Climate Change and Conflict ティール・クロッセン  |  2022年10月13日

気候変動により住む場所を奪われた人々は難民ではない

Image: Ryan Rodrick Beiler/Shutterstock

 はっきりさせておこう。気候崩壊によって住むところを奪われた人々は、国際法に基づく気候難民ではない。彼らは自国の政府による迫害のために国を追われているのではない。移民でもない。仕事や教育を求めて、あるいは家族の近くにいるために、去っていくのでもない。そうではなく、大気汚染を続けるという他国の選択によって、何百万人もの人々が、彼らを保護する法的枠組みがない中、故郷を失う可能性が高いのだ。

 過去には、バングラデシュおよびモルディブが、気候変動により移転を余儀なくされた人々を保護できるように難民条約を拡大することを求めたことがあるが、叶わなかった。国連自由権規約委員会は、海面上昇やその他の気候変動の被害によって彼の生命が脅かされているにもかかわらず、ニュージーランド政府がイオアネ・ティティオタ氏をキリバスに強制送還することに反対する申し立てを退けた。将来、強制送還から身の安全を守る道を開くことは、国際人権法の下で可能となるかもしれないが、気候変動の被害によって住むところを奪われるリスクに瀕している何百万人もの人々にとって、何の保証も、永続的な解決法の兆しも見えていない。

 コミュニティーごとの強制移転はすでに太平洋地域の内部で発生している。最近のパキスタンでの洪水は、今まさに文字どおり溺れていく同国全体で何百万人もの人々が家を失い、危機の深刻さと切迫性にあらためて光を当てた。パリ合意の約束以上の緊急かつ大幅な温室効果ガスの排出削減なしには、全世界、特に太平洋地域の国々は、危険に晒されている。

 国際法体系は、気候変動による人々および国家の移転の問題に対応できるようには整備されていない。非常に厄介な問題が答えのないままとなっている。国際法は、気候変動の影響で破壊された国の主権を、どのように保護するのか?居住不能となってしまった島国の市民の法的な地位はどうなるのか?国としてどこかほかのところで主権を行使することができるのか?法の隙間を埋める新しい規範を求める声が上がっている。

 しかし、気候変動により住むところを奪われた人々を保護する国際的な法制度を提唱することで、われわれは、温暖化を抑えるには遅すぎることを認め、気候変動による国境を越える移転が避けられないことを認めている。このアプローチには、大きな危険が伴う。気候変動による移転に脅かされる人々を養う方法を計画することで、われわれは大気汚染を続ける言い訳を与えることになってしまう。すなわち、移転が深刻な脅威ではない汚染する側の国々に特権を与え、世界の不均衡な力関係を定着させることになる。気候汚染への依存をやめることよりも、気候危機の解決策として移転を考える方が、より廉価で、おそらくより簡単だろうと思われる。

 過去には、島々は経済発展を進めるために不可欠だと考えられてきた。第2次世界大戦の後、現在のキリバスにあるバナバ島の人々は、植民地政府がリン酸塩の採掘を拡大することができるようにと、フィジーに移転させられた。また、オーストラリア、イギリスおよびニュージーランドが工業型農業によって得られる利益を増やすため、リン酸塩の採掘を拡大することができるように、ナウルの全島民をオーストラリア沖のカーティス島に移転させるという似た計画も作られた。ナウル人たちは、国の主権とアイデンティティーを維持することを選び、その提案を拒否した。

 もちろん、国境を越える移転の可能性を含め、起こりうるあらゆる事態に備えないことにも危険はある。気候変動の影響に対してもっとも脆弱な太平洋諸国の一つであるツバルは、気候変動により移転を余儀なくされる人々の人権と生活を保護する法的なプロセスを確立するための国連決議を求めた気候変動枠組条約に基づく移転に関するタスクフォースによる現在進行形の取り組みもあり、強制的な立ち退きと計画的な移転のための協力体制の強化に関連するものも含まれる。このタスクフォースは、その存在自体が、失敗を認めているとの認識から暫定的な措置しか講じていないように見える。パリ協定の最終目標は、気候システムへの危険な人為的干渉を予防することであるが、何百万人もの人々が移転を余儀なくされる可能性があり、危険というレベルを超えているように見える。

 新たな法規範を作ることを含め、気候変動による移転に対するどんなアプローチも、既存の国際法にしっかりとした根拠がなければならない。難民条約は、気候変動によって住む場所を奪われた人々に答えを与えてくれない。しかし、気候変動の被害に対し汚染する側の国が負う責任は、基盤としてより有益である。強制移転のリスクが高い国々は、気温上昇とそれに伴う損失と損害を引き起こした責任がもっとも少ない国々である。したがって、脆弱な国々に気候変動による影響に対する賠償金を支払い、自国の領土に留まることが可能な選択肢であるようにすることが、はるかに良いアプローチである。それは、リスクに晒されている国々の人々を守るとともに、主権的アイデンティティーも守ることができるだろう。

ティール・クロッセンは、20年にわたりアオテアロア(ニュージーランド)および海外で環境正義を提唱している環境弁護士である。Forest & Bird(ニュージーランドの環境保護団体)、グリーンピース・インターナショナル、国連で太平洋諸島の国々への支援に従事した。著書に、The Climate Dispossessed: Justice for the Pacific in Aotearoa?がある。