Peace and Security in Northeast Asia 文正仁(ムン・ジョンイン) | 2023年02月08日
朝鮮半島の平和のためにバランスの取れたリーダーシップが必要
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この記事は、2023年1月30日に「ハンギョレ 」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。
強固な国家安全保障と戦争をする意思があっても、平和を保証するには十分でない。
2023年に入り、韓国は国家安全保障と経済の分野で一度に二つの危機の到来に直面している。
このうち、より懸念されるのは安全保障の危機で、国内外のメディアが報道している。旧正月の直前に公開された「フィナンシャル・タイムズ」紙の記事は、朝鮮半島で戦争が起きたら生存できる可能性は「ゼロよりわずかにまし」で「首都から脱出できる可能性はほとんどないだろう」と示唆し、大きな議論を呼んだ。
そんなものは根拠のない噂だと思うだろうか? 筆者は、平壌が2022年に核兵器とミサイルの保有に向けて講じた強気の措置を踏まえれば、十分もっともらしいと見ている。
韓国政府の反応は冷徹である。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、1月11日に青瓦台(チョンワデ)迎賓館で行われた外務省と国防省による年次報告において、「攻撃に対して韓国が百倍あるいは千倍の力で反撃できるような、大規模な反撃能力を整備することが、攻撃を予防する最も重要な方法だ」と述べた。
先制攻撃主義は既にほとんど既成事実となっている。
尹大統領は、「北朝鮮の挑発がより激しいものとなれば、韓国は戦術核兵器を配備する[ことをアメリカに認める]か、自国で核兵器を開発することもできる。その場合、わが国の技術を用いて短い期間で自分たちのもの[核兵器]を手にすることができるだろう」とも述べた。
「相手側の善意と終戦宣言に基づく平和は、持続可能でない偽りの平和である。偽りの平和に依拠した国々は歴史のページの中に消えていったが、強さによる平和を追求した国々は、自国の文化を育みつつ人類の文明に貢献してきた」と、尹大統領は冒頭演説で強調した。
「汝、平和を欲するなら、戦いに備えよ」の格言で有名なローマ帝国の軍事学者ウェゲティウスの思想的立場に呼応する、平和に対するこのような姿勢は、これまでのどの韓国政権よりも厳しいものだ。
しかし、北朝鮮の挑発欲望を、圧倒的な強さで挫くことで平和を達成しようという現政権の方針は、本来的に安全保障のジレンマを孕む。ソウルが百倍や千倍の反撃をちらつかせ、圧倒的に優位な軍事力を整備する間、平壌は通常兵器と戦略兵器すなわち核兵器の両方の戦力を増強することで対抗するだろう。
それは朝鮮半島の軍拡競争を激化させ、意図しない衝突の深刻な可能性をもたらす。平壌は、ウェゲティウスが考えたような平和が、交渉や妥協を通じてではなく、カルタゴに対して仕掛けられた種類の戦争、すなわち侵略、破壊そして征服によって達成されると考えることを決してやめないだろう。
国家安全保障は平和のための必要条件であるが、十分条件にはなり得ない。軍事的抑止力と同盟は安全保障にとって不可欠であるが、平和そのものを保証するわけではない。それらは外部の脅威が継続することを前提としているからだ。しかも、戦争、大量破壊、荒廃そして勝利の後に訪れる平和を真の平和と呼ぶことができるかどうかは疑わしい。
その点で、尹政権の強さに基づく平和の追求は、戦争をする意思と平和を装った安全保障ドクトリンであると形容したい。
平和とはプロセスである。安定的で持続可能な平和を達成するために、韓国と北朝鮮は、終戦宣言を採択することで平和構築に取り組む必要がある。休戦状態を平和条約または合意に変換し、両国が緊張緩和、信頼醸成と軍備管理を同時に進めていくということだ。
非核化への道筋はそのプロセスの中で見いだすことができる。
このような行動は「相手側の善意」を受け、それに対する応答ではない。むしろ、相互不信と敵意によって引き起こされる望まない戦争の可能性を排除し、安定的な平和のための基礎を作るために計算されて行うのだ。
冷戦期も、結局のところ、アメリカとソ連の相互の善意に対する信頼が、軍拡競争を緩和させた様々な条約の締結を可能にした。このような行動を「弱腰だ」とか「偽りの平和だ」と嘲るのは、間違いなく公正ではないし、無意味でさえあるだろう。
しかし、そうした平和構築のステップでさえも、不安定な平和を管理するための受け身の手段でしかない。結局のところ、恒久的な平和は、戦争の構造的な原因を取り除くことでしか実現できない。
戦争とは国家間の紛争を意味する。南北朝鮮が一国に統合されたなら、戦争の恐れは当然に消滅する。それこそが、誰もが統一を願う理由である。
しかし、軍事力による統一も、北朝鮮の体制への服従を通じた統一も、選択肢にはない。さらに、体制崩壊した後の北朝鮮を吸収するということもあり得そうもない。
最も望ましい結果は、韓国の憲法に記載されている通り、双方の合意を通じた平和的な統一である。
筆者は、朝鮮半島の和平プロセス、非核化、包括的な経済および社会交流、協力、そして南北連合の全体的なアウトラインが視野に入ってくるとき、朝鮮半島の永続的な平和への扉が開くと考える。
国家安全保障の増強と戦争を行う意思のみでは、平和を保証するには十分でないことを、再度強調したい。われわれは、非核化と平和構築に向けた新たな空間を創出するため、外交リソースを賢く利用できなければならない。
軍事的抑止力を通じた安全保障と外交交渉を通じた平和との繊細なバランスを取れた国だけが、戦争を回避し、もっとも長く平和を継続できたことを、歴史が示している。そのようなバランスの取れたリーダーシップこそ、われわれが今すぐ必要としているものだと、筆者は考える。
文正仁(ムン・ジョンイン)は、韓国・延世大学名誉教授。世宗研究所理事長。これまで文在寅大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。 核不拡散・軍縮のためのアジア太平洋リーダーシップネットワーク(APLN)副会長、英文季刊誌「グローバル・アジア」編集長も務める。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。