Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ハルバート・ウルフ | 2021年11月09日
われわれは中国との冷戦に向かっているのか?
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ここ数カ月、「冷戦の再来が迫っている、今度の相手は中国だ」という声をよく聞く。その危険はどれほど大きいのか? 危険な対立を示唆する状況もあれば、ソ連やその同盟国との冷戦時代とは全く異なる状況もある。
インド太平洋地域における地政学的な動きを見ると、新たな冷戦、あるいは生存にかかわる軍事衝突を恐れることは現実的である。中国空軍は挑発的な飛行で台湾領空を侵犯し、この島を人民共和国に併合する意図を明確にしている。南シナ海では、領有権が争われている島々を中国海軍が占拠し、軍事基地として拡張している。軍事費は急激に増加しており、全ての大国が核兵器を含む武器の近代化を図っている。オーストラリアが中国の制裁を受けているのは、コロナウイルスの起源解明に関する中国政府の不透明な政策をあえて批判したからである。米国はこれに異を唱え、インド太平洋地域における軍事的プレゼンスを強化している。英国、フランス、さらにはドイツまでもが、インド太平洋地域に軍艦を派遣して旗を掲げている。米国、英国、オーストラリアは、明らかに中国への対抗策であるAUKUSによって軍事同盟を形成している。米国は、日本、韓国、インドで共通の反中政策を採るよう働きかけている。多くの兆候が、東西対立時代と似た切迫するエスカレーションと軍事的拮抗を示している。
特に問題なのは、敵対国の政府が少なくとも定期的に連絡を取り合えるような実効性のある軍備管理フォーラムがないことである。冷戦時代には、核兵器に関しては1960年代後半から、通常兵器に関しては1973年から、そのようなフォーラムがあった。しかし、当時は自国の軍拡努力を矮小化し、敵国のそれを誇張するという小手先の術が使われたため、このような交渉には極めて時間がかかった。とはいえ、軍拡競争をコントロールし、誤って戦争を始めることを防ぐために、少なくともさまざまなフォーラムがあり、ホットライン、いわゆる「赤電話」もあった。実際、1990年代には核兵器、ミサイル、通常兵器が順調かつ大幅に削減された。そのようなフォーラムは、海、空、宇宙におけるとどまるところのない軍拡競争にストップをかけるために、現在においても必要である。
東西対立と今日の中国との競争および対立は、イデオロギーの衝突と経済的な相互依存という二つの主要な分野で相違点がある。
米国とソ連およびそれぞれの同盟国の間の冷戦は、これまでずっと、体制の対立として的確に評されてきた。共産主義、社会主義、計画経済の体制と、自由主義、民主主義、資本主義の体制である。ソ連崩壊という形で決着がついたこの論争は、数十年間にわたって、当時「第三世界」と呼ばれた国々を従属国家にしようとする競争だけでなく、それはイデオロギー闘争でもあった。社会主義は西側諸国でも共感を呼び、資本主義に代わるものとして魅力的に感じられた。現在でも、政府や知識人は、中国共産党の権威主義体制に対して、民主主義、自由、人権といった西側の価値観を守る必要があると強調している。しかし、中国国内で非常に一貫して適用されているそのような中国の体制は、独裁者の興味を引くだけである。中国の社会システムを求めるデモや称賛は、毛沢東の教えとは異なり、今日の西側諸国で起こることはない。今日の中国の体制は、せいぜいのところ経済的効率性による一定の訴求力を持つ程度である。西側の大規模プロジェクトの計画期間に絶望している一部の人々は、中国の効率性を切望している。しかし結局のところ、高速鉄道建設のために地区全体を移転させるといった残酷な行為などの付随的な被害を考慮に入れれば、中国の経済的効率性はかなりの傷を負う。
中国と米国、EU、他の民主主義国との経済的関係は、冷戦時代の東西関係とは大きく異なる。中国は、全世界に君臨する経済大国になる道を突き進んでいる。ソ連は、決してそうではなかった。中国と他の国々との貿易関係は、今日きわめて緊密である。ソ連は、重要ではあるものの、常にエネルギー供給国でしかなかった。新たな冷戦の可能性という問題にとっては、これは良い材料でもあり、悪い材料でもある。1977年という早い段階から、米国の政治学者ロバート・O・コヘインとジョセフ・S・ナイは、共著『パワーと相互依存』(Power and Interdependence)の中で大国の力関係における相互依存性の重要性を強調していた。彼らの主張は、簡単に言えば、経済的に密接な関係がある国は紛争を軍事的に解決するより協力し合う傾向があるということである。しかし、中国との密接な経済的結びつきは、両刃の剣である。相互依存性はせいぜい軍事的冒険を回避する保険になる程度であり、なぜなら双方がダメージを負う可能性が高いからである。しかし、緊密な経済的相互依存は、依存性と脆弱性をも意味する。パンデミックにより、われわれはそれを嫌というほど体験したばかりである。
米国は、この危険な軍拡競争においてソ連に勝利した。東側の同盟国は、経済的荒廃のため軍拡競争をさらに加速できる状態ではなかった。このような崩壊は中国には期待できない。それどころか、中国は経済力を拡大し続けており、当面の間、軍事費を増やす余裕が十分にある。
では、中国とどのように向き合うべきか? これについては西側諸国にも意見の相違がある。米国では、ドナルド・トランプ大統領が中国との厳しい対決姿勢を打ち出し、言葉の上だけでなく、経済的にも中国への制裁を課し、軍事力を増強した。ジョー・バイデン大統領は、やり方はより融和的かもしれないが、彼も中国に対して対決的な姿勢を取っている。彼はもはや、中国を不愉快な競争相手としてだけでなく、敵として見ており、西側の統一戦略の策定を呼び掛けている。EUは、より柔軟な、EU委員会の言う「プラグマティック(現実的)」な路線を追求している。中国は、協調のパートナー(例えば気候変動に関して)とも、経済的条件を交渉しなければならない競争相手(例えば技術開発において)とも呼ばれている。それだけではなく、異なる社会モデル(例えば人権尊重に関して)を広めようとする体制的ライバルであり、それに対して明確な優位性示すことが重要であるとも見なされている。
ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRIの科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。