Climate Change and Conflict アヌラダ・ナガラジ  |  2022年02月23日

気候移住がベンガル湾地域の紛争に拍車

Image: Flooding in Dkaha 2020 - Sk Hasan Ali/Shutterstock

 この記事は、2022年2月15日に「Thomson Reuters Foundation News」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。

 気候変動の圧力は、人々が故郷を離れることを余儀なくし、土地、水、鉱物といった貴重だが減少しつつある天然資源をめぐる緊張を悪化させている、と新しい報告は指摘する

 気候変動による移住、土地の喪失、立ち退きにより、ベンガル湾沿岸では軍事衝突や内戦激化の恐れがあると、科学者らが火曜日に述べた。

 この地域は異常気象が頻繁に発生し、また、戦略的、社会的、経済的な断層線も存在するため、社会的摩擦や暴力を生む「肥沃な土地」であると彼らは警告した。

 オランダのシンクタンクであるクリンゲンダール研究所とインドの平和紛争研究所による報告書によれば、この地域ではすでに、資源、アイデンティティー、移民流入の増加をめぐって紛争が散発している。

 「気候変動が社会経済的格差を拡大し、場合によっては、それが政治的不安定へと発展し、紛争を拡大する恐れがある」と、報告書執筆者の一人、アングシュマン・チョウドリーは述べた。

 「移住はこの因果連鎖における重要な環である……。いわゆる『地元民とよそ者』の対立が増えている」と彼は言い、移住側と受け入れ側コミュニティーとの間の緊張に言及した。

 200万平方キロメートルを超える広範なベンガル湾地域では、壊滅的な洪水、致命的な熱波、破壊的なサイクロンが多数の死者を出し、バングラデシュのほか、部分的にスリランカ、インドネシア、ミャンマー、インドに影響を及ぼす。

 報告書は、土地、森林、水、鉱物といった、貴重であるが減少している天然資源の支配権をめぐる社会集団間、地域間、国家間の紛争を指摘した。

 例えばバングラデシュのクルナ地方では、農民とエビ養殖業者との間で水資源の塩水化をめぐって「暴力の時期」があったことが記されている。

 また、インド北東部で資源をめぐる紛争をきっかけとする民族分離主義運動が多数発生していると指摘した。

 報告書共同執筆者のシッダールト・アニール・ナイルは、ベンガル湾沿岸地域は世界人口の4分の1が居住しており、急速に減少しつつある土地をめぐる争いの格好の見本となっているとウェビナーで語った。

脅威の増幅要因

 報告書は、社会文化的に類似する集団が暮らす国々を横切る穴だらけの国境を指摘したうえで、移住によって引き起こされる紛争が増大していると警告し、「気候に起因する」移動がその主な促進要因であるとした。

 また、5カ国の全てで、沿岸地帯から内陸部への国内移住が無制御な都市化をもたらし、緊張や犯罪を引き起こす恐れがあると警告した。

 インドでは北東部のアッサム州でインド・バングラデシュ間の国境を越えて移動する人々に起因する反移民暴力が発生し、一方バングラデシュではミャンマーからのロヒンギャ難民に反対する地元民の抗議活動が行われている。

 特に、海面上昇は将来的に土地とインフラの喪失をもたらすほか、戦略的軍事資産の立地や配置を変更すると、研究者は述べた。

 また、気候ストレスは「リスク」でもあり「脅威の増幅要因」でもあるとして、研究者らは、この現象が移動を余儀なくされたコミュニティーのレジリエンスにも影響を及ぼしているとする。

 報告書は、バングラデシュのバシャンチャール島の例を挙げ、海面上昇、浸食、サイクロンが島に暮らすロヒンギャ難民の生活状況に深刻な影響を及ぼす恐れがあると指摘した。

 気候変動による圧力はまた、土地の減少、収奪、劣化に拍車をかけ、農村や少数民族の間の経済的・社会的不安を煽り、新たな様相の暴力的紛争をもたらす可能性もあるとしている。

 紛争や軍縮の研究を専門とするスウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)で気候変動およびリスクに関するプログラム(Climate Change and Risk Programme)の責任者を務めるフロリアン・クランペは「気候変動はさまざまなタイプの暴力や人間の安全保障欠如のリスクを増大させる」と述べた。

 この問題に対処するためには平和構築と開発が必要であると、彼は言った。

 報告書は、リスクに瀕した人々の対処を助けるために、意識向上、伝統的な適応方法の支援、草の根リーダーシップの促進、官民協力の構築といった多面的な戦略を提案した。

 また、被害を受けるグループを守る早期警戒メカニズムや緊急対応システムをより有効に策定するために、地域タスクフォースを設置することも呼びかけている。

アヌラダ・ナガラジは、トムソン・ロイター財団ニュース(Thomson Reuters Foundation News)の記者を務めている。