Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ハルバート・ウルフ | 2025年03月21日
欧州の新たな好戦主義:半狂乱の再武装

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ドナルド・トランプ大統領は、ホワイトハウスで繰り広げられた事態によって欧州の人々にショックを与えた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を侮辱し、米国の軍事援助を(一時的に)停止したのである。守ってくれない用心棒商売のようなものだ。就任する前からトランプは、欧州における米国の軍事的関与は大幅に削減されるだろうと明言していた。これは驚きではなかったが、この新たな地政学的状況において、欧州のほとんどの政府、軍事専門家、そして多くの主流メディアは、危機モードに切り替わった。ロシアによるNATOへの攻撃を不安げに警告する者や、それが起こり得る時期を示唆する者までいた。ドイツのボリス・ピストリウス国防相は、2024年にすでに、ロシアは今後5~8年の間にNATOを攻撃することが可能になるだろうと述べている。
2025年3月の第1週にはポーランドのドナルド・トゥスク首相が、「欧州はロシアとの軍拡競争に加わり、勝利しなければならない」と主張した。イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、NATO条約第5条の相互援助条項はNATOに加盟していなくてもウクライナに適用され得ると述べた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領と英国のキア・スターマー首相の2人は、変化した安全保障情勢について話し合うために急きょ首脳会談を開き、キーウ、ワシントン、モスクワに明確なシグナルを送った。マクロンは、欧州の「戦略的自律」という構想を引き続き掲げている。バルト諸国の政府は、ロシアがもたらす脅威を改めて強調し、防衛努力の強化を呼び掛けた。バルト三国とポーランドの国防相は、いまや対人地雷禁止条約からの脱退を勧告している。欧州委員会は、8,000億ユーロの資金確保を含む「欧州再軍備計画」を発表した。
好戦的な姿勢は、特にドイツにおいて顕著なようだ。ドイツは暫定政権下にあるものの、与党と野党の3党連合は、解散間近の議会の会期最終日に憲法の大幅改正を求めた。15年前より続いている政府債務の上限設定は、部分的に撤廃された。今後は、防衛費に対する上限がなくなる。EUの「欧州再軍備計画」も同様の結果になるだろう。軍のために借金することが容易になるのだ!
軍需産業は大喜びである。すでに巨額の資金が兵器調達のために投資されている。ドイツ最大の兵器製造会社ラインメタルのアルミン・パッペルガーCEOは、同社の2024年度年次報告の発表で「再軍備の時代」について語った。同社の売上高は36%増加し、利益は61%も増加した。ドイツのピストリウス国防相も、社会の「Kriegstüchtigkeit(戦争遂行能力)」という用語を作り出した。かつての公式用語は「防衛能力」、すなわち戦わずに済むようにするために戦う能力だった。2001年にドイツ政府が激しい内部議論の末にアフガニスタン派兵を決定したときも、「戦争」という言葉は長きにわたるタブーだった。「戦争遂行能力」という用語は、根本的なパラダイムシフトを表している。
新たな好戦的論調を背景に、欧州は派手な散財を始めている。もっかの議論は、欧州の防衛を確保するためにどれほどの財源が必要かという点を中心に展開している。軍事戦略、安全保障戦略、外交戦略、あるいは将来あり得る欧州の安全保障、さらには平和体制さえも、ほとんど議論の主題になっていない。
これでは話の順序が違う。考え抜かれた安全保障政策であれば、逆の順序で進むものだ。まず脅威の分析を出発点とするべきである。軍が直面しているのはどのような課題か? どの脅威に対処するために何人の人員が必要か? どのような兵器を軍は装備しなければならないか? 緊張緩和、停戦、さらには紛争解決のために、外交はどのような役割を果たし得るか? これらの問いに答えることによってのみ、必要な財源の金額に関する首尾一貫した説明が可能になる。
トランプの言明の後、今日の主な任務は何だろうか? ウクライナがロシアとの戦争に負けないよう支援することか? 起こり得るロシアの攻撃を撃退できるように欧州の防衛力を強化することか? その任務は、フランス大統領が掲げるような米国抜きの核抑止の可能性など、縮小する米国の欧州関与に完全に取って代わるべきなのか?
確信をもってロシアによる攻撃の可能性を排除することは、誰にもできない。ウラジーミル・プーチン大統領はロシア近隣のウクライナを攻撃しただけではない。ロシアの首脳がウクライナ戦争で核兵器行使をちらつかせて脅したことは、ロシアの政策に対する信頼を低下させることにもなった。それでもなお、この歴史的な転換点に鑑みると、パニックに陥ることなく揺るぎない事実に基づいて政策を決定することが賢明である。
現在の議論は財務的必要性ばかりに焦点を当てており、安全保障政策の概念、防衛能力の必要性、あるいは軍事戦略における技術的革新についてはほとんど問われていない。ロシアによるウクライナの全面侵攻は、ロシア側のみならず、ウクライナやNATO内部における完全に誤った前提に基づいて始まった。クレムリンは、強力かつ広く恐れられたロシア軍であれば数日のうちにキーウを攻略し、親ロシア政権を樹立できると考えていた。これが完全な誤算であったことは、多大な初期損失、ウクライナ東部からの侵攻軍の屈辱的撤退、そしていまや3年以上にわたって続く消耗戦が証明している。
しかし、ウクライナの人々や多くの西側専門家も、誤った思い込みをしていた。彼らは、ロシアが短期間で戦争に勝利するというモスクワの結論と同じ考えを持っていた。自国の軍事力に関するロシアのプロパガンダやシリアとウクライナにおける2014年以降の軍事行動から、彼らはロシアの能力を大幅に過大評価していた。2014年から戦争状態にあったウクライナ軍は、抵抗する準備ができていた。そして開戦後数日で、ロシア軍は侵略するには装備が不十分であることが明白になった。
たとえ今日ロシアを欧州で最大の脅威と見なさなければならないとしても、それでもなお、ロシアの攻撃的な政策がもたらすリスクについて慎重に検討する必要がある。パニックによる資金流用に頼らないようにし、適切に対応する必要がある。ウクライナでロシアがなかなか目的を達することができずにいることを考えれば、ロシアがNATOを攻撃すると想定するのは現実的だろうか? ロシアは短期間でウクライナに勝利するだろうと予想した同じ西側専門家らが、今度はNATOを攻撃するロシアの軍事的ポテンシャルを強調しているのである。
「ニューヨーク・タイムズ」は、ウクライナ議会の国防・情報委員会のロマン・コステンコ委員長が「ロシアとウクライナの全ての犠牲者の約70%は、かつての戦争の代名詞であった大型の大砲ではなく、ドローンによるものである」と述べたことに触れている。同じ記事で、NATOの変革担当連合軍最高司令官を務めるフランスのピエール・バンディエ海軍大将は、「この戦争は第1次世界大戦と第3次世界大戦が混ざったようなもので、未来の戦争といえるかもしれない」と述べた。未来の戦争では、電子戦が重要な役割を果たすだろう。このような新たな現実は、欧州における現在および将来の兵器調達にどのような影響を及ぼすだろうか? 無数の高額な主要兵器システムが、安価な通常兵器であるドローンに無効化される恐れがあるからという理由で陳腐化するのだろうか? これらの所見は、現在の議論で役割を果たすだろうか?
最近の数十年に欧州諸国が負担している防衛費は少なすぎるという発言は、不正確である。欧州のNATO加盟国は、2024年に4,760億ドルを国防軍に費やした。欧州NATO(米国を除く)の防衛費は過去10年間で3兆ドルを超えており、ロシアが自国の国防軍に投資する金額より何倍も多い。従って、問題は資金不足ではない。むしろ、多くの欧州諸国の国防軍の悲惨な状況をもたらしているのは、典型的な欧州の杓子定規な政治である。以前EUの外交政策トップを務めていたジョセップ・ボレルは2022年当時、「各加盟国が自国の国軍に投資することによって防衛費を増額するのであれば、既存の弱みと不必要な重複を拡大することになり、結果的に金の無駄になる」と端的に指摘した。しかし、これがまさしく今なお起こっていることである。そのため、この好戦的な浪費を続ける前に、また貴重な財源を無駄にし続ける前に、過去の過ちに対する冷静な分析を行う必要がある。
ハルバート・ウルフは、国際関係学の教授であり、ボン国際紛争研究センター(BICC)元所長である。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学・開発平和研究所の非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所の研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会の一員でもある。