Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ハルバート・ウルフ  |  2025年06月03日

ドナルド・トランプ: 運も専門知識もない自称ピースメーカー

 米国のドナルド・トランプ大統領は、1期目の頃から、戦争を迅速に終わらせ、紛争を解決するという意図を掲げていた。彼は、ウクライナ戦争を「24時間以内に」終わらせることを目指した。これは失敗に終わり、戦争の終わりははるか先のことのようだ。2018年と2019年にシンガポール、ハノイ、そして南北朝鮮間の非武装地帯で行われたトランプと北朝鮮の独裁者金正恩(キム・ジョンウン)との「歴史的会談」は、「ディール」なしで終わった。ガザ戦争も続いており、イスラエル軍による残忍な行為は衰えを知らない。イランの核計画をめぐる交渉にはほとんど進捗が見られない。トランプ政権は、フーシ派が軍事的に壊滅したと主張している。しかし、それに対する疑念はもっともなことだ。インドとパキスタンの間で4月末から5月初めに再燃した紛争だけは、どうやら食い止められたようだ。

 これらの戦争や紛争の経緯を詳細に分析すると、トランプが約束する迅速な解決がここまで成功を収めていない理由が明らかになってくる。

 まず良好な成果、インドとパキスタンの軍事衝突の終息から見てみよう。2025年4月末にカシミールのインド支配地域でテロ攻撃が発生した後、インド政府はパキスタンの軍事施設を破壊することによって報復した。パキスタンのほうも軍を展開した。インドの戦闘機が数機失われた。両国間に再び大きな戦争が起こる可能性も排除できなくなった。停戦が速やかに合意された後、それが米国によって仲介されたものかどうかをめぐる外交論議があった。紛争が始まった当初、米国政府は、沈黙とエスカレーションに対する曖昧な警告との間で揺れていた。「彼らは自分たちで何とかするだろう」とトランプは書いた

 その後、自分は仲介者の役割を果たしたと、トランプはソーシャルメディアに何度も投稿した。「米国の仲介による長い夜の協議の末に、インドとパキスタンが完全かつ即時の停戦で合意したことを発表する。どちらの国も常識と素晴らしい判断力を働かせたことに対して、祝福を申し上げる」。インド政府は、インドが発表できるようになる前にトランプがこのニュースを投稿したことを極めて不愉快に思っているようだった。インド政府ははっきりと、トランプ政権の関与なくパキスタンとの2国間交渉で停戦を取り決めたと強調した。トランプの声明はどうやら、またいつもの自慢話と自画自賛であるようだ。ワシントンには、空騒ぎが多い。電話をかけて、紛争当事国に落ち着けと促すだけでは、まともな紛争調停とは言えない。

 何十年にもわたる紛争調停の経験から、われわれは両当事者が軍事的勝利は不可能であると結論付けたとき、すなわち紛争が交渉に向けて熟したときに和平交渉が成功する可能性が最も高いことを知っている。米国大統領は、ウクライナにおけるロシアの戦争を終わらせる計画で、この基本的知見を全く考慮に入れなかった。ロシアは、今なお戦争に勝てると信じている。なぜ今クレムリンが交渉に応じるはずがあろうか? トランプはまた、ウクライナとガザの両方の戦争における紛争調停から得られたもう一つの知見、和平交渉を持続可能にするためには適切な行為主体の関与が必要不可欠であるという知見を無視している。トランプは、ウクライナ政府や市民社会が交渉に参加することは関心がなく、パレスチナの人々を考慮に入れてもいない。彼にとってパレスチナの人々は、ガザにリビエラを作るという馬鹿げた違法な計画の実現を妨げる厄介な障害でしかないのだ。

 米国は、長年くすぶっている核開発疑惑を解決するため、2025年4月からイランとの交渉を行っている。交渉における両国の立場は大きくかけ離れている。イラン政府は、核計画を放棄する意志は一切見せていないが、同時に核兵器を製造する意図はないと主張している。米国は、イランが兵器級ウランの備蓄を使って核兵器を製造するのを阻止したいと考えている。実際のところ、この目標は、2015年に国連の五つの拒否権保持国とドイツ、EU、イランの間で合意されたいわゆる包括的共同作業計画においてすでに達成されていた。当時イランは、ウラン備蓄量を98%削減し、濃縮度を3.67%(兵器級の濃度を大きく下回る)に維持することに同意した。その見返りとして、制裁が徐々に解除されることになっていた。

 トランプは、2016年の選挙戦でこの合意を批判し、新しい、より良いディールの交渉を可能にするため、2018年5月に合意から離脱した。元の合意が結ばれてから10年になる今、イランの核計画はさらに進捗しており、同じ条件で合意が結べるならトランプ政権は満足できたことだろう。トランプは2018年に、紛争調停の基本的な前提をまたしても無視した。妥協をいとわない真に前向きな姿勢と、紛争当事者の利益を考慮することである。2015年の合意は、不十分さとの妥協であった。期限付きであり、監視は不完全であり、イランのミサイル計画は対象に含まれていなかった。この合意によってイランの核計画を非軍事化することができていたかどうかは、検証不可能である。しかし、イランの核計画がもたらす脅威は今日より低くなっていた可能性が高い。いずれにせよ、トランプの自伝「The Art of the Deal(ディールの極意)」は、明らかにこの種の複雑な国際合意を結ぶための手引きではない。

 イエメンのフーシ派は、もともと地域的な反政府グループであるが、中東に軍事的脅威をもたらす勢力へと拡大した。「われわれはフーシ派に1,100回の攻撃を行った。彼らはタフで、戦士だ。しかし、彼らは米国の船舶を狙って攻撃するのをやめることに合意した」と、トランプ大統領は最近の中東訪問の中で述べた。オマーンが米国とフーシ派の停戦を仲介した。どちらの側も勝利したと考えている。トランプ政権は、米国の船舶がこれ以上攻撃を受けないことに満足し、フーシ派は米国のミサイル攻撃が終わったことを歓迎している。しかし、この合意が持続するかどうかは疑問だ。フーシ派は同時に、ガザ地区のパレスチナ人を支援する軍事作戦を拡大することを発表した。トランプ大統領は、紛争調停から学んだ一つの教訓を胸に刻むこともできただろう。信頼を築くためには、中立かつ公平な第三者が調停者の役割を果たすことができるということだ。しかし、恐らくこのような知見はナルシストにとっては受け入れ難いものだろう。

 1期目のトランプは、ウクライナの戦争を終わらせるための取り組みと同様の自画自賛的アプローチで北朝鮮の独裁者金正恩に働きかけた。協議の目標は、朝鮮半島の非核化と経済制裁の解除に他ならなかった。しかし、クリントンからブッシュまで、米国の過去の政権はこれを実現することができなかった。トランプは外交的慣例を進んで無視し、2018年6月から2019年6月までの間に金と3回にわたって会談した。それ以前、両国の政府は言葉による侮辱の応酬を交わしていた。北朝鮮は国連の核・ミサイル実験の禁止措置に違反し、トランプが北朝鮮を「炎と怒り」で破壊すると脅しても屈しなかった。トランプは相手に「リトル・ロケットマン」というあだ名をつけたが、結局のところ金と会うことになった。

 しかし、首脳会談は何の打開策もなく失敗に終わった。失敗の理由は、それぞれの立場があまりにも隔たっていたことである。北朝鮮は核施設を即時閉鎖することになり、金は制裁の即時解除を要求した。ここでも、永続的な合意のためには可能な解決策の現実的評価が不可欠であることが明らかになった。それ以降、北朝鮮はロシアと中国との密接な関係を通して影響力を持つようになった。現在交渉は行われていない。トランプ大統領は、交渉の肝心な詳細を詰めることにはすぐに飽きてしまうようだ(現在のウクライナ戦争でもそのように見える)。それどころか、彼は大統領選の後、北朝鮮の支配者が自分を「恋しがっている」と主張した。

 紛争調整を成功させるもう一つの必要条件である、積極的に対話を行おうとする姿勢については、トランプの功績を認めるべきだ。しかし、それだけでは、持続可能な国際合意を結ぶために十分ではない。まして、実業家として何度も破産を経験したとしても、国際交渉には十分ではない。何十年にもわたって実地で紛争調停を行ってきたことから得た経験に着目し、それを応用することが極めて重要なのである。

ハルバート・ウルフは、国際関係学の教授であり、ボン国際紛争研究センター(BICC)元所長である。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学・開発平和研究所の非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所の研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会の一員でもある。