Cooperative Security, Arms Control and Disarmament エスラ・セリム  |  2025年08月25日

AIドローンが変える核兵器の未来

この記事は「The Loop 」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下に再掲載しています。

 エスラ・セリムは、人工知能(AI)を搭載したドローン技術の急速な進展が、核兵器の運搬能力、精密な標的設定、そして抑止力を大幅に強化していると論じている。しかし、自律型ドローンシステムの拡散は、戦略的かつ倫理的に深刻な課題も生み出している。世界の安定を確保するためには、強固な国際的枠組みの構築が不可欠である。

 2022年2月のロシアによるウクライナ全面侵攻以降、主要国の間で新興技術をめぐる競争は一段と激化した。とりわけ、この紛争はドローン技術への投資を加速させた。米国、中国、ロシア、そして欧州諸国はいずれも、こうした技術を戦略上不可欠なものと見なしている。 

 先端技術、特に人工知能(AI)は、防衛戦略における重要性を一層増している。こうした依存度の高まりは、武装ドローン分野での軍拡競争を加速させるとの懸念を呼んでいる。AI結合によってドローンの自律性は飛躍的に向上し、精密な任務遂行や高度な作戦運用が可能となっている。

 軍事分野において、AI搭載ドローンは大きな技術的転換を示している。物流や偵察を強化するだけでなく、核兵器の運搬手段となる可能性すらある。このため各国は、安全保障の強化、抑止力の維持、地政学的影響力の拡大を狙い、先端ドローン技術の開発と取得に力を注いでいる。

 国家が先進的な軍事技術を追求する背景には、四つの相互に関連する要因が存在する:実用主義、安全保障上の脅威に対する認識、軍需産業の戦略的役割、そして人工知能が世界の力学に及ぼす変革的な影響である。

 第1に、実用主義の観点からすると、外交政策は国際・国内の変化に柔軟に対応し、適応していくものである。実用主義は現実重視の思考と深く結びつき、具体的成果や実際的な解決策を重要視する。そのため各国は、平和と抑止を維持するだけでなく、紛争発生に備える意味でも軍需産業を発展させるのである。

 第2に、安全保障上の脅威認識は国際関係に大きな影響を及ぼしている。国家は主に自衛のために経済力や軍事力を構築するが、そうした行動は他国には攻撃的に映り、相互不信や軍拡競争を招きやすい。したがって、主権を守り、安全保障を確保し、潜在的な脅威を抑止するためには、強固な軍需産業を維持することは不可欠となる。

 第3に、強国は常に影響力を拡大する機会を追い求め、とりわけ紛争期にはそれが顕著となる。戦争においては、先端軍事技術が国家の相対的な力を大きく高める契機となる。それによって、戦術的優位性や地政学的競争における新たな影響力を持つことが可能になる。

 第4に、AIの急速な発展は新たな戦略的領域を切り開いた。AIは高度な軍事能力をこれまで以上に安価で容易に利用可能にし、各国の軍事的有効性と経済的影響力を大きく高めている。軍事運用に不可欠な要素となったAIは、安全保障戦略を再構築し、平時・戦時を問わず意思決定の迅速化を促す。各国はこの技術革新を取り込むことを迫られ、現代の権力競争は新たな局面を迎えている。

 ウクライナ戦争が示すように、AI搭載ドローンは現代戦に不可欠な装備となりつつある。高度な情報収集・監視・偵察任務を遂行できるだけでなく、核弾頭を運搬する潜在的能力も備えている。軍事運用への統合が進むことで、正確な標的設定など核兵器の投射能力はより強化される。

 高度なAIドローンは、敵のミサイル防衛や防空システムを突破することで、核攻撃を支援する重要な役割を果たす。核弾頭を搭載していなくても、だまし、妨害し、無力化などによって敵の防衛網を撹乱できる。AIを活用して脆弱性を突くことで、核戦力は敵対的環境においても確実かつ効率的に浸透できるようになる。

 またAIは、リアルタイムで精緻な情報と敵の弱点分析を提供し、標的選定を高度化する。これにより、無差別攻撃に頼らず戦略目標を特定でき、作戦効率が向上するとともに付随的被害を抑制できる。標的精度の向上によって必要な弾頭や運搬手段を削減でき、運用の簡素化や維持費削減にもつながる。

 さらに、AI搭載ドローンは核攻撃に対する生存性と回復力を高めることによって核抑止力を大幅に強化する。持続的な監視と即応能力により、国家が脅威を早期に察知し迅速に対応できる体制を整えることで、信頼性の高い第二撃能力を保証し、核保有国間の戦略的安定性を支える。

 自律型AIドローンや無人航空機の普及は、核の標的設定や抑止戦略に深刻な影響を及ぼす可能性がある。これらを核の指揮・管制システムに組み込めば、監視・早期警戒・精密な対兵力攻撃が強化され、核対応能力の向上につながるだろう。その一方で核保有国は、こうした技術的変化に対応し核の安定性を維持するために、戦略ドクトリンや指揮手順、危機管理の在り方を改めて検討せざるを得なくなる。

 しかし、同時に核分野特有の戦略的・倫理的課題も浮上する。AIが脅威を誤認したり、敵の意図を誤解した場合、自律性の高いシステムは危機時に核緊張を不必要に高める恐れがある。さらに、透明性を欠いた迅速なAI判断は人間の監督や判断を弱め、核安定性や抑止力の信頼を揺るがす可能性がある。自律型ドローンの核戦力への統合は、通常兵器と核の境界を曖昧にし、核使用の敷居を下げかねない。

 AI搭載ドローンの核環境下での運用信頼性は依然として不透明である。自律型ドローンは、核の指揮統制網に対する電子戦やサイバー攻撃に脆弱であり、特に戦略的緊張下では技術的故障が発生する可能性もある。AI生成情報に基づく核判断は、誤ったデータや偏ったアルゴリズム、あるいは拙速な対応によって、事態をさらに悪化させる危険を孕んでいる。

 さらに、高度なドローン技術の拡散は、敵対国に高度な対抗手段やより複雑な核能力の開発を促すだろう。これは安定した抑止の強化どころか、不安定な軍拡競争を助長する恐れが強い。そのため、厳格な試験、人間による監督の徹底、そして強固な国際規制が、AIドローンの統合を導くうえで欠かせない。

エスラ・セリムは、フランスのリール・カトリック大学(ESPOL)の客員講師兼研究員。これまでエクス=アン=プロヴァンス政治学院で教鞭を執り、同校で博士号を取得したほか、米国ワシントンD.C.のジョージ・ワシントン大学で客員研究員も務めた。博士論文では、冷戦後におけるイランの核開発が米国とトルコの関係に与えた影響を分析している。現在は通常兵器や武器貿易を中心に研究を進めており、これまでに核安全保障、大量破壊兵器、武器取引、ミサイルシステムに関する論文を多数発表している。