Climate Change and Conflict フォルカー・ベーゲ | 2024年11月23日
COP 29: 気候と平和のネクサス(関連性)が議題に上がったが……
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産油国アゼルバイジャン(同国の輸出の90%を化石燃料が占める)の首都バクーで開催された2024年のCOP29は、「金融COP」という異名も取っている。交渉の焦点は、グローバルサウスの国々を気候変動の緩和と適応において支援する気候資金について、「新規合同数値目標」(NCQG)を定めることである。現行の気候資金調達額は全くもって不十分であり、年間何千億ドルもが必要とされている。国際社会の注目は資金に関するCOP交渉に向けられているが、気候と平和のネクサスなど、他の課題もバクーで取り上げられている。詳しく見てみよう。
11月15日はCOP29の「平和・救援・復興デー」であり、COP議長国(アゼルバイジャン)は、エジプト、イタリア、ドイツ、ウガンダ、UAE、英国と共同で「平和・救援・復興のための気候行動を求めるバクー要請」を発足させた。この呼びかけは、「気候変動、紛争、人道的ニーズの切迫したネクサスへの対処を目指すマイルストーン・イニシアチブである。これは、水不足、食料不安、土地劣化、生計崩壊といった気候変動の悪影響が紛争や不安定な情勢の触媒として働く恐れがあり、脆弱な地域においては特にそうであるという認識が高まりつつあることに応えるものである」と表現された。バクー要請は、「最も脆弱な国々やコミュニティーが受けている気候変動の不釣り合いな影響」に注意を向けている。それらは同時に、暴力的紛争に苦しんでいる、あるいは非常に脆弱で紛争が起こりやすい国々やコミュニティーであることが多い。
バクー要請は、水不足、食料安全保障(不安)、土地劣化、強制退去、気候難民や、「一部の国々、特に海抜の低い小島嶼国における海面上昇に起因する土地喪失」による安全保障上の影響など、気候変動と紛争(の可能性)を結び付けるいくつかの問題を取り上げている。また、「脆弱な地域における、リスク情報を踏まえ、紛争に配慮し、平和に対して積極的な気候変動適応策およびレジリエンス構築策」を呼びかけ、「気候に対して最も脆弱であり、紛争や人道危機にも見舞われている国々やコミュニティーのために気候資金を動員する解決策を促進する」ことを約束している。最後に、バクー要請は、国、地域、国際レベルの平和・気候イニシアチブの協働を促進することを目的とした協力プラットフォームとして、「バクー気候・平和行動ハブ(Baku Climate and Peace Action Hub)」を立ち上げた。
この要請は、UAEで開催された2023年COPで90カ国以上が署名した「COP28気候・救済・復興・平和宣言」を踏まえたものである。COP28は、気候変動、紛争、平和、安全保障の結び付きが重要なトピックとなった最初のCOPである(2023年12月3日を会議における「気候・救済・復興・平和デー」とした)。COP28は、その活動と宣言により、気候/紛争/平和のネクサスを将来のCOPで取り上げるべき課題として確固たるものにした。このトピックが2024年のCOPとその準備会合においても役割を果たしたことは歓迎するべきことであり、40弱のイベントがこのトピックを扱い、さまざまな国際ネットワーク(「COP29に先行する気候平和および安全保障に関するボン・コンタクト・グループ」、Peace@COP、国連気候安全保障メカニズムなど)が報告や提案を作成した。しかし、このように目白押しの活動も、実質的な進展は見られていないという事実を覆い隠すことはできない。
バクー要請はCOP28宣言を超えるものではなく、それどころか2023年の宣言に見られた欠陥を引き継いでいる。いくつかの重要な問題を取り上げているものの、実際の活動に関するコミットメントやそのような活動の資金調達については曖昧なままである。広く認識されていることであるが、脆弱かつ紛争の影響下にある国々(FCAS)は同時に気候変動による深刻な影響を受けており、ドナーのリスク回避によって気候資金へのアクセスが極めて難しくなっている。気候と紛争のネクサスに対処するには、FCASの政府、地方自治体、市民社会が気候資金に「直接アクセスできる窓口を確立する」こと、そして特にFCASの「脆弱なコミュニティーのアクセス障壁を取り除き」、それと同時に「ローカル・アクターを協議に加えるだけでなく、意思決定機関と対等なパートナーとする」ことが極めて重要となる。それが、バクー要請には欠けている。
気候適応に資金を提供するために武器取り引きに課税する、あるいはより柔軟に気候行動に資金を提供するために軍需産業に課税することは、FCASのコミュニティーや人々を支援するための良いアイディアといえる。しかし、バクー要請にはそのようなアイディアは盛り込まれておらず、武器製造、軍隊、戦争が気候に及ぼす影響についても触れられていない。「軍事活動は気候危機を悪化させている」ことは明白である。しかし、ほとんどの国は、自国のGHG排出量に対する軍の寄与について言及していない(例えばオーストラリアの2022年度NDC<国が決定する貢献>では、軍は明確にコミットメントから除外されている)。軍の排出量の報告は任意であり、いかなる国も自国の軍事活動に起因する排出量を報告する義務はない。
バクー要請は、気候危機に対する軍の大規模な寄与や戦争が気候に及ぼす影響を取り上げておらず、軍部に対して行動や説明責任を求めていない。また、「軍事支出が増加していることと、先進国が気候行動のための資金動員を渋っていることの大きな落差」は、COP29の協議では全く取り上げられなかった。また、グリーンエネルギーへの転換に伴う紛争の引き金となる危険についても同様である。このようなエネルギー転換は、特定鉱物(コバルト、リチウム、銅など)の大幅な需要増加をもたらす。採掘の大幅な拡大が予想され、それは、採掘地域の環境、社会、文化に極めて大きな悪影響を及ぼす恐れがある。地元の、多くの場合は先住民のコミュニティーが犠牲になり、採掘企業、政府、コミュニティーの間で局地紛争の危険が高まっている。
より平たく言えば、気候非常事態による影響を最も受けるグローバルサウスのローカル・コミュニティーの懸念や視点はCOP29の議論においては重要ではなく、従って、西洋的かつ国家に基づく国際覇権主義的な理解や枠組み的思考に収まらない気候、紛争、平和の問題(構造的、文化的、認識論的暴力と、人間だけにとどまらない安全保障や平和)は、話題にされなかったということである。バクーやその他の場において、気候、紛争、平和に対する西洋の人間中心主義的な理解が気候/安全に関する国際的言説を支配している。将来の公式なCOP交渉に平和と紛争を含めるという目的が達成されたとしても、また、「平和COP」が実現したとしても、目の前の問題に対する非覇権主義的、非西欧的な理解が取り上げられるとは想像しにくい。しかし、「われわれは気候地獄へと向かう高速道路を、アクセルを踏んだまま走っている」(アントニオ・グテーレス国連事務総長)ことを考えると、平和と地球のためには、それに目を向けることが不可欠である。忘れてはならない。2023年は観測史上最も暑い年となったが、2024年はそれよりさらに暑くなるだろう。地球は、3°Cの地球温暖化に突き進んでいる。これは、2015年COPで採択されたパリ協定の目標値1.5°Cを大きく上回るものだ。化石燃料の生産量は過去最高を記録し、オーストラリアのような化石燃料輸出国は大規模な化石燃料プロジェクトを承認し、助成し続けている。ドナルド・トランプが米国の大統領となる。気候、地球、そして平和にとって、良い状況ではなさそうだ。
フォルカー・ベーゲは、戸田記念国際平和研究所の元上級研究員である。