Peace and Security in Northeast Asia 文正仁(ムン・ジョンイン) | 2021年07月14日
平壌(ピョンヤン)はなぜ米国との対話を追求しないのか?
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この記事は、2021年7月12日に「ハンギョレ」に初出掲載されたものです。
北朝鮮の核武力の増強、米国における反北朝鮮感情の広がり、そして米中対立の深刻化を考えると、現時点で北朝鮮の核危機が再び起これば、手に負えない事態となる恐れがある。
数日前、米国と欧州の専門家らが北朝鮮問題に関するテレビ会議を行った。専門家たちは一人残らず、北朝鮮に関して困惑しているようだった。バイデン政権は、調整された実用的かつ段階的なアプローチによって、外交的に状況を打開したいという希望を表明している。また、板門店宣言とシンガポール共同声明を尊重することを約束し、5月21日の韓国大統領との首脳会談では、南北間の関与、対話、協力を支持することを表明したほか、サプライズで北朝鮮担当特別代表の任命も発表した。
誠意を示したにも関わらず、なぜ北朝鮮が米国の呼びかけに対して反応することを拒むのか、会議に出席した専門家たちは理解に苦しんでいる。
米国はこれまで、平壌との対話を4回にわたって試みたと言われており、近頃の米国が打てる手はすべて打ったと言わんばかりの態度を示しているのはそのせいだろう。アントニー・ブリンケン米国務長官は、「ボールは北朝鮮側にある」と繰り返し発言している。
しかし、北朝鮮の反応は冷ややかである。それを端的に示すのが、北朝鮮の李善権(リ・ソングォン)外相による6月23日の「われわれは米国とのいかなる接触の可能性も検討していない[…]それは何の成果ももたらさず、貴重な時間を無駄にするだけだ」という発言である。
なぜ、北朝鮮はそのような反応をするのか?国内情勢がその大きな要因と言えそうだ。
北朝鮮国内では、新型コロナや食料不足、長引く制裁による経済低迷など、課題が山積しており、対外政策に関わっている余裕がないのである。
こうした状況をよく表しているのが、近頃開かれた朝鮮労働党政治局拡大会議における懲罰的な人員入れ替えである。
長期的な非常防疫体制の一環として、北朝鮮は国境にコンクリート壁や高圧電流柵を設置している。また、国際機関に新型コロナワクチンの送付を要請した後でさえ、救援要員が新型コロナの感染を拡大させることを恐れて彼らの入国を拒否している。
平壌にとって、ワシントンやソウルとの対話より国内問題への対応を強化するほうが重要なようだ。
その一方で、米国の姿勢にも問題がある。
北朝鮮は2017年に核兵器やミサイルの実験を繰り返したものの、対話ムードへの移行が見られた後、2018年には核実験とICBM発射実験の一時停止措置を採用した。平壌が豊渓里(プンゲリ)の核実験場を破壊し、東倉里(トンチャンリ)のミサイル発射台を閉鎖したのも、この時期である。
しかし、米国はこれに呼応した措置を講じることはなく、北朝鮮に対する懲罰的な姿勢を崩していない。ドナルド・トランプ大統領在任中の4年間で米国が北朝鮮に科した27の一方的な制裁は、金正恩(キム・ジョンウン)とのシンガポール会談後でさえほとんど変わらなかった。
同じことがバイデン政権にも言える。米国側には、キムとの米朝首脳会談は、キムの国際的地位と正当性を高めてやった慈善行為なのだという意識が強い。
キムが掲げる「圧力には圧力を、善意には善意を」の原則に基づけば、米国が北朝鮮の観点から状況を見ようとしない限り、米国との対話が無意味だとすぐに結論されてしまうだろう。
実際のところ、バイデン政権の北朝鮮政策は実用主義を強調しているものの、今なおあまり積極的なものとは言えない。「条件が整えば非核化する意思はある」と北朝鮮が言う場合、その条件とは、北朝鮮の存続を脅かし、人民の発展権を妨げていると主張する「敵対政策」を米国が撤回することである。
生存問題として平壌が要求する事項は、米国が韓国との合同軍事演習を停止し、朝鮮半島における戦略兵器の前線配備を控え、終戦宣言を採択し、朝鮮半島における平和体制を構築し、北朝鮮との国交を正常化することなどである。北朝鮮が「人民の発展権」について語る場合、それは制裁の緩和を求めているということだ。
北朝鮮の要求が適正であるかどうかは別としても、バイデン政権は、こういった問題に対する立場を明確にしたことがない。何も得るものがないことが明らかなら、平壌は、関係者が叱責されるだけの米国との実務レベル対話に参加したいとは誰も思わないだろう。
結局のところ、このような状況は、米国の北朝鮮政策に対する平壌の強固な不信感に起因すると言える。平壌が抱いている基本的な印象は、バイデン政権が北朝鮮との核協議に優先順位を置いておらず、根本的打開を目指すことよりも、軍事的抑止力と同盟国との連携を通して状況を安定させることに重点を置いているというものだ。
さらに、北朝鮮は、米国議会とワシントンのシンクタンクの間で形成されている反北朝鮮コンセンサスに対して、バイデン政権がこれを解消しようという意思があるかどうかについても疑いを抱いているようだ。
突き詰めて考えると、北朝鮮側も米国側も、「キャッチ22」的(身動きが取れない)状況に陥っていると言える。平壌は、ワシントンが具体的なインセンティブを提示するまでは対話を拒否し、ワシントンは平壌が対話に乗り出すまでは具体的な措置を拒否している。要するに、そこには信頼の欠如がある。
このような不確実な状況は、さらなる危機を招く可能性がある。
時には、危機が新たな突破口をもたらすこともある。しかし、北朝鮮の核武力増強、米国における反北朝鮮感情の広がり、そして米中対立の深刻化を考えると、現時点で北朝鮮の核危機が再び起これば、手に負えない事態となり、過去の危機がそうであったように大惨事をもたらす恐れがある。
理論的には、この危機を回避するいくつかの方法が考えられる。米国は、約束通り、柔軟かつ現実的な態度を示す必要がある。北朝鮮も、国内問題以外にも目を向け、これまでのような一方的な要求を脇に置いて、妥協の道を探るべきである。
また、状況を変えるために創造的な外交を展開することは、韓国の役割である。それは、30年にわたる北朝鮮の核問題への苛立ちと疲労感に悩まされながらも、避けることができない韓国の宿命である。
文正仁(ムン・ジョンイン)は、韓国・延世大学名誉教授。文在寅前大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。 核不拡散・軍縮のためのアジア太平洋リーダーシップネットワーク(APLN)副会長、英文季刊誌「グローバル・アジア」編集長も務める。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。