Climate Change and Conflict ロバート・ミゾ  |  2022年05月01日

IPCC緩和報告書2022: 開発途上国にとって意味するもの

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 気候変動が全ての国による協調的な取り組みを必要としていることは間違いない。しかし、この問題への対処能力と有責性の両方において、各国の間に大きな相違があるという事実に変わりはない。開発途上国や後発開発途上国は、気候変動により不均衡に大きな影響を受ける傾向がある。IPCC第6次評価報告書の一部で、近頃発表されたIPCCの報告書「気候変動2022: 気候変動の緩和」は、このような格差を認識し、気候緩和の責任は先進国のほうが重いと明確に指摘している。

 各国は、貧富にかかわらず、緩和努力を一段と強化する必要があるが、開発途上国の視点で報告書を読むと、これらの国が推奨された対策を採用・実施できるようになる前に、克服しなければならない限界や障害があることが分かる。本稿では、開発途上国と後発開発途上国の立場で報告書の要点を取り上げる。

 第1に、報告書は、世界の排出量における明白な炭素不平等を強調しており、地域や国の1人当たり排出量は経済発展の各段階によって大きく異なると指摘している。後発開発途上国の排出量は、2019年の世界の排出量のわずか3.3%を占めるのみで、1人当たり排出量は1990~2019年の世界平均の4分の1を下回る。これは、気候緩和の責任の大部分が先進国にあることを改めて裏付けるものである。なぜなら先進国は、温室効果ガス(GHG)の累積排出量においても1人当たり排出量においても、不釣り合いに大きな部分を占め続けているからである。

 第2に、前回の評価報告書(2014年)以降、気候緩和に関する政策や法律が強化されたことにより、排出量が減少し、低GHG技術やインフラへの投資が拡大したものの、途上国ではイノベーションの遅れが生じている。イノベーション政策により、2010年以降、太陽光発電、リチウム電池、風力発電といったいくつかの低排出技術の単位コストは継続的に低下している。しかし、これらの改善は先進国に限られる。開発途上国と後発開発途上国では依然として、そのようなイノベーションを促進する経済的・政治的な実現条件が欠如している。

 第3に、開発途上国は、建設と輸送による排出の緩和を妨げる障害に直面している。報告書は、建設およびインフラ開発について、エネルギー充足、エネルギー効率、再生可能エネルギーに関する野心的な措置を併せて実施し、脱炭素への障壁が取り除かれれば、2050年までにGHG排出量ネットゼロが達成できるという楽観的な見解を示している。開発途上国は、より環境に配慮した建築物を新築することにより、建設部門で緩和を実現する潜在力が最も大きい。一方、先進国は、既存の建築物を改修することで緩和が可能である。しかし、開発途上国がこれらの緩和策を採用・実施するには、重要な技術増強、ナレッジシステムの強化、革新的慣行が必要であり、また、建築物やインフラに関する持続可能な伝統的ナレッジシステムの近代化や規模拡大も必要である。そのような潜在力を実現するためには、先進国による財政的・技術的支援が鍵となるだろう。

 同様に、輸送部門の排出量は、先進国では行動変容や低GHG排出技術といった需要サイドの施策によって削減することができ、途上国でもこれらの施策で排出量増加を抑えることができる。開発途上国は今なお、炭素集約度の高い輸送技術を主力としており、低排出の輸送システムへと飛躍を遂げるためには、技術移転や資金提供による支援を受ける必要がある。

 第4に、開発途上国は、気候行動に伴う避けられないトレードオフに対処しなければならない。気候行動が開発プロセス全体にもたらすそのような意図せざる負の影響は、開発途上国、脆弱者層、(制度的、技術的、財政的)能力に限界のある先住民族と(社会的、人的、経済的に)制約のある資本にとって困難なものとなりうる。開発途上国や貧困国がこのようなトレードオフに対処するためには、能力開発、資金提供、ガバナンス、技術移転、困窮するコミュニティーへの投資といった支援が必要である。開発政策や社会政策の策定と手段は、先住民族や脆弱者層の意味ある参加を得た包摂的なものでなければならない。

 第5に、多くの貧困国にとって、たとえ長期的には便益が費用を上回るとしても、持続可能な開発の道筋に移行するための当座のコストはあまりにも高い。IPCCは、開発の全体像の中に気候緩和努力を組み込んだ国々は排出量削減の範囲を広げることができると主張する。持続可能性へと経済政策の舵を切ることにより、利用可能な緩和策の選択肢を広げることができる。全ての国は、持続可能性と気候行動に調和する開発の道筋にシフトし、さまざまなシステムにまたがって緩和策と移行を加速することが推奨される。これは、開発途上国と後発開発途上国にとって非常に大きな試練であるが、中国インドのような開発途上国はこの方向で努力を行っている。開発途上国は、よりグリーンな開発の道筋に移行するコストを賄うために、先進国からの財政、技術、知識の支援を依然として必要としている。

 第6に、気候ガバナンスは多くの開発途上国で脆弱であるか欠如しているかのいずれかである。気候変動を緩和するには、その国の環境に即した新たな法律、戦略、制度を通した堅牢な気候ガバナンスが必要である。これらは、さまざまな当事者が交流し、政策の策定と実施の基盤を形成する枠組みを提供することができる。規制や経済的施策は、テクノロジー・プッシュ型の政策や投資(科学的訓練、研究開発、実証など)、また、基準、固定価格買取制度、税金といったデマンド・プル型の政策を強化し、それらの全てがインセンティブや市場機会を創出する。したがって、開発途上国は、気候変動対策を強化するため、気候ガバナンスの制度、手段、プロセスを増強する必要があるだろう。

 第7に、緩和対策に必要な流動性と財源を、開発途上国と後発開発途上国は持っていない。低排出技術を調達し、緩和プログラムを実施し、気候行動のトレードオフを管理し、社会・経済的便益を獲得するために、これらの国は財源を必要としている。そのため、報告書は、先進国や民間部門から開発途上国への財政的支援を加速することが必要であると強く訴えている。また、報告書は、世界の金融システムがこの資金ギャップを埋めるために「十分な資本と流動性」を有しているとも強調している。問題は、資金の供与と拡散、そして政治的な意志とコミットメントの欠如にある。コペンハーゲン合意に基づいて、開発途上国と後発開発途上国の気候変動に対する緩和・適応策を支援するために、2020年までに年間1000億米ドルを動員するという合意は、いまなお達成されていない。これが達成されていれば、部分的に資金ギャップを埋める役に立っていただろう。

 最後に、報告書は、気候変動緩和における国際協力の重要性を強調している。途上国へのグローバルな金融フロー、技術、能力開発支援といった協調行動は、やがてはより野心的な国別目標を促し、その実施を強化する可能性が高い。また、技術革新のシステムや能力、資金提供による途上国支援を通して、気候行動や緩和策における国際協力も促進される。途上国同士が気候緩和や気候行動に関連する地域固有の知識やデータを共有する南南協力という形でも、国際協力を形成するべきだと言い加える人もいるかもしれない。そのような協力は、国家主体のみに限る必要はなく、学術界を含む非政府主体のレベルで行ってもよい。

 まとめると、先進国が開発途上国や後発開発途上国の損失と損害、気候ニーズを気に掛けることは、グローバルな正義と気候の公平性の問題である。富裕国は、開発途上国が気候緩和策を実施する能力を強化できるよう、これらの国への経済支援を拡大しなければならない。

ロバート・ミゾは、デリー大学カマラ・ネルー・カレッジの政治学および国際関係学助教授である。デリー大学政治学科より気候変動政策研究で博士号を取得した。研究関心分野は、気候変動と安全保障、気候変動政治学、国際環境政治学などである。上記テーマについて、国内外の論壇で出版および発表を行っている。