Climate Change and Conflict エイミー・ライキンス/スザンヌ・コッシュ  |  2024年01月11日

「明日はどうなるか分からない」: 気候変動がフィジー人の精神的健康に及ぼす影響

Image: Atosan/shutterstock.com

 この記事は2024年1月9日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づいて再掲載されたものです。

 世界のどの地域も、気候変動の影響を免れることはできないだろう。気温の上昇、山火事や洪水のような極端な気象現象の頻度と強度の増大、海面の上昇などである。

 しかし、太平洋諸島のような一部の地域は、気候変動の進行によって不釣り合いに大きな影響を経験する可能性が高い。太平洋島嶼国は、海面上昇、海岸浸食、強度を増す一方のサイクロンに対し、類を見ないほど脆弱である。

 気温の上昇やますます予測不可能になる気象パターンは、食料源と貿易のいずれについても大部分を伝統的な漁業と農業に依存している人々に、さらなるリスクをもたらす。

 気候変動の影響は、農村部に暮らすフィジー人を対象とする最近の研究で見られたように、これらの国に暮らす人々の精神的健康とウエルビーイングに重大なリスクを及ぼす。

 われわれは、フィジー国内の沿岸部、海岸後背地、三角州地帯の村落に住む先住民その他のフィジー人70人以上に聞き取り調査を行った。

 各村落の聞き取り対象者は、季節や降雨量の変動、気温上昇、海面上昇とそれにより頻度を増した、特に「キングタイド(大潮)」時の村落浸水など、彼らが観察した環境的変化について語った。例えばある参加者はこう言った。

 今ではまるでずっと暑い季節が続いているようだ。今、われわれは、かつてない異常な気象の変化を体験している。

 別の参加者は、こう述べた。

 海面の高さは以前と違う。村の中まで水が入ってくる。特に高潮のときはひどい。とても不安で心配だ。

 伝統的文化の喪失という大きなテーマが、どの聞き取りにも共通して見られた。いかにこれらの環境的変化が伝統的な生き方やより広範な文化的慣行の喪失に寄与しているかを、多くの参加者が述べた。

 ある参加者は、ナドロガ=ナボサ州の海域で通常見られる魚、ヤトゥレ(yatule)を網だけを使って捕獲する伝統的な漁について語った。

 [ここでは]もはや[ヤトゥレ]は見られない。ここではヤトゥレ漁が[……]伝統的に行われているが、[……]伝統的な方法は徐々に姿を消している。

 このような喪失が観察されているが、精神的な健康への影響がある。特に、将来世代に何が残されるかについて、参加者は決まって懸念や苦悩を表明した。

 気候変動のせいで、われわれは将来世代について非常に心配している。少なくとも今はまだ魚を食べることができるが、明日どうなるかはわからない。

 全ての聞き取り対象者が、将来移住する必要があるかもしれないことを認識していた(実際、われわれが訪問した村のうち、すでに高台への移転を進めているものが二つ三つあった)。とはいえ、このような見通しに対しては、抵抗感と多大な喪失への不安が見られた。例えば、ある参加者はこう言った。

 [村人たちは]後に続かないだろう。なぜなら、この場所と強い結び付きがあるからだ。

 別の参加者はこう述べた。

 ここは、われわれが生まれてからずっと暮らしてきたただ一つの土地だ。

 太平洋諸島の人々が伝統的に守ってきた祖先の土地との強い結び付きを考えると、強制移住が彼らの精神的健康とウエルビーイングに重大な悪影響を及ぼすことは疑いの余地もない。

 われわれの聞き取りは、急速に変化するフィジーの環境に伴う大きな苦痛を浮き彫りにした。

 多くの点で、これらのテーマは、アラスカ、カナダ北部、グリーンランドなどの北方周極地域に暮らす先住民イヌイットの人々に見られるものと酷似している。これらの地域では、急速な海氷減少が伝統的な文化的慣行(漁業、移動生活など)に大きな影響を及ぼしており、また、苦悩、心配、精神的不調をもたらしている。

 世界中で、場所に根ざした強い絆を持つ人々や文化が、気候変動による精神衛生上の影響に特に脆弱であることは明白である。これは時に「エコグリーフ」と呼ばれる。

 気候変動の影響に関連する太平洋地域の人々の精神的不調をより深く理解するために、また、文化的背景を踏まえた支援を構築するために、さらなる研究が緊急に必要である。また、太平洋島嶼国における精神保健システムを強化することも必要である。

 最後に、このような独自の太平洋文化を守るためには協調的な気候変動緩和努力が不可欠であり、ひいてはそれが、彼らの精神的健康とウエルビーイングを守るために役に立つだろう。

エイミー・ライキンスは、ニューイングランド大学の臨床心理学准教授である。

スザンヌ・コッシュは、ニューイングランド大学の臨床心理学准教授である。

 筆者らは、この記事の元となった研究に貢献してくれたパトリック・ナン、ロゼリン・クマール、カサンドラ・スンダラジャ、メレオニ・カマイレケバ、サミソニ(「サムソン」)・バイブカゴ、サラ・タバカに心より感謝する。