Climate Change and Conflict アンナ・ナウパ | 2025年09月05日
太平洋平和度指数は必要か?

太平洋平和度指数は必要か?
世界的に見て、平和度の平均レベルは0.36%の悪化を示している。地政学的緊張、紛争の増加、経済の不確実性の増大を背景に軍事化を強化する国が増えているためだ。
しかし、この統計には太平洋島嶼国の大部分が含まれていない。2025年の世界平和度指数(GPI)のランキングに含まれているのは、わずか3カ国である。163カ国のうちニュージーランドが3位、オーストラリアが18位、そしてパプアニューギニアが116位である。
「平和の海(Ocean of Peace)」構想をめぐる地域対話が進むにつれ、2025年7月の太平洋地域・国家安全保障会議でソロモン諸島のトランスフォーム・アコラウ教授が提案したように、太平洋地域に特化した太平洋平和度指数があれば、太平洋諸島フォーラム加盟国の間で発展的な政治的対話を行うもう一つの道ができるだろう。
では、太平洋における平和とはどのように定義されるだろうか? 太平洋独自の平和度の尺度は、地域の平和と安全保障を守る既存の取り組みをどのように補完し得るだろうか?
太平洋の平和とは何か?
平和とは、単に紛争や暴力がないことではなく、人々が恐怖を抱くことなく充実した健康的で豊かな生活を送ることを可能にする地球規模の公共財である。
「平和は人々に奉仕しなければならない。地域のエリートではなく、地政学ではなく、遠く離れた利害のためではない」と、アコラウ教授は述べ、太平洋の平和というビジョンを明確に示した。またフィジーのシャミマ・アリ氏は、平和は太平洋地域全体、特に女性と脆弱な人々の安全とウェルビーイングに影響を及ぼすより広範な要因にも取り組まなければならないと指摘する。
平和と開発は、同じコインの裏と表である。「ブルーパシフィック大陸のための太平洋2050年戦略」は、太平洋の人々にとって自由で健康的で生産的な生活を実現するための重要な要素として、調和、安全保障、社会的包摂、繁栄とともに平和を挙げている。従って、太平洋の平和を実現するためには、ウェルビーイングを確保し、人々と地域・環境を保護し、現在および将来世代のために未来を担保する必要がある。そして、未来を担保するには、気候変動に立ち向かうための行動と主権の保護が必要である。
世界的指数は、太平洋諸島のデータの欠落、一方的な開発方針、指標のバイアスについてさまざまに批判されており、状況が十分に反映されていない手法であったり、あるいは太平洋のデータセット、指数を作成するために多大なリソースが必要であったとしても、こうした指標は、有益な情報を政策決定者に提供すると考えられる。
太平洋平和度指数は何を測定するか?
太平洋地域における平和度を測定し観測する出発点として、国連持続可能な開発目標16(「平和目標」)に対する各国の既存の取り組みが挙げられる。
「持続可能な開発のための太平洋ロードマップ」では、暴力の経験、司法アクセス、市民登録と法的アイデンティティー、公共支出の透明性、情報へのアクセスと意思決定過程への参加に関する見解などを、地域レベルの報告用に、八つのSDG16指標に反映させている。
2022年、太平洋諸島フォーラム事務局長が主導した地域モニタリング報告書において、SDG16に関する利用可能なデータが乏しいために太平洋地域の進捗状況を測定することが困難になっていることが明らかになった。これはおおむね世界的傾向を反映しており、さらなるデータ作成努力とSDG16に関する測定を行う統計能力のために投資を行う必要がある。
この報告書では、実効性のある制度、透明性、説明責任の推進という点で太平洋は後退していることも明らかになった。
しかし、「地域安全保障に係るボエ宣言」や「太平洋2050年戦略」の平和と安全保障の柱が求める期待を満たすために、太平洋地域の状況に即したSGD16指標があれば十分だろうか? この種の報告は、「太平洋平和度指数」として代用し得るものだろうか?
これらの問いに答えることは、本来技術的であるとともに政治的でもあるため、二つのことを念頭に置くべきである。
1) 平和は太平洋の社会構造と文化構造に根差している
現行の状況に即したSDG16指標は、地域戦略に整合してはいるものの、太平洋の平和観の深みを反映していない。
太平洋島嶼国の平和に対する政策には、十分な裏付けがある。毎年、伝統的な安全保障協力からジェンダーに基づく暴力への取り組み、気候緩和、人道支援または民主的プロセスへの投資まで多岐にわたる安全保障の拡大構想に対応した新たなイニシアチブが発表されている。
しかし、地元主導の平和イニシアチブが国や地域レベルの努力にどのように貢献し、太平洋全体のウェルビーイングにどのように貢献するかについては、依然として知見のギャップがある。これらのギャップを埋めることで、太平洋地域の平和のナラティブをより包括的に語ることができるようになり、それを太平洋平和度指数に組み入れることができるだろう。例えば、ブーゲンビル危機、ソロモン諸島の民族間緊張、そして一連のフィジーにおけるクーデターの後に行われた平和構築対話は、伝統的な紛争解決手法を活用するなど、地元主導のアプローチの重要な貢献を浮き彫りにした。
2) 目的を持った平和のストーリーを語る
しかし、太平洋の平和は、個々のデータポイントや期間限定の安全保障関連プロジェクトを寄せ集めただけのものではない。平和とは進化するプロセスであり、未来志向であり、先見的な目的を持った取り組みである。
太平洋諸島フォーラムのバロン・ワカ事務局長は、平和が「主権、レジリエンス、包摂、地域連帯に連結されたもの」でなければならないと強調している。多くの太平洋の研究者らも同じ意見であり、多くの太平洋島嶼民を今なお圧迫し続けている植民地主義、軍事化、制約された主権と正義という長年にわたる問題に取り組まない限り真の平和はないと主張している。
地域のストーリーを語るということは、例えばツバルに対する国際的な独立国家としての承認、国際司法裁判所が近頃出した気候変動に関する画期的な勧告的意見、地域に残る核実験の爪痕、政治的不安定や選挙、ウェルビーイングの評価などを地域の平和観と結び付けることを意味する。これらを総合することによって、地域の平和を築くために寄与する全ての要素を把握し始めることができるのである。
ここからどこへ向かうのか?
もう一つ別のツールに、「平和な社会を維持し創出する態度、制度、構造」を測定する積極的平和度指数がある。これは、社会経済的発展、公正、良好な統治、実効性のある制度、包摂、レジリエンス、外交を評価する。太平洋平和度指数もこれを採用することによって、既存の世界的指数には欠けている、太平洋先住民の平和に対する哲学や社会的結束、ウェルビーイング、和解などの価値観を組み込み、地域の状況を国ごとに追跡することできるだろう。
多国家にまたがる指数は多大な能力を必要とする。そこで、太平洋の平和状況評価では、代わりによりシンプルな選択肢を提供してもよい。これには、地域機構が作成した既存の太平洋地域安全保障見通し報告書に専用セクションを設けることが考えられる。あるいは、地域の学術機関に支援を仰ぐことも考えられる(例えばトラック2外交を通して)。また、平和サミットに投資することも、継続的な地域の平和対話に機会を提供する。
ただし、既存の地域メカニズムを複製させるのではなく、補強することに重点を置かなければならない。
太平洋平和度指数の意義は、a) 安全保障と開発を橋渡しする、b) 太平洋地域の人々の平和の利益や尊厳というものが、時を経ていかに護られてきたか、を反映する一貫性のある平和のナラティブを紡ぎ出し、語ることにあるだろう。
太平洋の「平和の海」に関する政治的対話が進展するなか、太平洋の人々の平和観を枠組みの設定やそれに続く行動の原動力としなければならない。アコラウ教授は、「われわれの平和は、どちらの側につくかを選ぶことに依拠するべきではなく、われわれのニーズの主張、われわれの条件、われわれの共同の願望に基づくべきである」と、さらなる知恵を示している。
アンナ・ナウパは、オーストラリア国立大学のバヌアツ人PhD候補生である。