Climate Change and Conflict ロバート・ミゾ  |  2022年06月24日

中国における市民社会と気候行動、そして国家

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 市民社会は、気候変動との闘いにおける主要な行為主体である。彼らは、各国機関や政府間プロセスが停滞している場合には活を入れ、これらの公的主体に気候変動対策の責任を取らせる力を秘めている。中華人民共和国は、あらゆる点で共産主義独裁国家であるにもかかわらず、気候変動に取り組む団体などの環境市民団体に対し、大幅な、ただし明確に規定されたスペースを認めている。この20年ほどの間に、気候変動問題に取り組む野心的な目標を掲げた気候市民団体が次々に誕生した。しかし、詳細に検討すると、これらの団体が占める政治的スペースの抑制的性質ゆえに、彼らの影響力は限定的であることが分かる。

 革命前の中国において、市民社会は活気にあふれ、民衆的なものだった。政治、社会、宗教といった分野においてさまざまなタイプの市民社会団体から、果ては完全なる犯罪組織まで存在した。しかし、1960年代から1970年代の文化大革命により、中国における自律的な市民社会はほぼ完全に破壊された。中華全国総工会、中華全国婦女連合会、中国共産主義青年団など、わずかに存続した退屈な市民社会団体は、共産党の政策に異議を唱えるのではなく、党のメッセージを伝達することを主な機能とした。1970年代の自由化の時代、分権化と市場競争が導入されて国家中央集権主義に対抗し、市民社会団体はある程度のスペースを取り戻した。このような状況を背景に、環境団体や気候変動に取り組む市民団体は増加し、共産党から“トラブルメーカー”と見なされていた(現在も見なされている)民主主義や人権のために闘う団体に比べると、より広い政治的スペースを享受した。

 また、中国のNGOは、1980年代後半に制定された三つの行政規則によって統制されている。具体的には、社会団体登記管理条例、基金会管理条例、外国商会管理暫行規定である。これらの規則に基づき、2段階の管理体制が生まれた。その下でNGOは政府機関をスポンサーとすることになっており、スポンサー機関はNGOの日々の業務を監督するとともに、関係するNGOの活動に対する年度審査を行うことになっている。2016年外国NGO管理法は、外国NGOの活動を警察の監視下に置いた。

 中国における国家と環境市民団体の関係は、「独裁主義的環境保護主義」の政策パラダイムによって規定されている。このような環境ガバナンスモデルでは、政策づくりへの国民参加は科学技術分野の限られたエリート層のみに認められており、それ以外の人々は、国家主導のプログラムまたは政策の実施を手伝うための参加しか期待されていない。中国における気候政策の策定は、5カ年計画、命令・統制型規制(従来的な環境ガバナンス)、環境保護部およびその地方機関、国家発展改革委員会など、政府機関や政府のメカニズムの排他的権限の下にある。

 とはいえ、政策発足への国民参加の余地は明らかに限定的であるものの、1994年に緑色文化分院(Academy for Green Culture)と呼ばれる最初の環境NGO(後に自然の友(Friends of Nature)に改名)が設立されて以来、これまでに2,000を超える環境NGOが誕生した。今日、中国気候行動ネットワークの傘下で多くの気候市民団体が活動している。いくつか挙げると、中国国際民間組織合作促進会、中国青年気候行動ネットワーク、自然の友、環境開発研究所(The Environmental and Development Institute)、北京地球村(Global Village Beijing)、緑家園志願者(Green Earth Volunteers)、廈門緑拾字環保服務社(Xiamen Green Cross Association)などがある。これらの団体の活動は主に、政策の実施、啓蒙キャンペーン、教育・研究のほか、「ダウンストリーム活動」と呼ばれるものを構成する他の機能に限られている。

 とはいえ、少数の事例では、気候変動に取り組むNGO、特に国家構造に組み込まれ、その枠内で運営する団体が政策策定に影響を及ぼしている。これは、その団体と支配者層の距離の近さ、当該の政策課題の性質といった要因に依存する。2004年に環境NGOのグループが開始した「26度運動」は、市民社会が政策変更に関与した最たる例の一つであり、この運動を受けて国務院は、中国の全ての公共建造物における全てのエアコンを夏は26°C以上、冬は18°C以下に設定すると規定した法律を可決した。中国企業連合会持続発展工商委員会(CBCSD)が策定した温室効果ガス排出量算定に関するガイドラインは、国家基準として認められ、採用されている。エネルギー・輸送イノベーションセンター(iCET)は、2017年に輸送部門向け燃料の国家基準を策定するため国家標準化管理委員会に協力した。2014年、中国の第13次5カ年計画(2016~2020年)に気候変動適応策を含めることを、環境NGOらが要請した。政府は、彼らの要請を受け入れ、取り入れた。

 気候変動に対する市民社会の取り組みは、ダウンストリーム活動においてより活発であり、政府もそれを推奨している。人気の高い運動としては、中国国際民間組織合作促進会(CANGO)と米国のNGO環境防衛基金が共同で企画したグリーン通勤ネットワーク(Green Commuting Network)がある。これは、自動車利用の抑制、低炭素な地下鉄定期券の推進、オンラインの炭素排出量計算ツールに関する意識を高めることを目的としている。四川省では、北京地球村が実施する低炭素プロジェクトや農村部エコビレッジプロジェクトが進行中であり、持続可能かつ低炭素な農村開発を主要な目標としている。山水自然保護センターは、森林炭素プロジェクトなどのカーボンオフセット・プログラムを実施し、エネルギー消費・炭素排出量測定法を開発した。中国市民気候行動ネットワーク(CAN-China)は、気候変動に取り組む市民社会団体のネットワークであり、情報共有を促進し、共同気候行動を実施している。これらは、進行中の多くの運動やプログラムのほんの数例であり、中国における気候活動が政策策定よりも政策実施面においてはるかに顕著であることを示している。

 今後は、政策マトリクスに環境民主主義の概念を取り入れることによって、気候変動との闘いへの貢献における気候変動活動家の影響をより効果的にすることができるだろう。そのためには、情報アクセス、意思決定プロセスへの国民参加、環境問題における司法アクセスといった一定の手続き上の権利を、より幅広く利用できるようにする必要があるだろう。現行の硬直的なトップダウンの政策策定メカニズムから脱し、環境ガバナンスにおける大衆参加、透明性、説明責任を保証する新たなボトムアップのアプローチへと移行するべきである。

ロバート・ミゾは、デリー大学カマラ・ネルー・カレッジの政治学および国際関係学助教授である。デリー大学政治学科より気候変動政策研究で博士号を取得した。研究関心分野は、気候変動と安全保障、気候変動政治学、国際環境政治学などである。上記テーマについて、国内外の論壇で出版および発表を行っている。