Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ポール・マイヤー  |  2020年11月26日

板挟みになって:NATOの非核兵器保有国、NPT、そしてTPNW

 多くのNATO加盟国にとって、この数年間は、核政策の面で困難な時期だった。ジレンマの元は、核兵器禁止条約(TPNW)の登場である。この条約は、いわばホブソンの選択をNATO加盟国に突き付けた。2017年7月に採択された同条約は、(発効要件である50カ国の批准を(2020年)10月24日に達成したことを受けて)2021年1月22日に発効する。世界の核ガバナンスにおいて初めて、TPNWは、核兵器の使用または使用の威嚇に加えて、その保有を非合法化した。また、条約締約国の領内に核兵器や関連インフラを受け入れること、あるいは条約に違反するいかなる「支援」を提供することも、具体的に禁止している。

 新条約のこれらの規定は、核不拡散条約(NPT)の原初的な多国間核ガバナンス合意を大きく超えるものである。1970年に発効したNPTは、190カ国が加盟し、現存する国際安全保障合意の中で最も広く支持されているものの一つである。NPTは、3本柱からなる「一括交渉」を明文化したものである。すなわち、米国、ロシア、英国、フランス、中国の5核兵器国(NWS)は、核軍縮を実現するための交渉に全力を傾ける。非核兵器保有国(NNWS)は、核兵器の製造や取得をしないことを誓う。そして、全締約国が原子力の平和利用を支持する。NPT第6条に定める核軍縮の約束は、かなり一般的な言葉で表現されており(「核軍備競争の早期の停止および核軍備縮小のための効果的な措置、……について、誠実に交渉を行う」)、そのため、NWSは自国がこの義務を尊重していると主張することが可能になっている。その一方で、多くのNNWSは、この部分における本格的な進捗の証拠をほとんど見いだせていない。さらに、NPTは核兵器の保有を認めており(撤廃に向けた途上において。しかし、NWSは折に触れ、同条約は彼らの永続的な核兵器保有を正当化するものだと示唆している)、また、核兵器の使用については言及していない。NPTのこのような欠落があるからこそ、禁止条約の支持者は、国際法上の核兵器の地位と包括的な禁止条約(化学兵器禁止条約、生物兵器禁止条約など)の対象である大量破壊兵器に適用される地位に差をつける“法的ギャップ”を埋めることを主張しているのである。

 TPNWは、明示的にNPTを支持しており、一部のNWSの主張にもかかわらず、NPTと完全に両立可能である(第6条は目標を規定しているが、それを達成するための手段は規定していない)。しかし、TPNWの登場は、核軍縮を目標として掲げる人々に、より高度な法的基準を盛り込んだ合意を紹介するものとなった。また、そのようなNATO加盟国や同盟を結ぶNNWSにとって、TPNWは特別なジレンマをもたらすものとなった。TPNWは核兵器の使用の威嚇を禁止しているため、ある種の不特定の不測事態において核兵器を使用すると威嚇する核抑止政策とは相いれないのである。さらに問題となるのは、NATOの5カ国のNNWS(ドイツ、ベルギー、オランダ、イタリア、トルコ)が米国の核兵器を領土内に受け入れているが、TPNWはそのような「核配備」を禁止しているという点である。また、オーストラリア、カナダ、日本、ドイツ、オランダなど、長年にわたり核軍縮を強力に提唱してきた“核の傘下”国は、いっそう居心地の悪い思いをしている。TPNWを前にして、これらの国は、長年の核軍縮支持に基づいて行動し、TPNWに署名するか、またはNATOの核抑止政策に忠実であり続けるかという選択を迫られている。これまでのところ、NATOのNNWSのすべてが後者の立場を取っている。

 とはいえ、NATOの核抑止政策は、変更される可能性がある政策であることを念頭に置くことが重要である。1949年のNATO創設条約のどこにも核兵器に関する言及はなく、NATO加盟国が核抑止を支持しなければならない法的要件はない。事実、NATOは多様な核政策を経てきており、個別の加盟国はさまざまな場面において、同盟の核政策と自国の姿勢が異なる点を共同声明の脚注によって表明してきた。

 同盟の核政策は、2010年に最新版が発行された包括的政策文書「Strategic Concept(戦略概念)」と、隔年で開催されるNATO首脳会議後に発表される共同声明に、きわめて厳然と記載されている。核問題に関するNATOの表明には、いくぶん矛盾した点が見受けられる。一方、NATOは、加盟30カ国すべてがNPTに加盟していることを強調しており、「核不拡散条約の完全実施に向けた加盟国の強い決意……」を定期的に言明している。オバマ大統領が2009年に行った名高いプラハ演説に呼応して、NATOも、「核兵器のない世界を実現する条件を創出する」ために尽力すると誓い、NPTが掲げるこの長期目標への支持を示した。とはいえ、その条件がどのようなものか、あるいはその創出にどのように貢献するつもりかについては、具体的な表明は行っていない。

 一方、NATOは今なお、その防衛力を通常戦力と核戦力の組み合わせに依存しており、「戦略概念」において「核兵器が存在する限り、NATOは核同盟であり続ける」と宣言している。この表明から導かれる推論、すなわち“NATOが核同盟であり続ける限り、核兵器は存在し続ける”という点を、加盟国は懸念していないようである。

 NATOの核政策の“両陣営に通じる”という性格に加盟国は満足していたかもしれないが、TPNWが登場して、核抑止を真っ向から攻撃し核兵器を不道徳かつ違法な兵器と表現したことから反応を余儀なくされた。2017年9月、NATOはTPNWを拒絶する声明を発表し、条約は「分断をもたらし」、「NPTを弱体化させ」、「国際安全保障環境がますます厳しくなっているという現実を無視している」と批判した。これらの異議はいずれも効果的に反論されうるものだが、NATO加盟国にとっては、この立場に加勢するほうが好都合なのである。というのも、懐疑的な国民に向けてTPNWの拒絶を正当化するために、同盟の結束の必要性を引き合いに出すことができるからである。

 核に依存する同盟国にとって、このような立場が時を経てどの程度持続可能であるかは今後を見なければ分からない。NNWSの核軍縮を熱心に擁護してきた市民団体らは、TPNWに対して敵対的な姿勢はとれないという圧力を受けるだろう。例えば、パグウォッシュ会議カナダ支部は政府に対し、TPNWに署名して条約の目標への支援を示すとともにカナダの条約加盟を可能にする条件を整備するよう要請した。そのためには、NATO内での外交活動によって、核政策を修正してTPNWと両立させる、あるいはそのような修正を実現できない場合は、国レベルで核抑止を否認する必要がある。NNWS同盟国は、自国が困難な状況に陥っていることを認識しているが、TPNWに関して歴史(および道徳)の正しい側に回るための時間と選択肢は、まだある。

ポール・マイヤーは、元カナダ軍縮大使であり、現在はバンクーバーのサイモン・フレーザー大学で国際関係学の非常勤教授および国際安全保障の研究員を務めている。また、パグウォッシュ会議カナダ支部の現支部長を務めるほか、ICT4Peaceの上級顧問、OuterSpaceInstituteの創設メンバーでもある。