Cooperative Security, Arms Control and Disarmament タニヤ・オグルヴィ=ホワイト  |  2022年03月01日

私たち全員が直面する5つの真の核の危険性

Image: ID1974/Shutterstock

 この記事は、2022年2月28日に「The Conversation」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は突如、国防相と軍のトップに核抑止力部隊を「特別戦闘準備態勢」に移すよう命じた。これは、戦術核戦力を臨戦態勢に置くことを意味すると思われる。

 もちろんこれは、こけおどしかもしれない。しかし、プーチンは幾度となく、人命や地球を尊大なまでに軽視していること、自身の戦略目標を達成するためなら極端なリスクも平気で取ることを実証してきた。

 米国やNATOの介入に対してプーチンが核兵器の使用を命じるリスクは低いが、まったくないとは言い切れない。米国は、このエスカレーションを「危険なレトリック」と表現している。

 この極めて憂慮すべき情勢は、世界的な核の危険度がこの数週間にいかに高くなっているかを示している。ウクライナにおける戦争は、核の危険が現実のものであることを全ての人に示す警鐘となるはずである。

 私たちは、核の脅威を取り除く行動を取るのか、あるいは、警報のミュートボタンを押して眠りに戻るのか?

5つの真の核の危険性

 核兵器は、侵略の抑止と安定の維持を目的とした単なる抽象的手段ではない。

 各国が核兵器の近代化と拡充を進めるなか、核兵器はそれを行使する政治指導者や軍事指導者たちによってますます「使用可能な」ものと見なされるようになっていると、世界中の専門家が警告している。

 核兵器は、次のような状況で使用される恐れがある。

  • 優位に立つための戦略において
  • 激化する紛争において、敵に撤退を余儀なくさせるため
  • 最終手段の兵器として
  • 飛来するミサイルを核ミサイルと誤認し、それに応答するため
  • 指揮・統制システムの故障により偶発的に

 ウクライナが核兵器を保有していないからといって、これらのリスクがなくなるわけではない。紛争が核戦争の様相を呈する危険は、本当にある。

起こりうる核シナリオ

 核能力は欧州に大量に存在し、核に関する意図を読み解くことは困難な場合もある。

 一方でウクライナを攻撃しているロシアは、世界最多の核弾頭を備蓄しており、戦場で使用するための戦術核兵器における優位性も持っている。

 他方でウクライナの最も強力な戦略パートナーである米国も、極めて多量かつ高度な核兵器を備蓄している。NATO加盟国のフランスと英国もそれぞれの高度な核能力を保有しており、NATO加盟の核共有国であるベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコは自国領土に米国の核兵器を受け入れている。

 ロシアと米国およびNATOとの間で緊張が高まるにつれ、後者が戦争に直接巻き込まれることをいくら避けようと努力しても、核兵器使用のリスクは生じる。

 米国やNATOの同盟国がロシアに核攻撃を仕掛ける可能性は極めて低いが、これらの国々が紛争に巻き込まれ、意図せざる核エスカレーションにつながり得るいくつかのシナリオを想像することは可能である。

 最も深刻なのは誤認の危険性、すなわちウクライナを支援するために米国またはNATOが取った行動を、ロシアが意図的な戦略的挑発と誤認するリスクである。

 核戦力を高度警戒状態に置いているロシアの核態勢と、プーチン大統領による核恫喝を考えると、これは突拍子もないシナリオではない。

 軍事攻撃が始まる直前、プーチンは、介入する者は「その歴史上経験したことがないような結果」に陥ると脅した。

 それは、ロシアが(フランス、パキスタン、英国、米国、そしておそらく北朝鮮と同様に)、紛争において核兵器を先制使用する可能性を排除していないことを思い起こさせる、ぞっとする言葉だった。

 プーチンは脅しを実行する気だろうか? あの時、彼は疑わしいことをする者があればロシアは「最新式の核兵器の数において一定の優位性を持っている」と強調した。

今、必要なこと

 これにより、どのようにウクライナを支援し紛争を緩和するかという切迫した問いが生じる。ウクライナの人々のために、欧州のために、人類のために、地球上の生命のために、この戦争を止める必要がある。

 これは誇張のように聞こえるかもしれないが、国際社会がウクライナにおけるプーチンの行為に対して実効性のある対応を講じなかった場合、それは「力による支配」の野蛮な新時代の幕開けを示すものとなることを考えてほしい。

 核武装国の指導者が、国際法に拘束されることなく、報復を恐れることなく、拡張主義的な軍事作戦を追求することができる世界である。

 二つのステップが不可欠である。

 第1に、政治指導者たちは集団安全保障と国際法を支持するために一致団結しなければならない。経済制裁だけでは不十分である。国連加盟国は、元々は戦後の機能として意図されたように国連システムを用い、侵略行為に対して共同で断固とした対応を取るべきである。

 国連安全保障理事会の行動がロシアの拒否権によって阻止されたことから、国連総会は「平和のための結集」原則によって行為する権限を持つ。この原則は、侵略行為に対して安全保障理事会が対応できない場合、協調的対応を取る義務を国連加盟国に課すものである。

 第2に、世界中の一般の人々は、核戦争の脅威にさらされながら生きることをもはや許容しないと明確にする必要がある。

 核兵器は、専制国家でも民主国家でも同様に、不安定で気まぐれな首脳に権力を持たせ、全人類にとって容認しがたいリスクをもたらす。

 核兵器は安定化要因ではない。それらは「秩序」を生み出さない。核抑止は何度も失敗を重ね、あまりにも頻繁に世界を瀬戸際まで追い込んできた。

 今こそ、核兵器の廃絶と、国際法を守って適切に機能する国連システムに基づく安定した安全保障体制の創設を要求するべき時である。

タニヤ・オグルヴィ=ホワイト博士は、オーストラリア国立大学コーラルベルスクール・オブ・アジアパシフィック・アフェアーズ(Coral Bell School of Asia Pacific Affairs)のシニアフェロー