Contemporary Peace Research and Practice バレイナコロダワ、ウポル・ルマ・バアイ  |  2021年07月27日

フィジーが新型コロナによる貧困の危機

Image: RNZ (Radio New Zealand)

 太平洋の人気観光地のひとつ、フィジー諸島は、新型コロナの市中感染ゼロを1年近く続けてきたが、2021年4月にデルタ株の第2波が上陸して以来、指数関数的に感染者が急増している。この感染爆発は、現時点で、過去3カ月のあいだに22,443名の感染と177名の死亡を記録している。2021年7月22日付のフィジー保健省の流行予測によれば、フィジーにおける7日間平均は、1日あたりの新規感染者が934人で、これは人口100万人あたり1,056人にあたり、インドや米国の最新の記録を超え、今日世界で最も高い数値の1つとなっている。ウイルスは、感染爆発の中心であるラミ-スバ-ナウソリ回廊地帯に沿って急激に拡大している。

 フィジー政府は、感染拡大を抑制し、経済を回復させるための処置である、全国の封鎖措置(ロックダウン)の要請が、国会議員や経済界を含む国民から何度もなされたにもかかわらず、実行に移すことを拒んでいる。

 過去数週間、フィジーの主要病院であるコロニアル・ウォー・メモリアル病院およびラミ-スバ-ナウソリ回廊の小規模な病院や保健センターには、前例のない規模で患者が殺到しており、医療関係者は疲弊している。新型コロナのパンデミックに圧倒される現実と格闘するなかで、同国の医療システムが急速に崩壊しているのも驚きではない。2021年6月7日、コロニアル・ウォー・メモリアル病院については、新型コロナ対応の専門病院とすることが発表された。オーストラリア政府の支援のおかげで、スバにある国立スポーツ施設のボーダフォン・アリーナに臨時病院が整備され、実質上の救急部門兼トリアージ・センターとなっている。

 国際社会の支援を受けて、アストラゼネカ製ワクチンの接種は徐々に効果を上げつつある。しかしワクチン接種は、新約聖書『ヨハネの黙示録』第13章を引用して、ワクチンが「獣の烙印」で「終末のしるし」などと決めつける陰謀論を支持する一部宗教グループの強い反対に遭ってもいる。フィジーでは、ロツ(キリスト教会)の声が、日常生活とりわけ草の根コミュニティーに影響力があり、社会的な問題についての議論から信仰を切り離すことはできない。しかし、そのような影響力のある声は、慎重な評価や厳格な管理がなされない場合、時として人々をミスリードし、危険に晒す可能性がある。太平洋教会協議会、太平洋神学大学およびフィジー教会協議会は、これらの原理主義的な陰謀論に対抗するべく立ち上がった。これらの団体は、「隣人」に対する信仰者としての責任の一環として、感染と犠牲の連鎖を食い止めるワクチン接種の重要性を訴えている。その一方で、接種に関する個人の権利の重要性も認識し、慎重に考慮すべきだとしている。

 新型コロナ感染者数が増加している間、フィジー政府の対応は、外国からの支援、専門家やワクチン接種の受け入れといった、概ね受動的なものとなっている。支援は、オーストラリア、ニュージーランド、EU、イギリス、アメリカなどから提供されている。外部からのサポートは必要であり感謝されているが、一方で政府は、国内に目を向けて一般のフィジー国民が直面している問題を把握することや、国民の経験していることに対応した積極的な施策を提供することも、同じく重要である。

 新型コロナの世界的な流行は、公衆衛生の範疇を超えて、直接的にも間接的にもフィジーに深刻な影響を及ぼしている。それらの影響は、社会、経済および政治的な問題と主に結びついており、個人、団体、地域社会に対して、生計、仕事、教育、文化、教会活動に関する諸課題をもたらしている。国境封鎖により、サプライチェーンが混乱し、食料安全保障が脅かされている。フィジーの主要な収入源である観光産業、ならびに、その他の大小の非必需産業に従事する企業が休廃業し、その結果、膨大な失業者が生まれ、貧困に陥っている。特にスバ近郊に広がる、不法居住区域に住む貧困層の家庭の生活は、重大な不安に直面している。

 新型コロナのパンデミックに起因する現在の高失業率に伴い、多くの家庭は食料と飲料水の確保に苦労している。カトリックのファティマの聖母教区が、コミュニティーの窮乏の深刻度を把握するため2カ月前に行った緊急調査では、調査対象となった200の家庭のうち約95%が、自分たちの窮乏は新型コロナに関連するものだと訴えた。その内の大半が失業しており、いまや極度の貧困に陥っている。フィジー政府、民間セクター、NGO、教会およびコミュニティー組織が、食料やその他の人道的ニーズが満たされていない家庭に支援の手を伸ばしている。しかし、長期的に見ると、この支援が継続できるかは不透明だ。多くの人々が、利用可能なわずかな土地での耕作に頼ってきた。たとえば、ナデラ公営住宅団地の入居者は、近くの使われていない国有地に無理やり農園を作っている。ロックダウンの対象になっていない郊外の農家は、ロックダウンエリア内の主要な市場で作物を販売することができなくなったため、決して好ましい環境とは言えない道端で販売せざるを得なくなっている。ロックダウン地域の母親たちは、政府からの食料支給や、家族がどうにか仕事に戻るための制限の緩和などを求めて、路上で抗議を行っている。新型コロナがもたらす家計への直接的な影響のために、多くの家庭で、食料の確保が深刻な問題となっている。

 これらに加えて、パンデミックは他にも社会経済的な問題を招いている。共同生活が根付いている文化では、マスクの着用といった安全のためのプロトコルや、移動の制限が、困難な課題として継続している。こうした積み重なるストレスや関連する心理社会的な影響が、地域社会の安全を脅かしている。例えば、コミュニティー内でのトラブル、ドメスティック・バイオレンス(DV)や離婚の増加が報告されている。個々人が新型コロナ対策プロトコルを遵守しない事例が繰り返されることで、フィジー人たちの健康と生命がさらに危険に晒されている。

 ラミのカウイア地区のような人口密度の高い不法居住区域が、ウイルスのホットスポットの一部に数えられる。こうした地域の生活環境は、家庭内で人が密集している、家屋が密集している、衛生設備が十分に整っていない、といった特徴がある。このような、感染者が自己隔離することが困難な状況は、ウイルスの増殖にとっては最適な環境である。こうした「足元の」現実が、新型コロナのパンデミックの中でフィジーの人々が直面しているいくつかの重大な問題を説明しており、またフィジーの人々が最も支援を必要としている領域である。住民へのワクチン接種を急ぐ間にも、極度の貧困状態にある人々が、命と生活を支える物資へのアクセスを得られるようにする支援が緊急に必要である。 筆者らは、このようなコミュニティーを直接に支援したいという方々に、トランセンド・オセアニアへの寄付を依頼したい。同団体は、最も援助を必要とする人々に支援物資を直接届ける団体へ資金を配分している。

口座名:Transcend Oceania 住所:8 Des Vouex Road, Suva, Fiji

銀行:  Home Finance Company, HFC Bank, Fiji
   HFC Centre 371 Victoria Pde, Suva, Fiji Islands
   口座番号100086468
   SWIFTコード/BICコードHFCLFJFJ
   IBAN: BSB:129010

目的: Covid Aid

登録情報:TRANSCEND OCEANIAは、フィジー公益財団法の下で登録されている非営利のNGOである(登録番号1000)。

パウロ・バレイナコロダワは、フィジーに拠点を置く平和構築と開発の地域機関である「トランセンド・オセアニア」のプログラム・ディレクターである。

ウポル・ルマ・バアイは、太平洋協会の地域統一機関であるフィジー共和国スバの太平洋神学大学の学長を務める。