Global Challenges to Democracy ロバート・カウフマン | 2024年12月19日
ドナルド・トランプ2.0

共和党が上院と下院の多数派となり、最高裁で圧倒的多数を占めたことにより、合衆国憲法に組み込まれた制度的ガードレールが大幅に弱体化しているこの状況で、2025年1月、ドナルド・トランプが大統領に就任する。市民社会は確かに強靭さを保っているし、反対派は今なお、全国レベルや地方レベルで一定の政治的影響力を発揮している。しかし、米国の民主主義の未来は大いに懸念するべきだ。次期大統領は、以前よりはるかに団結した支持者グループに囲まれ、大統領の免責特権を保証する最高裁に守られながら権力の座に復帰する。対する反対勢力は、第1期の時よりもはるかに弱体化している。
将来、少なくとも今後2~3年、トランプ政権にとって最も直接的な足かせは、トランプ連合の内部分裂から生じるかもしれない。トランプ自身、主な関心は政敵に対する「報復」や個人的な富と権力の拡大にあるようだ。この懸念は、次期政府における主要な法執行機関、特に司法省とFBIの人事に最も顕著に表れている。
しかし、このような目先の個人的利益にとどまらず、トランプとその取り巻きは、より多様な勢力からなる連合をうまくさばかなければならない。この多様な連合内部の利益は必ずしも衝突するわけではないが、完全に一致しているわけでもない。2期目のトランプ政権の結果は、彼が取り引きをどのように管理するかにかかっているだろう。
圧力の一部は、より広範なMAGA(アメリカを再び偉大に)運動それ自体の内部で強い影響力を持つオロギー的意見から生じるだろう。J・D・バンス次期副大統領をはじめとする重要なMAGAイデオロギー信奉者らは、「ディープ・ステート(闇の政府)」を追放して経済的・政治的ナショナリズムのビジョンを推進することに非常に熱心なようだ。このビジョンは、政治的信奉者を官僚として配置するという目標、関税や軍事力に関する高圧的な発言、そして、貿易や防衛に関する国際協力に対する強い嫌悪の組み合わせである。このような極端な考え方に対しては、マルコ・ルビオ国務長官や他の少数の経済分野の高官就任予定者らが、ある程度は対抗すると予想できる。それでも、超国家主義者らが支配的勢力になれば、官僚制度の有効性と国際的な政治・経済システムの両方を不安定化させる深刻な影響を及ぼし得る。
MAGA運動の中核の外に、トランプ連合を構成する二つの勢力がある。彼を支持する企業と彼に投票した人々であるが、彼らの思惑には相違がある。
大企業は、1期目で着手した減税をさらに拡大し、強化するというトランプの計画を明らかに歓迎している。ジェローム・パウエルを中央銀行に留任させ、他の経済官僚トップにも比較的主流派の官僚を指名する計画であることも、安心の材料となるだろう。しかし、上述のように、経済の予測可能性、貿易、法の支配に関して、MAGA運動の中核内部に大きな意見の相違が存在する可能性がある。次期政権が約束している貿易制限措置が勝者だけでなく敗者を生み出すことは間違いなく、また、政治の道具となった能力不足の官僚の機嫌を取らなければならないという不安感が、この分断をいっそう悪化させるだろう。
さらに広く見れば、予測可能性と法の支配をほとんどの企業グループは好むことと、トランプとその側近による取引主義的な忠誠の要求との間には、強い緊張がある。「相手の意に沿って振る舞う」ビジネスリーダーは得をするかもしれないが、その立場は常に不確実であり、条件付きである。経済学者らは長年にわたり、強い経済は投資家に対する「均等な機会」を維持することにかかっているという見解を持っている。しかし、このような考え方とトランプ政権で予想される種類の縁故資本主義には深刻な不一致がある。
さらにはトランプ支持者(Trump’s voters)たち自身も、過激なMAGA主義者から大企業まで、優先事項には非常に大きな違いが見られる。彼らはMAGAの移民嫌悪を共有しているものの、その最大の関心事は生計問題のようだ。また、ビジネスエリートたちが求める減税よりも、物価の低下と雇用の確保をはるかに重視している。2024年の選挙の結果を見ると、トランプがこのような生計問題に関する成果を約束したことは、労働者階級の白人層にとっても、増え続ける黒人とラテン系の若年男性支持層にとっても大いに魅力的だったことが分かる。しかし、これらの約束を実現する彼の能力が、トランプ連合の他の人々の利益とうまく折り合うのかどうかは、まだ分からない。
連合内の潜在的紛争は、三つの分野の問題で表面化する可能性が最も高い。最も差し迫った火種は、MAGA運動の最大のテーマである関税と移民をめぐるものだろう。選挙戦の間はこれらの問題に関する強気の発言が大いに功を奏したが、これらの約束が実現されれば、ほぼ間違いなく物価が上昇し、雇用は縮小するだろう。トランプは、自分の支持企業をそのような影響から守るために適応除外や特例を用いるだろう。しかし、このような政策の全体的影響は、あくまでも完全に実施されればだが、トランプ陣営の支持層にとって壊滅的な影響をもたらし得る。
さらなる減税の追求も、分断の二つ目の原因となり得る。租税政策に関するトランプ支持者たちの優先事項は概して経済エリートたちのそれとは相いれないものの、この問題が彼らの最大の関心事というわけではない。しかし彼らは、社会保障、メディケア、その他の社会的サービスに大きな関心を持っており、それらは政府支出の大きな部分を占めている。過激なMAGA主義者たちは、社会的サービスの需要を満たすことと減税の公約を守ることの矛盾を解消するために、多額の財政赤字を出しても良いと考えているようだ。しかし、財政赤字を積み上げれば、いずれはインフレの上昇および/または景気減速のリスクを冒すことになる。
最後に、そして恐らく最も重要なことに、トランプは、自身の外交政策の選択肢に起因する問題と自身の政権が思い通りにできない国際勢力に起因する問題の両方に直面するだろう。トランプの攻撃的な関税措置は対抗措置を誘発し、それは米国経済に悪影響を及ぼすだろう。また、MAGA運動が支持する好戦性と脱退の組み合わせは、国家安全保障を著しく損なう恐れがある。国際システムに混乱を起こせば、それは自国に跳ね返り、トランプ連合に対するビジネスエリートや有権者らの支持に影響を及ぼすと予想し得る。
これらの相矛盾する勢力が今後4年間でどのような動向を見せるか、われわれは知ることができない。一つのシナリオは、トランプが、支持者や支持企業を遠ざけかねない経済的混乱を最小限に抑える象徴的なジェスチャーを取ることである。MAGA運動をなだめるために、限定的な公務員削減、差別関税、鳴り物入りの移民取り締まりを実施し、それと同時に、バイデン政権下で始まった顕著な経済の好調さを自分の手柄として右翼メディアで主張するかもしれない。この選択肢は、1期目の少なくともコロナ禍の前に採用されたアプローチと多少似通っている。その一方で、上述のように、今回はトランプが「全面的MAGA」に踏み切り、彼の支持者と支持企業の両方に壊滅的な影響を及ぼす可能性もある。先に説明したような連合内の不一致を考えると、トランプが一貫性のない予測不能な選択を行い、政策アプローチと人事の無秩序な変更が生じるというのが最も起こりそうなことだ。
政治的反対勢力は、民主党員と非トランプ共和党員のいずれも、これらの選択肢に対する影響力を少なくとも短中期的にはほとんど持たないだろう。しかし、有権者は依然として非常に僅差で分かれており、MAGA運動の影響とトランプの一貫性のない行動は、今後の議会選挙や2028年の大統領選挙で反対勢力が優勢になる可能性を高める。重大な問題は、彼らが市民社会や州政府・地方自治体において、選挙システムを不正操作しようとする動きに対抗することができるかどうかである。しかし、これについては別の機会に論じよう。
ロバート・R・カウフマンは、ラトガーズ大学の政治学名誉教授である。共著に 「Backsliding: Democratic Regress in the Contemporary World」(Cambridge University Press, 2021)がある。