Peace and Security in Northeast Asia 文正仁(ムン・ジョンイン)  |  2024年11月20日

トランプ復帰に直面する韓国の三つの選択肢

Image: Anna Moneymaker/shutterstock.com

この記事は2024年11月11日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載されたものです。

2期目のトランプ政権は、間違いなく韓国に多大な圧力をかけてくるだろう

 あのドナルドが戻って来る。

 2度の有罪判決、暗殺未遂、あらゆるスキャンダルにもかかわらず、ドナルド・トランプは、オーバル・オフィスの主として4年ぶりに返り咲くことになった。

 共和党は上院の過半数を確保しており、下院でも勝利を収める見込みだ。政権を完全掌握すれば、まさに「トランプの奇跡」と呼んで良い状況にいっそうの弾みがつくだろう。

 トランプの再選は、世界中に同じくらいの歓喜と悲嘆をもたらしている。ウクライナのゼレンスキー、欧州のNATO加盟国、さらにはパレスチナ、イランとその支持者らは、トランプ2.0が予告する外交政策の転換による深刻な脅威を感じている。

 イスラエルのネタニヤフとロシアのプーチンは、トランプ政権再来の見通しに笑いが止まらないだろう。中国は外務省の短い声明以外にほとんど反応を示していないが、北京がトランプ復帰にピリピリしているのは明らかである。

 しかし、韓国にはどのような影響があるだろうか?

 朝鮮半島に関するトランプの政策については、性急に結論を出すべきではない。閣僚の顔ぶれやアドバイザーの人事を見守らなければならない。2期目のトランプ政権には三つの派閥ができると見込まれる。

 第1に、トランプとその忠実な取り巻きたち、そして彼らが信奉する取り引き主義的姿勢である。価値よりも優位性を重視し、全ての外交関係を費用・便益分析に基づいて決め、望みの結果を得るために外交取り引きをいとわない人々である。

 第2に、トランプの信条であるMAGA(アメリカを再び偉大に)の熱心な支持者がいる。トランプへの忠誠心に加えて、彼らは米国が他国に介入することに強く反対しており、国益が重大な侵害を受けない限り米国が戦争に参加することを望んでいない。この派閥は、ジャクソン主義的孤立主義の特徴が顕著である。

 最後の第3の派閥は、共和党の強硬派「ネオコン」である。ネオコンは、米国の優越性を維持し、米国的価値観を世界中に広めるためであれば、武力行使を支持する。

 取り引き主義のアプローチは、次期トランプ政権における外交政策と国家安全保障の主流テーマになると見込まれるが、これら三つの派閥の相互作用も決定的要因になるだろう。

 新たなトランプ政権のもとで国家安全保障・外交政策の基調を決定するのが誰であれ、それは韓米同盟の現在と将来に大きな影響を及ぼすと見られる。特に、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が強調してきた「民主主義連合に基づく価値の同盟」の未来に疑問を投げかける。

 尹は、拡大抑止と統合抑止を強化する米国との合意を代表的な外交成果として謳っているが、これらの合意が存続していくかどうかは不透明である。

 北朝鮮の脅威と中国の脅威に対する米国の認識の落差が広がりつつあることを考えると、韓米の抑止戦略に根本的修正がなされる可能性がある。韓米合同軍事演習の強度と頻度だけでなく、朝鮮半島における米軍の戦略兵器の前方展開にも変化が起こり得る。

 そのような活動の費用を負担することを韓国が拒めば、トランプはまたもや、活動の規模を縮小する、または完全に停止すると脅してくる可能性がある。

 尹政権とバイデン政権は近頃、防衛費分担協定を更新したが、トランプはこの協定を破り、韓国に対して防衛費の負担を現在の10億米ドルから100億米ドルに増やすよう要求する可能性がある。彼は、在韓米軍の人数削減または完全撤退の可能性を駆け引きの材料として使う可能性もある。

 北朝鮮問題もまた、大きな変動要因となるだろう。トランプは、北朝鮮の指導者である金正恩(キム・ジョンウン)と直接取り引きを結ぶ意向を繰り返し表明してきた。トランプがウクライナ問題を解決するためにプーチンと重大な取り引きを結んだ場合、彼はさらに、交渉に応じるよう金を説得するためにプーチンに助力を求めるかもしれない。

 米朝関係にこの種の飛躍的な動きがあれば、北朝鮮に対する尹の強硬政策と摩擦が生じることはまず間違いない。

 ここでの懸念は、第2次トランプ政権の間に北朝鮮に対する米国の拡大抑止が中断された場合、あるいは交渉によって米国が北朝鮮の核兵器保有を容認する事態になった場合、自前の核兵器を獲得しようという韓国の動きに勢いがつき、トランプ率いるホワイトハウスがそのような動きを認めるような姿勢を示しさえするかもしれないということだ。

 韓国が核武装すれば、北東アジアに核のドミノを引き起こす恐れが大いにあり、地域の戦略的安定性を損なう可能性がある。

 第2次トランプ政権は、経済にも悪影響を及ぼすと予想される。韓国対外経済政策研究院の最新の報告書によれば、トランプが公約している関税政策により韓国の総輸出額が222億~448億米ドル減少する可能性がある。韓国の輸出業者が代わりの輸出先市場を円滑に開拓できなかった場合、韓国の実質GDPが0.29~0.67ポイント減少する恐れがある。

 さらには、CHIPSおよび科学法とインフレ抑制法に基づいて米国への投資を決定した韓国企業に対し、米国が約束した補助金を削減または停止などしたら、経済的影響はいっそう大きくなる。

 再就任すればトランプは、韓国に対する慢性的貿易赤字を理由に、韓米自由貿易協定の改正も求めるだろう。

 明確なのは、2期目のトランプ政権は、間違いなく韓国に多大な圧力をかけてくるだろうということだ。

 こういった見通しを踏まえると、米国の経済学者アルバート・O・ハーシュマンが同じ表題の画期的論文において提唱した「離脱・発言・忠誠」という選択肢を検討する価値がある。

 韓国は、米国への揺るぎない忠誠を示す政策を長年堅持してきた。しかし、その政策は本当に最善の選択肢だろうか?

 米国に対する韓国側の異論に発言権を与え、さらには現行の体制からの離脱の模索を検討するだけの知恵と勇気を、われわれは持っているだろうか?

 それは、間もなく分かることだろう。

文正仁(ムン・ジョンイン)は、韓国・延世大学名誉教授。文在寅前大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。 核不拡散・軍縮のためのアジア太平洋リーダーシップネットワーク(APLN)副会長、英文季刊誌「グローバル・アジア」編集長も務める。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。