Contemporary Peace Research and Practice 文正仁(ムン・ジョンイン) | 2023年09月07日
米国:世界の安全保障にとって最大の危機か?
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この記事は、2023年9月5日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。
専門家が米国の国内政治にリスクを見いだしている今、韓国が米国に全てを賭けるのは賢明だろうか?
「米国人が正しいことをするというのは間違いない。ただし、彼らがそれ以外のあらゆることを試した後に限る」とウィンストン・チャーチルはかつて言った。
米国は、第二次世界大戦後に自由世界の「慈悲深い覇権国」として自らの地位を確立して以来、友好国や同盟国による心からの支持と献身を受けてきた。しかし、最近は米国の立場と政策に対する激しい批判が、米国の主流派の人々からも出ている。そのような批判は、米国無謬という考え方に対する鋭い異議申し立てである。
2023年7月1日、ニューヨーク・タイムズは、リチャード・ハースへのインタビューを掲載した。外交政策と国家安全保障に関する米国有数のシンクタンク、外交問題評議会の会長を20年間務めた後に退任した人物である。
インタビューの中で最も印象的だった部分は、「世界の安全保障にとって最も深刻な危険」、一晩中眠れなくなるような問題について聞かれたときの彼の答えである。
「それは、われわれだ」とハースは言った。米国そのものということである。
ハースは、ロシア、中国、イラン、北朝鮮、あるいは気候変動のような外的脅威よりも、米国内の混乱の方が重大だと言う。国内における民主主義の後退が外交政策の基盤をむしばんでいるのではないかと、彼は懸念する。
トランプが2020年大統領選の敗北を拒否したこと、米連邦議会議事堂への襲撃、民主・共和両党で急進派が支配的になっていること、彼らを抑えることができたはずの穏健派が立ち去ったこと、そして、国益や公益よりも個人や党の利益を優先する政治風土。これらは全て、ハースの悲観論を裏付けるものだ。
ハースが言うように、国内政治のこのような動向により、米国の外交政策の信頼性と予測可能性が低下し、友好国や同盟国は、米国を信頼する、あるいは米国の指揮に従うことはますます難しくなっている。すでに米国のパワーが少なくとも相対的に低下しつつある現在、このような状況が国際社会における米国のリーダーシップを弱体化させることは間違いない。
外交問題評議会の権威は高く、そのためハースの発言は非常に深刻に受け止められた。1921年の設立以来、外交問題評議会は1世紀以上にわたって活動している。会員数5000人を超える超党派のシンクタンクであり、米国社会の主流をなすエリート層の見解を代弁してきた。国際関係と時事問題を扱う機関紙「フォーリン・アフェアーズ」を通して、米国の外交政策の大勢を形成してきた。
ハースは外交問題評議会の会長として最も長く在任し、過去40年にわたって共和・民主両党の政権で外交の要職を務めてきた。
ハースはバランスの取れた慎重な書き手として高く評価されていることから、インタビューでの彼の発言は米国内外の読者に大きな衝撃を与えた。
注目すべきことに、レスリー・ゲルブも2009年の著書「Power Rules」で同じような警告を発している。ゲルブも外交問題評議会の元会長であり、2003年に名誉会長となって会長の座をハースに譲った。
国務次官補、ニューヨーク・タイムズの論説編集者、そして10年間にわたり外交問題評議会の会長を務めたゲルブは、出版当時大統領に就任したばかりのバラク・オバマにこの著書を捧げた。ゲルブによれば、米国の外交政策と国家安全保障を危うくするのは外的脅威よりもむしろ内的脅威である。
ハースとは対照的に、ゲルブは米国の民主主義それ自体には批判を向けなかった。恐らく、爆発的なトランプ旋風がまだ起こっていなかったためだろう。
その代わりにゲルブは、米国の国内政治には外交政策を破綻させた「三つの悪魔」が潜んでいると指摘した。
第1の悪魔は、価値観や原則の過度な重視であり、それが世界を善と悪に分けるようなイデオロギー的硬直性をもたらしていること。第2の悪魔は、国内政治の無秩序な性質であり、党派的利益の追求、政治グループの分極化、政治的妥協の不在などに顕在化している。最後の第3の悪魔は、自信というレベルを超えた米国の傲慢さであり、それは例外主義、単独行動主義、優越主義に表れている。
2001年の破壊的なアフガニスタン侵攻、2003年のイラク侵攻など、米国の外交政策の典型的な失態は、これら三つの悪魔のせいだといえると、ゲルブは主張した。
そこから、疑問が生じる。これらは、チャーチルが言ったように米国が「正しいことをする」に至るまでの回り道に過ぎないのだろうか? もしそうなら、なぜ米国はその後も同じような政策的失敗を繰り返すのだろうか? なぜ米国の政策立案者らは、ゲルブやハースのような立派な経歴と豊富な経験を備えた人々の心からの警告や忠告に注意を払ってこなかったのだろうか?
ゲルブは、常識、謙虚さ、慎重さを取り戻すことを訴え、ハースは、明敏な市民による監視と関与、妥協という美徳、公益の追求を説いている。
しかし、筆者はそのような処方の実行可能性について懐疑的である。なぜなら、米国の過去の過ちを繰り返さないようにするいかなる努力や願望の兆候も、ほとんど見られないからである。この印象は、2023年8月26日にウィスコンシン州ミルウォーキーで開催された共和党の大統領選候補者討論会で候補者らが話したことによって、いっそう強くなった。
それ以上に韓国人が懸念しているのは、韓国の現政権が全てを米国に賭けていることである。現在、あるいは将来の米国の手に韓国の運命を委ねることは、本当に賢明なのだろうか? 複数の罪で起訴された後でさえトランプの支持率がバイデンと互角である状況を見て、それが筆者の心に浮かんだことである。
文正仁(ムン・ジョンイン)は、韓国・延世大学名誉教授。文在寅前大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。 核不拡散・軍縮のためのアジア太平洋リーダーシップネットワーク(APLN)副会長、英文季刊誌「グローバル・アジア」編集長も務める。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。