Contemporary Peace Research and Practice アミン・サイカル  |  2021年09月20日

タリバンのいる未来に逆戻り?

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 アフガニスタンにおける米国およびその同盟国の敗北とタリバンの復権は、地域の情勢を一変させた。勢力の構図は、タリバンの後援者であるパキスタンとパキスタンの戦略的パートナーである中国にとって有利な方向にシフトしており、両国は、ある種の政策的ジレンマを抱えながら、インド、イラン・イスラム共和国、中央アジアの共和国、そしてこれらの背後にいる大国ロシアに対抗している。しかし、すべてが失われたわけではない。アフガニスタンが非常に統治と維持の難しい国であることは、イスラマバードも北京も分かったのではないだろうか。

 西側の支援を受けたアフガニスタン政府の弱さや、アフガン紛争に対する米国とNATO同盟国の対応のまずさにもかかわらず、パキスタンによる武装勢力への重要な支援がなければ、タリバンは権力を再び掌握することに成功していなかったであろうことは、いまや紛れもなく明白である。タリバンは、1994年半ばにパキスタンで生まれた。当時のパキスタン内務大臣ナスルッラー・ババル(1993-1996年在任 )が、この集団を創設したと広く信じられている。タリバンは、同国の強大な、いたるところに浸透する軍統合情報局(ISI)の継続的支援のもとで機能してきたのである。

 パキスタンは、タリバンの指導者や兵士たちに安全な避難場所、後方支援、物質的支援を提供し、25年以上にわたってアフガニスタン・パキスタン間の通行自由な国境を行き来させてきた。揚げ句の果てに、ISI局長のファイズ・ハミード中将は、タリバンによるカブール制圧の直後に最初の外国高官として同市を訪問した。訪問の目的は、タリバンが全員男性からなる内閣を組織する際に権力の配分を巡って指導者間で起こった内輪もめを仲裁し、アフガニスタンでタリバンの支配が及んでいない最後の州であるパンジシール州を制圧する権限を付与するためである。

 EUはいまや、「パキスタンは、特殊部隊を派遣し、航空支援を提供することによって、[パンジシールのアフマド・マスード率いる国家抵抗戦線(NRF)との]戦闘においてタリバンを支援している」と、その決議において明確にしている。アフマドは、伝説的人物、アフマド・シャー・マスード司令官の息子である。マスード司令官は、1980年代にソ連と、その後はタリバン・アルカイダ連合と果敢に戦い、9.11の2日前にアルカイダ工作員に暗殺された。

 タリバンの勝利は、地域に深刻な戦略地政学的影響を及ぼしている。目下その恩恵を受けているのはパキスタンだけではない。パキスタンの緊密な戦略的パートナーである中国も地域的影響を拡大し、パキスタンからトルコまで一帯一路イニシアチブを強化できる位置につく可能性がある。北京はすでにタリバンの支持を言明しており、タリバンは中国をビジネスパートナーと呼んでいる。

 北京は、結局タリバン政権を一番乗りで承認する可能性がある。特にアフガニスタン国境に近い中国新疆ウイグル自治区の不穏なイスラム教徒ウイグル人に関連して、イスラマバードがタリバン政権を抑制し、中国に対してトラブルを起こさないようにすることを期待できる。また、中国はアフガニスタンに眠る推定1兆米ドルの価値を持つ未開発の鉱物資源に、より容易にアクセスできるようになる。中国は過去にもアフガニスタンとの間で、2009年にアイナク銅山を採掘する34億米ドルの契約を結び、その2年後にはアムダリヤ油田を開発する100億米ドルの契約を結んでいた。しかし、アフガニスタンの不安定な情勢により、どちらも実現には至っていない。 このことは、今年初めに中国がイランと25カ年の戦略的協力協定を締結したことと併せ、北京が地中海を目指して影響力を拡大する余地を広げるものである。そのために中国は、イラク、シリア、レバノンにおけるイランの広範な影響力、そして他の二つの親友であるロシアとトルコのシリアにおける影響力を利用しようとしている。

 パキスタン−中国−タリバンの連帯は、地域におけるパキスタンの最大のライバルであり、伝統的にアフガニスタンで重要な役割を果たしてきたインドの戦略的後退をもたらさないわけはない。インドは、過去20年間で約20億米ドルをアフガニスタン復興のために投資してきた。インドはまた、パキスタンを迂回する手段としてイランのチャーバハール港を開発し、同港湾およびそこにつながる道路網と鉄道網を利用してアフガニスタンや中央アジアの諸共和国へのアクセスを実現するため、イランとの合弁事業に着手している。今になってニューデリーは地域の新たな現実に直面しており、いわばパキスタンに裏を書かれたような状況に陥っている。

 圧倒的にシーア派イスラム教徒の多いイランの方も、独自のジレンマに直面している。一方でイランは、2016年からタリバンと「斧を埋めて仲直りする」道を模索しており、受容的な一部のメンバーを口説くとともに、最近では、タリバンがアフガニスタンの将来において重要な役割を果たすという理解に関するタリバンとカブールの非政府グループの調停会合を開催していた。他方、タリバンのスンニ派イスラム教の過激な体質を承認することはできない。アフガニスタンに再び米国の敵が現れたことを喜びつつも、テヘランはさまざまな文化団体や報道機関を設立するなど、アフガニスタン復興のために投じた多額の投資をいかにして守るかだけでなく、アフガニスタンの人口の15〜20%を占めるシーア派の権利をいかにして保護するかについても心配しなければならない。

 しかし、すべてが失われたわけではない。タリバンは一枚岩ではない。タリバン指導者の出身地域は大別して二つ、カンダハル州とパクティヤー州およびパクティーカー州である。カンダハル州は、ムラー・ハサン・アフンド首相代行とムラー・アブドゥル・ガニ・バラダルが率いている。パクティヤー州およびパクティーカー州は、獰猛なハッカニ・ネットワークの指導者シラジュディン・ハッカニが率いている。どちら側の指導者もISIやアルカイダとつながりがあり、イスラムの解釈と適用において過激主義で、そのほとんど(アフンドも含め)が国連のブラックリストに載っているが、ハッカニはFBIのテロ犯罪最重要指名手配者リストに入っており、ハッカニ・ネットワークは輪をかけて過激である。また、指導者の中にはかなり世俗化した者もいるが、彼らの司令官や戦闘員の大部分は、パキスタンのイスラム神学校で非常に偏狭な教育を受け、都市生活の経験もなく、世俗化はしていない。すでにカブールのタリバン指導者の間で権力闘争が起こっており、一部の指導者が節度を求めているにもかかわらず歩兵たちが現地で野蛮な振る舞いをしているという報告がなされている。

 また、アフガニスタンのタリバンの勝利がパキスタンにも跳ね返らないという保証はない。それは、パキスタンのタリバンとその支援者、さらには、特にパキスタンのパクトゥンクワ州(北西辺境州)やバルチスタン州の分離主義者たちをつけ上がらせる可能性をはらんでいる。また、一部のタリバンはすべての国と良好な関係を求め、承認と支援を得ようとしているが、それが実現しない場合、パキスタンは有望な代わりにはなれない。

 NRFの戦闘員はパンジシール付近の山中でタリバンとの戦闘を続けているが、それを別にしても、経済危機と人道的危機が拡大するなか、タリバンの支配に対する他の抵抗組織の形成や民衆蜂起の可能性を無視することはできない。これらの要因は、他の敵対する近隣諸国や地域の勢力がタリバンを押しのける十分な機会をもたらす。

 アフガニスタン危機は、新たな局面に入った。タリバンとパキスタン側支援者が浮かれるのは早すぎる。

アミン・サイカルは、シンガポールの南洋理工大学ラジャラトナム国際学院で客員教授を務めている。著書に“Modern Afghanistan: A History of Struggle and Survival” (2012)、共著に“Islam Beyond Borders: The Umma in World Politics” (2019)、“The Spectre of Afghanistan: The Security of Central Asia” (2021) がある。