Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ヒュー・ホワイト  |  2023年04月03日

米国が中国と戦うならばAUKUSはオーストラリアの参戦を確約する

Image: Tomas Ragina/Shutterstock

 この記事は、2023年3月22日にローウィ研究所により「The Interpreter」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。

 どの旗を掲げるにせよ、ワシントンは台湾有事の際に当てにできる相手でない限り原子力船を売ることはないだろう。

 オーストラリアのリチャード・マールズ国防大臣は、AUKUSに基づく潜水艦取り引きによって、オーストラリアが台湾をめぐる中国との戦争で米国を支援する義務が生じることはないと確信している。3月19日、マールズはABCの番組「インサイダーズ」に出演してインタビューに応じ、ホストのデビッド・スピアーズによる二つの質問に対して二つの異なる言い方で主張を述べた。

スピアーズ: これらのバージニア級潜水艦を手に入れるのと引き換えに、オーストラリアは米国に対し、明確に、あるいは暗黙裡に、台湾有事の際は駆け付けるという約束をしたのですか?

マールズ: それに対する答えは、「もちろん違う」です。(中略)多くの評論家がそのような憶測を口にするのを聞きましたが、それは明らかに間違っています。

スピアーズ: つまり、バージニア級潜水艦を手に入れた代償はないと?

マールズ: 全くもってありません。これ以上ないほどはっきりいえます。(中略)2030年代初めに最初のバージニア級潜水艦に[オーストラリアの]旗が掲げられる瞬間は、その潜水艦がその時のオーストラリア政府の完全支配下にある瞬間です。(中略)明らかにそれを前提として、これが起こっています。

 マールズの2番目の答えは実に正しい。バージニア級潜水艦がオーストラリアの指揮下にあるオーストラリア海軍の任務に就いているなら、それらはオーストラリア政府が派遣しない限りどこにも行かない。それはオーストラリアが選択することだ。

 しかし、肝心な点はそこではない。本当の問いは、「AUKUSがその選択、つまり中国との戦争に参加するか否かに関するオーストラリアの選択にどう影響するか」である。その答えは明らかだ。米国が中国と戦う場合、AUKUSはオーストラリアの参戦を確約する。なぜなら、もし戦わないならAUKUS協定は破談になるからだ。つまり、スピアーズの最初の質問に対するマールズの答えは間違っている。

 なぜなら、米国がバージニア級潜水艦を売るのは、その潜水艦が中国との戦争で米国の作戦に参加すると絶対に確信している場合に限るからだ。潜水艦は、米国海軍の戦力組成の中から直接提供される。オーストラリアのニーズによって追加のバージニア級潜水艦が建造されることはないからだ。つまり、オーストラリア海軍に潜水艦が1隻加われば、米軍の潜水艦が1隻減るということであり、米国海軍はすでに潜水艦が極めて不足している。ワシントンが、中国との軍事的競争がエスカレートする中でこのような形で潜水艦戦力の大幅縮小に同意するなど、とにかく信じられないことである。従って米国は、オーストラリアに譲り渡すバージニア級潜水艦が戦時になれば利用できるという強い確証がなければならない。

 また、中国との戦争で米国を支援するというオーストラリアの確約が明確でなければ、ワシントンは、英国とオーストラリアが共同開発するAUKUS級潜水艦に不可欠なシステムや技術を提供しないだろう。そうでなければ、このような異例の措置を講じるわけがないだろう? オーストラリアが中国との戦争に参加する気がない限り、米国にとってAUKUS協定は利益にならない。

 つまり、米国側にとっては少なくとも、明確な暗黙の約束がなければならない。おそらくその約束は、この協定を進展させるのであれば、近いうちに極めて明示的にする必要があるだろう。米国連邦議会が確かな約束がないままバージニア級潜水艦の譲渡を承認するとは考えにくい。

 実際、AUKUSがここまで進展したというのは、ワシントンがオーストラリアの確約を当然のことと捉えているからにほかならない。彼らは、われわれ(オーストラリア)が一世紀以上にわたって全ての戦争をともに戦ったと言い続けている。彼らは、2021年に当時のオーストラリア国防大臣で現野党党首のピーター・ダットンが、オーストラリアが米国とともに中国と戦わないということは「あり得ない」と言うのを聞いたし、アルバニージー政権が同盟についてどのように語っているかも聞いている。だから、われわれが彼らのために駆け付けないなど、彼らの脳裏をかすめもしないだろう。

 2022年7月、米国の統合参謀本部議長を務めるマーク・ミリー大将がABCの番組「7.30」で、ワシントンはオーストラリアがアジアでの戦争に参加することを期待しているかとサラ・ファーガソンに問われた際、彼はそのような姿勢を露わにした。「将来何か起きた場合も、オーストラリアと米国は肩を並べて協力するだろう」と、全幅の信頼を表明したのである。

 それもそのはずだ。米国側はこれを、われわれが非常に大切にし、外交政策と戦略政策のまさに中核であると断言する同盟の根本的義務と見なしている。ワシントンで最も高く評価された人物の一人であるリチャード・アーミテージが、25年近く前にオーストラリアの高官らを前に簡単明瞭な言葉でこれを明言したことを、その場にいた者は誰一人として忘れることはないだろう。

 つまりAUKUSは、アルバニージー政権がオーストラリアは米国とともに中国と戦うことを明確に認めて初めて機能するということだ。しかし、それは、米国が勝利する明確な手段を持たない戦争であり、核戦争になる可能性も高い。それは、AUKUSがばかげた考えである多くの理由の一つである。それはまた、米中対立に対するオーストラリアの全体的アプローチについて大きな疑問を投げかけるものでもある。

ヒュー・ホワイトは、オーストラリア国立大学の戦略研究名誉教授。オーストラリアの戦略・国防政策、アジア太平洋安全保障課題、特にオーストラリアおよびアジア太平洋に影響を与えるグローバル戦略問題を研究している。