Cooperative Security, Arms Control and Disarmament トマス・E・シア博士  |  2020年10月16日

核兵器禁止条約の軍縮プロセスに核保有国を取り込むために

 近いうち、おそらく年末までに、核兵器禁止条約(TPNW)の署名国84カ国(現時点)のうち50カ国が批准手続きを完了し、TPNWが発効するだろう。現在核兵器を保有する9カ国はいずれも条約への前向きな関心を示しておらず、核軍縮のプロセスに着手しようとする国際社会のあらゆる努力を、責任を問われることなく拒絶し続けている。TPNWが発効すれば、この条約は、9カ国の核保有国(中国、フランス、インド、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、ロシア、英国、米国)を含む国際社会全体に対して、全面的な核兵器廃絶に向けた前進を奨励し、講じられたすべての措置を検証し、不正行為を検出し、平和と安定の進展を称賛するための法的枠組みを初めて既成事実として提示するものとなる。

 おそらくTPNW締約国が直面する最も重要な決定は、TPNWの検証システムを確立することである。そのためには、その対象範囲や制度的業務を決定しなければならない。そして、核保有国は各の核兵器備蓄と核兵器支援設備を廃絶し、あるいはそれらの設備の一部を平和利用のために不可逆的に転換し、また、既存の兵器を後で使うために隠したり、新たな兵器を製造したりしないようにするための方法や手順を決定しなければならない。条約締約国が選択を行い、それによってTPNWの運用方法を決定する一方で、核保有国は、この条約を拒絶し続けるべきか、もしかしたら自国にとって取り組みやすい代替案を提示するべきか、あるいはTPNWに参加した方が実際には自国の利益にかなうと考えるべきか否かを再考することとなるだろう。

 今後は国連総会、核兵器不拡散条約(NPT)、IAEA総会、包括的核実験禁止条約機関準備委員会など、あらゆる場において、TPNW締約国が手を緩めることなく外交圧力をかけ、核保有国が拒絶し続けることを居心地悪くさせることを期待するべきである。

 核インシデントの性質と近接性にもよるが、核戦争、核兵器の不正使用、1個以上の核兵器の爆発につながる妨害破壊行為、テロリストによる1個以上の核兵器の盗取または国家もしくは準国家組織への不正売却、そして世界の核兵器に対するあまりにも長期にわたる国際的容認によって示される事実上の奨励が壊滅的な結末をもたらす場合、すべての国がそれを防ぐ力を持たない犠牲者として苦しむであろう。 TPNWがこれらのリスクにどのように取り組むかによって、TPNWの成功が左右される。

 条約締約国は、TPNWの成功はすべての国の既得利益を守るものであり、核による破滅的状況を回避するという膨大な道徳的、倫理的、法的義務をすべての国が負うことを、核保有国が正しく認識するよう支援する必要がある。核保有国は、TPNWにおいて求められているステップをひとつずつ開始するべきであり、TPNWの成功に欠かせない能力を構築するために人材と資源を提供するべきである。

 NPTが核不拡散体制の基礎であるのと同様、TPNWは、今後の国際的核軍縮体制を支えるものとなる。TPNWの検証システムに、敵対する核保有国間の個別の核兵器削減合意を織り込み、核兵器がもたらすリスクを管理するために上記の信頼醸成措置を包含することができるなら、TPNWの下でさらに大きな前進を遂げることができるだろう。

 9カ国の核保有国が核兵器を保有しているという共通項を持っているのは確かだが、これらの国々は根本的に異なっている。個々の核保有国に合わせた検証システムを策定することが必要である。ただし、9つの異なるアプローチではなく、それぞれ3カ国からなる2つのグループを設けるべきである。第1のグループは、ロシア、米国、中国、第2のグループは中国、インド、パキスタンとするべきである。残りの核保有国であるフランス、イスラエル、北朝鮮、英国は、個別に対応するべきである。なぜなら、これら4カ国は他の保有国に支配的な影響を及ぼしていないため、個別の進捗状況を他の保有国と連動させると複雑性が増し、さらなる遅れが生じるからである。

 核保有国のうち最初に条約に参加した国に対しては、特別な名誉と称賛が与えられるべきである。アメリカ人であり、アイルランド系であり、楽観主義者である筆者は、ジョー・バイデンが2021年1月20日に次期合衆国大統領に就任することを期待する。また、彼の最優先政策のリストに、NPT再検討会議の準備として米国の核不拡散および核軍縮関連政策の全面的な見直しが含まれていることを期待する。再検討会議は2020年に予定されていたが、新型コロナ感染拡大のために延期された。あるいは、ロシアのためかもしれない。

各の核保有国は、自国の国家安全保障が危険にさらされることはないと確信し、自国の行動が、敵対する核保有国、ひいてはすべての核保有国による同様の行動を促すきっかけとなると確信したなら、措置を講じるはずだと私は信じている。

 元米国上院議員サム・ナンの言葉を引用するなら、「私にしてみれば、どちらがよりナイーブか、質問してほしいところだ。核兵器のない世界か、それを目指して一歩一歩進むことか、人々に希望を与え、ビジョンを与え、この長期的目標に向かってともに努力するチャンスを与えることか? 何がナイーブだって? それがナイーブなのか? それとも、核のトラの尾を踏みつけたままでいられると信じるべきなのか? ほかの8カ国も一緒になって尾を踏みつけて、とんでもない大惨事を避けられると? 歴史が教えてくれるだろう」

トマス・E・シア博士は、現在、米国科学者連盟の非常勤シニアフェローを務めている。シア博士は、24年間にわたってIAEAの保障措置部門に勤務し、ロシアと米国の核兵器計画で放出された核分裂性物質の分類をIAEAが検証することの実行可能性を検討する6年間に及ぶ三者イニシアティブの下で、IAEAの努力を率いた。