Peace and Security in Northeast Asia 王雯雯(ワン・ウェンウェン)  |  2023年08月16日

米国との同盟が戦略的自律の足かせに: 韓国人専門家

Image: helloruby/shutterstock.com

 この記事は、2023年7月6日に「Global Times」(環球時報)に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。

 最近の中韓関係は、ソウルが中国に対して一連の外交論議を仕掛け、強硬な姿勢を見せていることから悪化傾向にある。文在寅(ムン・ジェイン)前韓国大統領の特別顧問を務めた文正仁(ムン・ジョンイン)は、両国関係の最近の情勢を「残念なこと」と考えている。グローバルタイムズ(GT)の王雯雯(ワン・ウェンウェン)記者とのインタビューで、彼は中韓関係、韓米同盟、戦略的自律、そして地域の安定を維持するために韓国が果たす役割について語った。

文: 残念なことです。両国はお互いを必要としています。韓国では多くの人が、「安全保障は米国、経済は中国」と主張しています。しかし、私たちは、安全保障と経済の両方で中国との密接な協力を必要としています。中国もまた、地域の安定と共通の繁栄のために韓国との協力を必要としています。北京とソウルの不安定な関係にネガティブな影響を及ぼしている要因はいくつかあります。米中の戦略的ライバル関係、朝鮮半島の核問題、そして中国問題の過剰な国内政治化が、両国関係に緊張をもたらしています。ソウルと北京の指導者たちは、流れを変えるために努力すべきです。

文: かつては、保守政権であれ革新政権であれ、韓国はバランス外交を追求しようとしていました。米国との同盟を維持しつつ、中国との戦略的・協力的パートナーシップを強化することを求めていました。しかし、現在の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、韓国の安全保障を唯一保証してくれるのは米国だからという理由で、米国のほうに大きな重点を置いています。安全保障だけでなく、尹大統領は、自由、民主主義、人権といった共通の価値観を強調しています。彼はまた、経済分野でも韓国は米国から大きな利益を得られると考えている。そういった理由から、尹政権は、中国よりも米国寄りのバランスを追求しているという印象を与えています。

 しかし、朴振(パク・チン)外交部長官は近頃、韓国が中国と対立する理由はなく、中国との戦略的な意思疎通を強化していきたいと述べました。これは、ポジティブなシグナルを発信しています。

 しかし、そのような意思表示にもかかわらず、尹政権は米国に賭け、前政権が米国との同盟と同時に中国との戦略的・協力的パートナーシップを追求した戦略的曖昧さを公然と批判しています。とはいえ、米国との同盟を優先する戦略的確実性に重点を置き過ぎれば、それが裏目に出て、中国との関係が悪化するばかりか敵対的反応を招く恐れもあります。そうなった場合、尹政権は、北朝鮮の核問題の解決に苦労するだけでなく、自国の経済的状況も複雑化することになります。尹政権の親米姿勢は十分に理解していますが、外交はもっと慎重に、バランスを取って行う必要があります。

文: どちらも当たっています。尹政権は、中国との強固な関係の重要性を理解しています。しかし、同時に、韓中関係を米中関係全体の一部分のように見る傾向があります。米中の戦略的ライバル関係の激化を受けて、尹政権は、ソウル・北京関係の性質と方向性を北京・ワシントン関係の動きに合わせて調整しています。その意味で尹政権は、米国の後をついて行くことによって戦略的自律を欠いています。しかし、そのような行動は計算ずくの妥協と見なされかねません。

文: 米国が韓国に戦略的自律を放棄するよう強要しているとは、全く思っていません。むしろソウルのほうが自発的にそうしています。尹政権は、たとえ戦略的自律の弱体化という犠牲を払ってでも、米国について行くことが韓国の国益に資すると信じているのです。尹大統領とその支持者らにとって、核の傘を伴う米国による従来の拡大抑止が、韓国の国家安全保障を維持する最も確実な方法なのです。

 尹大統領は、文在寅政権の「朝鮮半島平和プロセス」イニシアチブに対して、極めて批判的です。このイニシアチブは、終戦宣言の採択と休戦協定から平和体制への移行を掲げています。平和とソウルの戦略的自律にどれほどメリットがあろうとも、尹政権は、そのような取り決めが韓米同盟と国家安全保障を損なうと信じているのです。

 しかし、非常に多くの韓国人が文政権の「朝鮮半島平和プロセス」イニシアチブを支持し、尹の強硬な政策に反対しているということを指摘させてもらいます。

文: 現実的に言えば、そうです。米国との同盟は韓国にとって必然であり、戦略的自律を損なうことは避けられません。しかし、同盟は究極の解決となりえません。なぜならそれは、永続的な安全保障上のジレンマをもたらすからです。私たちは、同盟のみに依拠する集団防衛の概念に伴う、このようなわなの構造から抜け出すべきです。その点で、国連憲章に記された集団安全保障の概念について考え直す必要があるかもしれません。

 集団安全保障は、いかなる敵や脅威も前提としない安全保障コミュニティーという概念に基づいています。全ての国が安全保障コミュニティーのメンバーであり、そこでは、共通の協力的かつ包括的な安全保障が広く共有されています。このような考え方は、中国の習近平主席が唱える「グローバル安全保障イニシアチブ」の考え方と似ています。韓国だけでそれを追求することはできません。多国間の安全保障協力を通した地域レベルのアプローチがなければいけません。

文: 尹政権は以前、クアッド参加の希望を表明しましたが、米国はそれに応答しませんでしたよね。日本はどうやら、韓国がクアッドに加わることを望んでいないようです。どちらかといえば、排他的な少数国間の取り決めですね。ですから、韓国がクアッドに加わる可能性は非常に低いと思われます。韓国が加わるとしたら、名称を変える必要があるでしょう。それに、クアッドは軍事同盟ではなく、経済、パンデミック、緊急援助といった非軍事的問題に関する少数国間の協力メカニズムです。

文: 短期的には、直ちに影響があるとは思いません。しかし、中長期的にNATOが本当にインド太平洋やアジア太平洋地域に拡大した場合、安全保障上の重大かつネガティブな影響が及びます。それは、中国やロシアといった大陸国家に対するグローバルな封じ込めと見なされるでしょう。冷戦を思い起こさせます。NATOは、北大西洋地域のために作られているのだから、そのままであるべきです。なぜ、インド太平洋やアジア太平洋地域まで拡大しないといけないのでしょう?

 また、私はNATOの能力について幾分疑いを持っています。ロシアのウクライナ侵攻が地域におけるNATOの使命に見直しを迫ったことは明らかです。また、アフガニスタンやその他の場所におけるNATOの働きは、ぱっとしないものです。さらに、NATOの拡大、特に海軍力の投射は、一部のアジア人にとって19世紀の「砲艦外交」を思い起こさせるものでもあります。

文: 同盟は、朝鮮半島の安全保障と安定を維持する一つの方法です。しかし、地域の平和と安定を促進するために、韓国は、共通の安全保障、協力的安全保障、そして包括的安全保障に重点を置いた多国間の安全保障協力を、より積極的に推進するべきです。それに加え、韓国は中国、日本、韓国の3カ国間協力を強化する主導的役割を果たすべきです。ソウルは、引き続き日本、韓国、米国の3国間協力を推進するべきですが、同時に、中国、日本、韓国の3国間協力にも注意を払うべきです。そのようにして、韓国は「グローバル中枢国家」という外交的目標を実現することができます。さらに、ソウルは現在、日中韓3国協力事務局の所在地となっています。

文: 尹大統領は、非常に決断力のあるリーダーシップを発揮しています。決断力は、リーダーシップの優れた面です。しかし、民主的リーダーシップは、慎重さ、謙虚さ、そして、利害や嗜好の対立をなんとか乗り切る能力も発揮するべきです。民主主義社会の大統領は、受託者責任を果たすべきです。韓国の大統領制は、勝者が全てを取る仕組みです。しかし、尹大統領の勝利は非常に僅差でした。外交政策や国家安全保障政策の策定や実施の際には、その制約を常に念頭に置くべきです。なぜなら、彼の決定は多くの人々の生死にかかわるからです。そうでなければ、彼の政策は正当性を欠き、国民の支持を得られないでしょう。

文: 韓国政府は、IAEAの報告書を公式に支持してはいませんが、承認する可能性が高いと思われます。しかし、韓国の野党や市民社会は放出に強い反対を表明しています。核汚染された廃水の処理をめぐっては、深刻な政治化プロセスにより、韓国社会の分断は続くでしょう。

 しかし、心に留めておいて欲しいのは、IAEAの報告書は、周辺国に遵守を義務付ける最終的かつ拘束力のあるアセスメントではないということです。ですから、これは長いプロセスのほんの始まりでしかありません。日本政府は、放出について周辺国と継続的に協議し、相互に受け入れ可能な解決策を見いだすべきです。

王雯雯(ワン・ウェンウェン)は、グローバルタイムズの記者