Peace and Security in Northeast Asia 文正仁(ムン・ジョンイン) | 2025年03月03日
韓国は間もなく欧州のような安全保障のジレンマに直面する

この記事は、2025年2月24日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。
韓国に必要なのは予防外交と創造的外交である
「米国主導の自由主義的国際秩序と大西洋同盟は終わった。欧州は進むべき新たな道を見つけなければならない」
先日ミュンヘン安全保障会議に出席したドイツ人の友人から、このようなテキストメッセージを受け取った。友人は、欧州全土で反響を呼んだ米国のJ・D・バンス副大統領とピート・ヘグセス国防長官による演説に対して反応していたのである。
44歳のヘグセスは、大筋で、2014年以前のウクライナ国境を取り戻すことは非現実的であり、ウクライナのNATO加盟はロシアのウクライナに対する戦争を終わらせる解決策にはならないと述べた。ヘグセスは、戦争後にウクライナの安全保障のために米国が軍事的に介入することはなく、NATO軍も平和維持軍として現地に展開するべきではないという点を明確にした。
それよりもさらに衝撃的だったのはバンスの発言で、彼もわずか40歳である。安全保障会議で演説するために招待されたにもかかわらず、米国副大統領は安全保障問題には触れず、代わりに欧州諸国の民主主義への対応について説教したのだ。
バンスは、移民、表現の自由、選挙制度など、多岐にわたる問題についてまくし立て、しまいには、トランプ政権の米国的価値観を共有しない欧州国家に対しては安全保障を提供しないという爆弾宣言を行った。
ホワイトハウスのマイケル・ウォルツ国家安全保障担当補佐官も、全てのNATO加盟国に対し、6月のNATO首脳会議の時期までに防衛費をGDPの2%に引き上げるという約束を履行するよう求めた。
米国の高圧的なやり方に対し、欧州からはさまざまな反応が見られた。オピニオンメーカーたちは、大西洋同盟を存続させるよう欧州各国政府が対話と交渉を通して米国を説得することを求めている。しかし、他の多くの者は、欧州諸国は米国の従属国なのかと疑問を抱き、これを機に欧州安全保障協力の独立した枠組みを構築することを望んでいる。
特に、米中対立に対処するためにトランプがロシアと戦略的パートナーシップを結んだ場合、欧州が脇に追いやられるのではないかという懸念がある。
韓国も近いうちに、現在欧州が直面しているのと同じ安全保障のジレンマに立ち向かうことになるだろう。われわれはそれにどのように対処するべきだろうか?
第1に、トランプの米国について希望的観測に溺れるのは間違いである。トランプ自身もMAGA支持層も、韓国に対して懐疑的な見方をしている。彼らは、韓国を米国による安全保障に「ただ乗り」している国の明白な事例と見なしている。朝鮮半島で戦争が勃発した際に自動的に米国の介入を作動させるための「トリップワイヤ」(仕掛け線)として、韓国が在韓米軍を利用しようとしているという非難さえある。
特にバンスとヘグセスは、イラクやアフガニスタンなどの国で「テロとの戦争」を戦った世代である。彼らは、若い米国人兵士を他国の戦争に派遣し、戦死させることへの共通の反感を抱いている。そのため、血で結ばれた同盟に対する韓国人の信頼アピールは今や逆効果になる恐れがある。
第2に、われわれは、韓国軍が主要戦力となり、米軍が増援を提供するという安全保障体制に移行すべきであるという問題に、真正面から取り組む必要がある。また、韓国は作戦の統制権(指揮権)の移管を速やかに完了し、有事における自国軍の指揮権を取り戻す必要がある。
韓国がトランプ政権との取引に合意し、米国との同盟を維持するためには、自国の防衛に対する主体的責任を持ち、同盟の枠組み内でのトレードオフを受け入れなければならない。
韓国政府がうまく対応すれば、たとえ米国陸軍が駐留せずとも、米国はなお「オフショア・バランサー(域外の均衡役)」として拡大抑止と海軍および空軍による支援を韓国に提供することが可能であろう。その場合、韓国に費用の分担を求める圧力が緩和されるという付随的メリットもあるだろう。
第3に、トランプと金正恩(キム・ジョンウン)の会談のような米朝間の直接交渉に韓国が反対する理由はない。また、「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)は、対話と交渉の絶対条件としなくても、引き続き目標とすれば良い。
現在われわれが特に必要としているのは、米朝間の首脳外交を通して朝鮮半島における戦争の危険を解消し、緊張を緩和する予防外交である。これを用いて北朝鮮の核活動を中止させ、核物質と核弾頭を削減することができれば、中長期的目標として最終的な核計画の放棄を徐々に追求することができるだろう。
むろん、韓国はそのプロセスにおいて自国が脇に追いやられないようにしなければならないし、米朝間の非核化協議は朝鮮半島における平和構築に結び付いたものでなければならない。
最後に、米中対立に巻き込まれる危険を避けつつ、朝鮮半島と北東アジアに平和と安定を構築することができる創造的外交が必要である。
わが国の外交官らが北東アジアの新たな安全保障体制を構築するために努力することが重要である。韓国は、米国と日本との3カ国協力を維持する一方で、外交政策における硬直的なブロック志向のアプローチを捨てる必要がある。それに代わって、南北朝鮮間の関係を改善し、中国と日本との3カ国協力を活性化するとともに、北朝鮮、中国、ロシアとの関係を慎重に管理するべきである。
第2次トランプ政権の米国は、これまでわれわれが知っていた米国ではない。その現実に正面から立ち向かい、これから降りかかる難題を乗り超えていくための知恵と勇気を見いだす必要がある。
ただし、それを可能にするためには、現在国内に起こっている危機を早期に収拾し、国家としての大戦略に関する国民的合意を形成する必要がある。
文正仁(ムン・ジョンイン)は、延世大学James Laney特別教授。文在寅元大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーである。