異常な寒波の後、春の洪水により何百人もの死者が出た。

 異常な洪水が乾燥サヘル地域の一部やさらにはサハラ砂漠をも襲った。一方でアフリカ南部では過去1世紀で最悪の干ばつが起こっており、小規模農業者に壊滅的な被害を与え、飢餓の拡大を引き起こしている。

 中南米の多くの地域は深刻な干ばつに見舞われた。アマゾン川の広大な支流は、観測史上初めてほとんど干上がってしまった。北半球の多くの地域が夏の猛暑に見舞われ、メッカへの大巡礼(ハッジ)期間には生存限界を超える猛暑と湿度によって1,300人以上の死者が出た。

 世界中で極端な気象のために家を捨てて避難を余儀なくされた人の数は、広範囲にわたる洪水や火災が発生した2008年以降で最も多くなった。

 気候変動は、これらの極端な現象に影響を与えたのだろうか?その答えは、明らかに「イエス」である場合もあれば、わずかに影響を与えたと思われる場合もある。

 ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)の科学者らは、ハリケーン「ヘレン」の大規模な雨と風サヘル地域東部の大雨による洪水に気候変動の特徴を見いだした。

 この報告書は、悲惨なスコアカードである。データの数字は厳しく、恐ろしいものだが、悲しいことに驚くべきものではない。

 われわれは、温室効果ガスが地球を温暖化させるメカニズムを100年以上前から分かっていた。気候変動の科学は、ずっと以前から存在していたのだ。

 しかし、われわれの対応はいまなお課題に見合った水準に達していない。

 現在、われわれの活動はさらに多くの温室効果ガスを生み出し、さらに多くの熱を閉じ込め、人類と地球にとってますます多くの問題を引き起こしている。地球温暖化は、たとえわずかでも問題なのである。引き起こされた損害は、われわれが化石燃料への依存をやめ、ネットゼロに到達するまで、悪化し続けるだろう。

アンドリュー・キングは、メルボルン大学の「21世紀の気象に関するARCセンター・オブ・エクセレンス」で気候科学の助教授を務めている。

リンデン・アシュクロフトは、メルボルン大学の気候科学およびサイエンス・コミュニケーションの講師である。