Cooperative Security, Arms Control and Disarmament バシール・モバシェル | 2025年02月26日
最初はベトナム、そしてアフガニスタン: 次はウクライナか?

Image: US and Taliban representatives sign the agreement in Doha, Qatar on February 29, 2020
US Department of State/Wikicommons
ウクライナで継続中の戦争が、米国の外交政策に難題を突き付けている。サウジアラビアで米国とロシアの高官が紛争の今後について直接協議したのを受けて、多くの人は、ウクライナ危機がアフガニスタンやベトナムの二の舞になるのではと危惧している。いずれも、米国が現地政府を置き去りにして敵対国との和平協議を行おうとし、破滅的な結果をもたらした紛争である。これらの過去の交渉や1975年における南ベトナムと2021年におけるアフガニスタン共和国政権の最終的な崩壊から得られる教訓を踏まえると、米国がより包摂的なアプローチで慎重にこれらの協議の舵を取らない限り、ウクライナは同じような運命に直面するのではないかと思わずにはいられない。
ウクライナの状況は、多くの点でアフガニスタンやベトナムとは異なる。例えば、ウクライナは欧州に位置しており、欧州は同国の安全保障と主権に対して既得の利害を有している。また、ウクライナは外国から直接侵略を受けており、従ってその指導者は国民のより幅広い支持を受けている。南ベトナムとアフガニスタン共和国は代理勢力を相手にしていた。しかし、問題は、このような違いがあるからといってウクライナがアフガニスタンやベトナムと同じ道をたどらずに済むのかという点だ。ウクライナの事例がアフガニスタンやベトナムと異なるのと同じように、アフガニスタンの戦争はベトナム戦争と異なっていたということを心に留めなければならない。従って、三つの事例の類似点は必ずしも社会政治的状況や地政学ではなく、和平調停がこれらの国々に関してどのように処理されているかという点である。見たところ、ウクライナに関する進行中の交渉は、1975年にベトナムの運命を決し、2021年にアフガニスタンの運命を決した交渉と同じパターンをたどっている。これらのパターンには、次のようなものがある。
- 交渉対象国の合法政府が和平協議の場に不在であること。
- 現地政権を弱体化し、腐敗し、反平和的であるとして合法性を否定し、敵対勢力を信頼できる交渉パートナーとして持ち上げる新たなナラティブの登場。
- ゆくゆくは現地政権にも和平協議に参加する番が回ってくるという約束。少なくともベトナムとアフガニスタンという二つの事例では実現しなかった約束である。
これらの交渉は通常、現地政権の希望に反した捕虜交換や、現地政権への財務的・軍事的支援の打ち切りを含むか、あるいは伴う。和平協定と銘打っていても、このような協定は米国撤退後の現地政権崩壊を防ぐことができず、むしろ権力の空白を生み出した。そこに敵対勢力がすかさず付け入ったのである。ウクライナは、主権が危機に瀕するなか、同様の帰結に直面する可能性があるのではないか?
頭越しの和平協定: 最も合法的な和平のステークホルダーを排除するパターン
これらは通常であれば2国間協定であるが、最も合法的なステークホルダーが不在であり、彼らが無視されたまま交渉が行われるという点で、頭越しの和平協定と呼んだほうが良いだろう。例えば、1973年のパリ和平協定は主に米国と北ベトナムとの間で結ばれ、南ベトナム政府は直接協議からおおむね排除された。ニクソン政権は、南ベトナムが和平への最大の障害であり、南ベトナム政府の頭越しに交渉を行うことで解決を迅速化できるという信念のもと、この排除を正当化した。同政権は、南北ベトナム間の和平協議が行われるようにすると約束した。しかし、主要な合意から南ベトナムを排除したことにより、米国撤退後は北ベトナムが支配権を握り、最終的に1975年のサイゴン陥落へと至った。
アフガニスタンでも、2020年のドーハ和平合意が同様のパターンをたどった。米国はタリバンと直接交渉し、アフガニスタン政府を和平協議から排除した。この合意は、タリバンがアフガニスタンの地でテロを発生させないよう取り組むことと引き換えに米軍が撤退することを約束するものだった。和平への道という体裁が取られたものの、アシュラフ・ガニ大統領率いるアフガニスタン政権は完全に蚊帳の外に置かれた。その結果結ばれた合意はアフガニスタン政権の崩壊を防ぐことができず、2021年、米軍撤退からわずか1カ月後に政権はタリバンの手に落ちた。
パリ和平協定とドーハ和平合意の両方に見られる顕著な特徴の一つは、南ベトナムとアフガニスタンの現地政権が和平協定に抗議し、全面的に拒否したことである。南ベトナムのグエン・バン・チュー大統領は、パリ和平協定を拒否した。協定が政権の地位を損ない、不利な和平をもたらすと感じていたからである。アフガニスタンでも同様に、アシュラフ・ガニ大統領はドーハ和平合意に極めて批判的で、協定が彼の政権を排除し、アフガン首脳部の合法性を損なうと主張した。これらの抗議は、現地政権が米国に見捨てられたと感じ、交渉は彼らの正当なニーズを考慮しない不当な妥協をもたらすと考えていることを浮き彫りにした。どちらの事例でも、米国高官は現地政権を、腐敗し、対立を生み、無能力であると批判し、敵対勢力との直接交渉を正当化した。どこかで聞いたような話ではないか?
米国はウクライナの頭越しにロシアと交渉しようとしているが、ウクライナ政府を無能力である、あるいは腐敗していると非難し、その権威を無視することの危険性に気付くことが極めて重要である。このような非難は、現地政権が最初から合法性を欠いていたのだという敵対勢力の主張にいっそう拍車をかける。ベトナムにおいてもアフガニスタンにおいても、現地政権は脆弱化し、合法性を損なわれ、支援を受けられない状態に置かれ、その後、和平協定のことなど気にもかけない敵対勢力の攻撃を受けている。興味深いことに、同盟勢力が崩壊した後、米国の政権は自国の野党や蚊帳の外に置かれた外国政権を非難し、自らに非はないと主張した。
ウクライナは、似たドラマの次のエピソードになるのか?
米国とロシアはすでに協議を開始しており、ウクライナ政府は蚊帳の外に置かれている。この動きは、米国が合法政府の頭越しに敵対勢力と交渉することを選んだ過去の北ベトナムやタリバンとの和平協議と幾分似ている。
ウクライナは、この悲劇的なドラマの次のエピソードになるのだろうか? 答えは、恐らく二つの要因にかかっている。第1に、ウクライナは心理的にも軍事的にも、米国の支援なしに戦闘を継続する準備ができているか? 第2に、欧州は、ウクライナに対する既得の利害が米国の利害とはますます乖離していくなかで、それを積極的に維持しようとするだろうか、あるいはベトナムとアフガニスタンの事例でそうしたように米国の主導に従うだろうか?
ウクライナは、ロシアと欧州の両方にとって玄関口にあたる。そこにロシアが入ってくる、しかも米国のお墨付きを得て入ってくることは、他の欧州諸国にとって警鐘である。欧州は、ベトナムやアフガニスタンとの交渉がもたらす悪影響については全く心配しなかった。しかし、ウクライナに関する米ロの交渉については違う感情を抱いているようだ。地域の安定は、欧州に直接関係する問題である。欧州にとって、ウクライナの主権と領土保全は、単に地政学的利害にかかわるだけでなく、欧州の安全保障にとって極めて重要な問題である。近頃パリで行われた欧州首脳会議がそれを物語っている。
バシール・モバシェル博士は、アメリカン大学(DC)社会学部、ニューヨーク大学(DC)、アフガニスタン・アメリカン大学政治学部で教鞭を執る。アフガニスタン法政治学協会の現会長(亡命中)である。専門は、比較憲法、アイデンティティー政治と人権。憲法、選挙制度、アイデンティティー政治に関する多数の研究プロジェクトの執筆、レビュー、監修を行っている。最近の研究プロジェクトは、地方分権、社会正義、オリエンタリズムをテーマとしている。カブール大学法政治学部で学士号(2007年)、ワシントン大学ロースクールで修士号(2010年)および博士号(2017年)を取得。