Climate Change and Conflict ジェーン・マックアダム | 2025年07月03日
ツバル国民の3人に1人が新設されたオーストラリア移住の「気候ビザ」に応募

Image: Prehistorik/shutterstock.com
この記事は、2025年6月27日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。
ツバル国民の3人に1人が、新設されたオーストラリア移住の「気候ビザ」に応募している。最終的には全員が応募することになるかもしれない理由を解説する。
わずか4日間でツバル国民の3分の1が、新設されたオーストラリア永住ビザの抽選に応募した。
この世界初のビザは、ツバルの現人口約1万人のうち、毎年最大280人のツバル国民がオーストラリアに永住することを可能にするものだ。このビザは、オーストラリアでの就労、就学、または居住を希望する人であれば誰にでも門戸を開いている。太平洋諸国民を対象とする他のビザ制度と異なり、オーストラリアでの就職先が要件とはされない。
ビザ自体は気候変動に言及していないが、ビザの創設を定めた条約は、「気候変動がもたらす存亡の脅威」という状況を背景としている。そのため、このビザが発表されたとき、筆者はこれを気候による移動に関する世界初の2国間協定と表現したのである。
オーストラリア政府も、「気候変動の悪化に伴って尊厳ある移住の道筋を提供する、世界にも類を見ない協定」と呼んでいる。
抽選への応募者の多さに驚く人も多いかもしれない。特に、条約が発表された当初はツバル国内にさまざまな懸念があったからである。それでも、一部のアナリストは、最終的には全てのツバル国民が選択肢を保持するために応募するだろうと予測した。
チャンスをつかむ
このビザは、気候変動や災害という状況で人々に移住の機会をもたらすことの重要性を浮き彫りにしている。沿岸部の洪水、嵐による被害、水供給への影響など、海面上昇の危険性は一目瞭然である。しかし、ここにはもっと多くの要因が働いている。
多くの人々、特に若いファミリー層にとって、これはオーストラリアで教育と技能訓練を受けるチャンスと考えることができる。どのような場合に、いつ、どこに移住するかの選択肢を人々に提供することで、人々に力を与え、彼らが自らの人生について十分な情報を得たうえで決断することを可能にする。
ツバル政府にとって、新たなビザ制度は経済へのテコ入れという意味もある。今や移民は、多くの太平洋諸国にとって経済の屋台骨となっている。
移民が母国の家族やコミュニティーを支えるために送る資金は、本国送金として知られている。2023年、本国送金はサモアのGDPの28%、トンガのGDPの42%近くを占めた。これは世界で最も高い水準である。現在、ツバルは3.2%である。
ようやくの実現
気候変動が懸念事項となるかなり前から、ツバルはオーストラリアに対して特別ビザ制度の設置を働きかけていた。人口動態の圧力に加えて、生計機会や教育機会の乏しさから、移住は1980年代と90年代を通して関心を集める政策課題だった。1984年、オーストラリアの対外援助プログラムに関するレビューにおいて、ツバル国民の移民機会を強化することが最も有益な支援のあり方かもしれないと示唆された。
2000年代初めまでに、焦点は気候変動がもたらす存亡の脅威に移っていた。2006年、当時影の内閣で環境相を務めていたアンソニー・アルバニージーが、「Our Drowning Neighbours(溺れる隣人たち)」と題する政策議論文書を発表した。そこでは、オーストラリアが隣国としての対応の一環として太平洋諸国からの移民制度を創設することが提案された。2009年、当時のペニー・ウォン気候変動相の報道官が、一部の太平洋諸国民にとって最終的には永久移住が唯一の選択肢になるかもしれないと述べた。
太平洋におけるオーストラリアおよびニュージーランドへの他の移住制度と合わせると、毎年人口の4%近くが移住することになるかもしれない。ある専門家によれば、これは「並外れて高い水準」である。10年以内に、人口の40%近くが移住を済ませている可能性がある。とはいえ、なかには帰国する人や往来する人もいるかもしれない。
新来者はどのように受け入れられるか?
新しいビザ制度が真に試されるのは、人々がオーストラリアに到着したときにどのように扱われるかであろう。
現地での生活に適応できるよう支援が受けられるのか、あるいは孤独で締め出されたように感じるのか? 仕事や訓練機会を見つけることができるのか、あるいは不安定で不確かな状況に置かれるのか? 文化的つながりを失ったように感じるのか、あるいは拡大するツバル人ディアスポラ社会の中で文化的伝統を維持することができるのか?
健全で文化的に適切な定住サービスを整備することが極めて重要である。理想的にはこれらをツバル人コミュニティーのメンバーと共同で策定し、「継続的対話と信頼を確保するためにツバルの文化と価値観を中心に置く」ことが望ましい。
専門家らは、「ツバル文化に関する専門知識とツバル語の能力を備えた連絡担当官がいれば、到着後のプログラムのような活動を支援することができるだろう」と提案している。
経験から学ぶ
また、新来者が経済的・社会的困難を経験するリスクを低減するために、ツバル人のニュージーランド移住からも学ぶべき多くの重要な教訓がある。
制度の継続的な監視と改善もまた鍵となる。これには、ツバル人ディアスポラ、ツバル本国のコミュニティー、オーストラリアのサービス提供者、さらには連邦、州/準州、自治体政府が関与するべきである。
また、移住によって資源への制限から解放され、すでに脆弱化している環礁環境へのストレスが軽減されることから、一部の人々が本国送金と海外の拡大親族ネットワークに支えられてツバルにより長く残留できるようになるかもしれない。
一部の専門家が指摘している通り、海外からの送金は親族が気候変動への脆弱性を低減するために活用することができるだろう。雨水タンクや小型ボートを購入する、あるいはインターネットなどの通信環境を改善するために役立つかもしれない。また、本国送金は、子どもたちの教育水準を高める、あるいは社会資本を増強するサービスに投資した場合も有益である。
大規模な流出を遅らせる
転換点にいつ達するかを知ることは難しい。例えば、ツバルに残る人があまりにも少なければ労働力と技能の不足により開発が制約されるだろうと、一部の人々は警告する。キリバスのテブロロ・シト元大統領はかつて、移住は「両刃の剣」であると筆者に語った。人々が海外で仕事を見つけ、本国に送金できるようになる一方、「地元の経済や整備にも十分な技能人材が必要であり」、そうでなければ逆効果になる。
ビザには年間280人の上限があり、問題が生じれば人数を調整する余地はあるが、転換点までの道のりはまだ遠い。現時点では、新たなビザは気候変動への対処方法に関する選択肢を人々にもたらすセーフティネットを提供している。ビザの抽選は7月18日まで応募可能であり、応募者はさらに増えると思われる。
ジェーン・マックアダムは、豪・ニューサウスウェールズ大学(UNSW Sydney)のカルダー国際難民法センターにおいて、科学教授およびARC 受賞者 Fellowを務める。