Climate Change and Conflict ジェームズ・バグワン  |  2023年12月20日

太平洋小島嶼国にとって、COP28は気候正義という砂漠の「オアシス」には小さ過ぎる

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 アラブ首長国連邦で開催されたCOP28の成果について熟考を重ねているが、ドバイ砂漠の砂塵が徐々に収まりつつある。

 実際のところ「ドバイ合意」は、太平洋の小島嶼開発途上国とそれが代表するコミュニティーにとって何を意味するのだろうか? 小島嶼国連合(AOSIS)が全体会合の場に参加してもいない間に、つまり何の介入もできないうちに、いわゆる合意が採択されてしまったという事実は、争点は常に「化石燃料(Fossil Fuel)」という「Fワード」となるCOPの姿を示している。

 早い段階で「損失と損害」基金に関する議案が採択され、資金拠出が表明されたことは歓迎すべきニュースだが、この決定がもたらすはずの喜びに水を差したのは、基金の運用や最も脆弱で最も責任のない国やコミュニティーによる基金へのアクセス、影響を受けるコミュニティーの尊厳や価値を保つ形で非経済的な損失と損害を算定する方法などに関して、なすべきことがなおも多いということである。最初から、太平洋島嶼国は立場を明確にしていたし、パリ協定が2015年のCOP21で採択されて以降それは明確だった。すなわち、これ以上極端で不可逆的な気候影響を回避するためには、産業革命以前と比較した世界の平均気温の上昇を1.5°C以内に抑えるべきだという立場である。太平洋諸国による“生き延びるために1.5度達成を(1.5 to stay alive)”というスローガンは、パリ会議以降のCOPで毎回掲げられている。今年は太平洋小島嶼国にとって1.5は「レッドライン」だった。「もし」も「しかし」もない。

 太平洋地域の教会は、太平洋の人々を代表して政府のこのような姿勢を継続的に支持しており、緩和に関する具体的解決策(化石燃料の段階的廃止)を伴わなければ、適応や「損失と損害」に対する資金提供は「血の代償」であると一貫して主張してきた。2023年のCOP28では、太平洋の政府、教会、市民社会、活動家らが団結してこの立場を主張した。すなわち、化石燃料からの早急かつ公正な移行を実現するとともに、適応のため、ならびに非経済的なものを含めた損失と損害への資金提供のために多額の資金を新たに用意することによって、“生き延びるために1.5度達成を”の「一線を譲らない」ことを主張したのである。

 8年前にパリ協定が結ばれてからわれわれの惑星はどのような状況にあるのか、何をなす必要があるのかに関するグローバル・ストックテイク(GST)最終文書は、化石燃料にごく簡単に触れたのみである。これは由々しきことではあるが、移行に関連する抜け穴に比べればまだ可愛いものだ。科学への力強い言及があったことは高く評価された。また、各国が2025年までの「国が決定する貢献」を策定し、より良いものを提出しようとする努力を後押しするマイルストーンを定めた明確な道筋と、技術実施プログラムの設立がそれを補足した。しかし、これらの決定は、気候変動による影響を不釣り合いに大きく受けているAOSISの39の小島嶼開発途上国にとっては、「レッドライン」に及ばないものだった。化石燃料からの自発的かつ非拘束的な「移行」を求め、いかなる誓約や計画、強制力のある改善措置も定めない妥協文書を採択したことで、COP28は、AOSISが「行動と支援における飛躍的な変革」としての「軌道修正」と呼ぶものを提供することはできず、代わりに平常運転を維持することを選んだのである。AOSISによれば、COP28の結果は後退である。

 とはいえ、2週間にわたるCOP28の会期中に一部の化石燃料産出国が「化石燃料不拡散条約イニシアチブ」に署名したことは、有意義なことである。気候変動が小島嶼国に、ひいては自国のコミュニティーに及ぼす影響に対処するため、化石燃料経済からの公正な移行に尽力することを約束する国は増え続けており、太平洋地域の周縁に位置する東ティモールや石炭と石油の両方を産出するコロンビアもそれに加わった。COP28終了までに化石燃料不拡散条約イニシアチブに署名した国はすでに12カ国に上り、キャンペーンへの賛同を表明と見なし得る国も増え続けている。

 興味深くもCOP28に先立って発表された教皇フランシスコの回勅「ラウダーテ・デウム」(Laudato Deum)は、既存文書(2015年の回勅「ラウダート・シ」)を補完する初めての回勅であり、また、ドバイにおけるCOP28の全体会合に向けた一国(バチカン)の元首としてのメッセージでもあり、化石燃料時代を終わらせることを求めるものだった。バチカンは現在、署名の可能性を視野に入れて化石燃料不拡散条約に関連する文書の検討を行っている。それは、一国家だけでなく世界最大の宗教団体の一つを代表するものとなるため、実現すれば非常に大きな意味を持つ。

 信仰・宗教団体は、COPにおいて興味深い動きを発揮し続けている。COP28では「信仰パビリオン」が設置され(主催者によれば費用は約150万ドル)、国連環境計画、ムスリム長老評議会、持続可能な開発のための宗教間対話センター、監督派教会カリフォルニア司教区、その他多くの信仰に基づく団体が資金を提供した。これは、化石燃料不拡散条約の支持など、気候変動対策に重点を置いた大規模な宗教間運動の結果である。COP28の期間中、パビリオンは、気候行動に向けた宗教間の交流と協力を促進する革新的かつ包摂的なスペースとしての役割を果たした。思索のスペースのほか、信仰パビリオンでは、先住民コミュニティーのための気候正義、環境再生の取り組み、損失と損害、気候運動におけるフェミニストや若者のリーダーシップ、グリーンファイナンスといったテーマに関する公開討論会を開催した。

 COP28で公表された宗教間合同の呼びかけは、信仰パビリオンでの議論を反映し、政策決定者や意思決定者に次のように呼びかけた。

  • グリーン経済への公正な移行を優先する
  • 化石燃料不拡散条約を採択する
  • 気候交渉において種と生態系の保護を優先する
  • 新規かつ持続的な資金源や緑の気候基金への新たなアクセス方法を提供する
  • 「損失と損害」基金への公正かつ包摂的なアクセスのため、資金源を拡大し、多様化する

 信仰心の篤い地域であるがゆえに、COP28における太平洋教会協議会(PCC)の存在は信仰パビリオンを越えて広がった。PCCは、太平洋諸国の代表者やAOSISの交渉者に聖職者による精神的支援を行い、2者間協議、特に化石燃料不拡散条約に関するバチカンとの協議に参加し、活動家らとともに行動を起こした。COP28の議長国やリーダーたちには“生き延びるために1.5度達成を”が確実に守られるよう迫り、最も影響を受けた国々の代表者には、資金拠出、公正、迅速、「永久的」な化石燃料の段階的廃止などを要求する「一線を譲らない」よう求めた。

 COP28の成果が期待外れであった一方で、化石燃料不拡散条約イニシアチブや、気候変動と人権について国際司法裁判所の勧告的意見を求める動き(太平洋地域が主導した)が示しているのは、COPの相変わらずの膠着状態を打破して前進する解決策や手段として、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)の枠外のプロセスに目を向ける国々が増えているということだ。これは、30年にわたるプロセスが気候危機への対処にほとんど成功を収めていないことへの苛立ちというだけでなく、最もリスクにさらされた人々による革新的なアプローチとして認識される必要がある。それは希望と現状への抵抗の兆しであり、Pacific Climate Warriors(太平洋地域の青年たちによる気候変動行動団体)の言葉を借りるなら「われわれは溺れてはいない! 戦っているのだ!」ということを示している。それはドバイにおける、気候正義という砂漠のなかで太平洋のわれわれが持ち得た唯一の青いオアシスだった。

ジェームズ・バグワンは、太平洋教会協議会の事務局長。