Peace and Security in Northeast Asia 文正仁(ムン・ジョンイン)  |  2025年04月28日

関税交渉の性急な合意は、長期的には米韓関係を損なう恐れがある

この記事は、2025年4月22日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載されたものです。

 トランプ関税台風が間もなく朝鮮半島を直撃する。韓国には10%の一律関税が課され、間もなく25%の相互関税、さらには自動車や鉄鋼などに対する品目別関税が発動される可能性がある。

 トランプ政権は基本的に米国の購買力を武器化し、関税を雇用の源泉、国家安全保障の手段、そして税収の源泉として扱っている。さらにトランプ自身の高圧的で型破りな取引主義的アプローチのせいで、米国との交渉はいっそう予測不能になっている。

 トランプと韓国の韓悳洙(ハン・ドクス)大統領権限代行が4月8日に行った28分間の電話会談は、歓迎すべきニュースと受け止められた

 しかし、電話会談後にトランプがソーシャルメディアに投稿したメッセージは不穏なものだった。トランプは、韓国の対米貿易黒字、造船業における協力、液化天然ガス(LNG)の購入、アラスカの天然ガスパイプラインへの投資、韓国による在韓米軍「駐留経費分担」といった問題を全てひっくるめて関税とリンクさせた。米国大統領は明らかに、関税交渉によってこれらの異なる問題を「ワンストップ・ショッピング(一括取り引き)」することが可能だと考えているのだ。

 韓国をその方向に引き込むために、トランプは韓国の高官級交渉団がすでにワシントンに向かっているなどと余計なことも書いた。

 それを裏付けるかのように、韓国政府は、崔相穆(チェ・サンモク)副首相と安德根(アン・ドックン)産業通商資源部長官が今週(4月第4週)訪米する計画であることを発表した。

 迅速に代表団を派遣する決定は適切な判断である。しかし、われわれは交渉の議題だけでなく、そのスピードにもとりわけ慎重にならねばならない。

 韓国の現政権は束の間の政権であり、空席となっている大統領の座が埋まるまでの代行に過ぎない。韓国の交渉団は欲を出さず、次期政権に交渉の大部分を委ねることが望ましい。

 トランプ政権は、大統領権限代行を相手にビッグディールをまとめ上げたいと考えているだろう。しかし、性急な取り決めは韓国の次期政権によって履行されない可能性もあり、そうなれば米韓関係に大きなダメージが生じるだろう。

 トランプ自身も、韓国の国内事情を間違いなく知っているはずだ。また、韓国が日本や他の国々の交渉の成り行きを見極めたうえで慎重な対応を取るのは当然のことである。

 トランプが提案する「ワンストップ・ショッピング」についても慎重になる必要がある。全てを包括する「パッケージ・ディール」ではなく、「脱パッケージ化した」アプローチのほうが韓国の利益により資すると思われる。

 第1に、関税は、韓米自由貿易協定の枠組みの中で良識と道理に従って取り扱う必要がある。非関税障壁の撤廃を求める米国の要望については前向きに受け止めることが考えられるが、米国がわが国の輸出品に課そうとしている関税の不公平さについては強く抗議する必要がある。

 韓国が2024年に662億米ドルの対米貿易黒字を出したのは事実である。しかし、韓国もサービス部門では107億米ドルの対米貿易赤字を出しており、それは今後も増え続けると予測されている。それに加え、大韓航空は近頃、米国のボーイング社と327億米ドルの購入契約を結んだ。

 また、2023年時点で韓国は最大の対米投資国であることにも注目するべきだ。トランプがホワイトハウスに復帰してからの短い間にも、現代(ヒョンデ)自動車グループは200億米ドルを超える対米投資を約束したほか、LGグループは200億米ドル、SKハイニックスは38億7,000万米ドルの投資を計画している。

 韓国社会に雇用、技術、資本の流出への懸念や批判さえあるにもかかわらず、このような巨額の投資が進んでいることを、韓国の交渉団は強く訴える必要がある。

 韓国が造船部門の協力と天然ガス購入への意欲を明確に打ち出すことによって、関税交渉においてある程度の合理的な妥協に到達することが可能だと筆者は考える。

 とはいえ、440億米ドル以上のコストが予想されるアラスカの天然ガスパイプライン開発事業については、時間をかけて慎重に検討する必要がある。アラスカ州政府は、2010年にアラスカ・ガスライン開発公社を設立して以来このプロジェクトに5億米ドル近くを投じてきたが、進展はほとんど見られていない。プロジェクトは、採算性に関する問題、建設上の困難、環境規制といった山積みの課題に直面している。

 防衛費分担の問題も、個別に議論する必要がある。2024年10月の防衛費分担特別協定(SMA)をめぐる米国との交渉では、韓国は2026年より毎年1兆5,200億ウォン(約11億米ドル)の防衛費を負担することに合意した。2025年に支払われる金額を8%上回る額である。

 米国でいくら新大統領が政権の座に就いたからといって、同盟国と合意した協定を正当な理由なく1年も経たないうちに破棄するなど、どう考えても受け入れられるものではない。さらに、トランプが要求する年間100億米ドルという金額は法外である。SMAの再交渉が必要になるばかりでなく、それによる合意内容は国会の批准を受ける必要がある。

 一部には、関税問題を解決して韓米同盟を強固にするために米国が要求する全額の負担を受け入れるべきだとの主張があるようだがそれは現実的ではない。

 トランプは、50年間にわたって搾取されてきたと彼が考えているものを、これらの交渉によって取り返すつもりだ。とすると、米国の圧力は関税だけにとどまらず、為替レート、国債、国家安全保障など、さまざまな分野に拡大するだろう。米国との交渉に臨む際は、その可能性を念頭に置く必要がある。

 任期の残りが40日を切った大統領権限代行は、性急な行動に出ることを慎む義務がある。状況が厳しくなったときこそ、中道を行くべきである。

 われわれは、起こり得る最悪の事態にも備える必要がある。そのようなアプローチこそが、国民の一致団結した支持を得ることができるだろう。

文正仁(ムン・ジョンイン)は、延世大学James Laney特別教授。文在寅元大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーである。