Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ラメッシュ・タクール  |  2021年11月17日

AUKUS加盟国はフランスとの関係修復へ挽回努力が必要

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 この記事は、2021年11月16日に「The Strategist」に初出掲載されたものです。

 スコット・モリソン豪首相は、エマニュエル・マクロン仏大統領とジョー・バイデン米大統領とのいざこざに巻き込まれている。そのため、パワーの不均衡を考えると、オーストラリアは身の丈に合わない大国間関係のなかで無防備かつ脆弱な状態に置かれる恐れがある。2頭のゾウが争うときも交尾するときも、草は踏みつけられるという民話は、アフリカとアジアの各地にさまざまな形で見られる。ペロポネソス戦争を記録したトゥキディデスの著作『戦史』の「メロス対談」で、メロス島はアテネ陣営により、正義や公正の問題はパワーが対等な者同士の関係においてのみ適用されるものだと、厳しく警告される。それ以外の関係では、「強い者はできることをやり、弱い者はしなければならないことをやる」のである。

 そもそも契約を結ぶべきではなかった取引をキャンセルしたことは、正しい判断であった。先進的な原子力潜水艦をリバースエンジニアリングして、航続距離、海中耐久性、ステルス性、総合的攻撃力の低い技術的劣化版を設計し、オーストラリアの労働者と製造施設を用いるという要件により、コストが増大し、所要期間が長引いた。モリソンは、アタック級潜水艦の建造という不可解な要請を覆し、最も重要な防衛調達事業をオーストラリアの急変した戦略的状況に合わせて修正し、信頼できる同盟国の心地良い抱擁へと戻ったのである。

 したがって、国家安全保障上の愚行と呼ぶべきは、最適とはいえない潜水艦契約の破棄ではなく、既存の契約がないという法的空白と、今後20年間新たな潜水艦がないという、運用上の空白である。外交的愚行としては、インド太平洋地域へのフランスの関与における最大の呼び物を台無しにしつつ、そもそもオーストラリアのミスによるコストと困惑の負担をすべてフランスに押し付けたことである。これは、中国がもたらす多面的な課題に対抗する民主主義同盟の集団的結束と団結を弱めずにはいられない。

 AUKUS加盟国は、この外交的試練に失敗し、その損失を修復するために挽回の努力をしなければならない。オーストラリア海軍の能力を高めることによって、より効果的にインド太平洋における西側諸国の軍事力を取り戻すことができるだろう。しかしEUは、世界の金融、貿易、インフラ、保健、人工知能、グリーンテクノロジー分野で、配線をやり直したルールに基づくリベラルな国際秩序のなかで、はるかに大きな貢献をすることができる。その秩序の制御回路は、主に欧米の首都に所在している。米国にとっても英国にとってもフランスのほうが決定的に重要であるため、オーストラリアはマクロンをなだめるためのスケープゴートにされる可能性もある。

 2021年11月3日の<オーストラリアン>紙印刷版1面に掲載されたポール・ケリーによる論説は、「マクロンが欺かれたのは明白、わが国首相に選択肢はなかった」という見出しをつけた。ケリーは、二つの「受け入れ難く」かつ両立し難い「現実」、すなわち「マクロンは欺かれ、モリソンにはそれを彼に伏せるだけのもっともな理由があった」という面から議論を展開した。しかし、カナダ人の歴史家マーガレット・マクミランは、第一次世界大戦の勃発に関する権威ある解説書『第一次世界大戦 平和に終止符を打った戦争』において、「常に選択肢は存在するのだ」と結論している。モリソンは「うそつきで有名」という、マルコム・ターンブル前首相の発言はターンブルの満たされない憤りを反映しているが、ジュリー・ビショップ前外相、ピーター・バーギーズ元外務貿易省次官、ジョン・マッカーシー元副次官による批判は、抑制的でありながらより痛烈である。「通常以上に国内政治のプリズムを通してなされた」(バーギーズの言)外交政策決定により、極めて重要な関係に深刻な亀裂が入る恐れがある。オーストラリアの信頼性と信用性に対する評判は、フランスだけでなく欧州で打撃を受けている

 <オーストラリアン>紙の元ワシントン特派員キャメロン・スチュアートは、AUKUSの最高交渉担当者の間で交わされた議論の15ページにわたる機密記録を解析した。この記録には、新たな協定を世界に発表するに至るまでの詳細が正確に記されている。英国または米国から原子力潜水艦を購入するために、既存の900億豪ドルのアタック級潜水艦調達契約が反故にされるということは、同日、2021年9月16日にフランスに伝えられることになっていた。政府高官はフランスの驚きと怒りを予想していたが、AUKUS加盟国は、マクロン個人とフランス全国の憤りの深さを完全に甘く見ていた。10月31日に、モリソンが不誠実だったと思っているかと尋ねられたマクロンは、「思っているのではなく、そうだったと知っている」と答えた。

 米国にとっては、オーストラリアよりフランスのほうがはるかに重要である。だからこそバイデンは、G20ローマ・サミットでマクロンにへつらうような発言をした。「米国にとってフランスほど長年にわたる、誠意ある、真っ当な同盟国はない」と、バイデンはマクロンに断言するとともに、潜水艦問題への無作法かつ不調法な対応を謝罪し、パリはキャンベラから話を聞いていると思っていたと述べた。

 バイデンが最新情報を知らされていなかった、あるいは単に協定をまとめるまで秘密を守る必要があると把握していたことを忘れてしまったという可能性があるかもしれないが、まずないだろう。最もありそうな説明は、フランスが本気で怒っているという冷静な計算である。フランスは米国に依存していないが、極めて重要なパートナーであり、米国の欧州関与におけるかなめである。オーストラリアには、米国政府の言い分を無理やり飲み込み、受け入れる以外に選択肢はない。

 米国、中国、フランスのような大国が追求するのは、帝国的外交政策であり、倫理的外交政策ではない。オーストラリアは、習近平にターゲットにされ、マクロンに嘲られ、バイデンに裏切られている。

 オーストラリアがフランス解放のために命を投げ出した兵士たちのことを何度も蒸し返すのは、正直言ってうんざりさせるものだ。オーストラリアは、フランスを解放するために第一次世界大戦に参戦したのではなく、英国とともに戦うためである。それは、米国がオーストラリアを救うために第二次世界大戦に参戦したのではなく、日本に攻撃されたからであるのと同じである。よく知られているように、パーマストン卿は、国家には永遠の敵も永遠の味方もない、あるのは永遠の国益のみだと言った。それは、原子力潜水艦に関するオーストラリアの心変わりを正当化すると同時に、フランスをなだめようとする米国の姿勢を正当化する。それが世の中の仕組みであることを理解し、ふてくされる代わりにリアルポリティークに取り組む成熟度がオーストラリアには必要である。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を努め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。