Climate Change and Conflict タラ・マカリスター、ケイト・マキニス・ン、ダン・ヒクロア | 2023年04月11日
先住民の知識は解決策をもたらすが、その利用は先住民コミュニティーとの有意義な協働に基づかなければならない
Image: Flock of Sooty Shearwater - Lei Zhu NZ/Shutterstock
本記事は、2023年3月30日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づいて再掲載されたものです。
地球環境問題が拡大する中、人々や地域社会は次第に先住民の知識に解決を求めるようになっている。
気候変動に取り組む上で、先住民の知識は特に魅力的である。なぜならそれは、長い歴史と、自然と共にその一部として生きるための指針を含んでいるからである。それはまた、環境における生物と無生物の相互作用に関する総合的な理解に基づいている。
しかし、先住民社会との意味のある協働がなければ、彼らの知識の利用は見かけだけの、搾取的な、さらには有害なものとさえなり得る。
筆者らが新たに発表した研究は、「カイティアキタンガ(kaitiakitanga)」という概念についてである。この言葉は、保護、保全、あるいは「世代から世代への持続可能の原則と実践」と訳されることが多い。
西洋的教育を受けた科学者には、マオリのパートナーとして共同作業を行い、環境保全や資源管理の活動においてマオリの価値観や知識をしっかりと認識するよう勧めたい。
先住民の知識には、数千年にわたり世界中の先住民によって培われてきた工夫や観察、口承や文字による歴史などが含まれている。
このような知識は、生きており、動的で、進化している。アオテアロア(ニュージーランド)では、マオリによって培われた知識を特にマータウランガ・マオリ(mātauranga Māori)という。これには、彼らの文化、価値観、世界観などが込められている。
カイティアキタンガという概念は、アオテアロアにおける自然保護や資源管理に関連してしばしば(誤って)使用される。筆者らの研究では、カイティアキタンガと他の概念は本質的に結び付いていることを強調している。これらの概念をそのまま翻訳することは難しいが、ティカンガ(マオリの習慣)、ファカパパ(家系)、ランガティラタンガ(主権)、その他多くの概念を含んでいる。
「カイティアキタンガ」と「自然保護」の概念的相違の一つを挙げると、カイティアキタンガの場合、われわれは自分たちをテ・タイアオ(自然環境)の一部と見なしており、それに基づいて関係性を築いている。一方、自然保護は、人間があたかも自然環境から切り離されているかのように、環境を管理するという観点が特徴的である。
ジョー・ウィリアムズ判事は、カイティアキタンガを「自分自身を大切にする義務」と表現し、人間と環境の本質的な結び付きを示している。
カイティアキタンガを単純化して定義することには気をつけるべきである。その文化的背景から切り離して使われていることが多いからだ。単純化した定義付けによって概念の豊かさが損なわれ、カイティアキタンガがどのように概念化され実践されているかの違いが認識できなくなる。
それよりもむしろ、西洋的教育を受けた科学者には、カイティアキタンガを支える概念への理解を深め、マナフェヌア(土地の人々)と協力してさらに理解を発展させることを勧めたい。
マナフェヌアと研究者の共同作業が成功を収める事例が増えている。こういったプロジェクトを調査することで、研究者らは、有効かつ敬意ある形で貢献する方法について知見を得ることができるだろう。
例えば、マールボロ・サウンド地方で伝統的に行われているハイイロミズナギドリ(鳥)の狩猟と管理に関する研究から、種の保存管理に文化的収穫を織り込むことの重要性が分かる。
同様に、希少種を移植する際に先住民の知識を中心に置くことによって、保全の成果を高めることができる。
ラフイ とは、特定の資源や土地への立ち入りを制限し、その回復を可能にするために、マナフェヌアが用いることがある慣習的なプロセスである。これには環境問題への総合的理解と、社会的・政治的コントロールが含まれている。
ラフイは、ワイタケレ山脈でカウリの木の立ち枯れ病が広がるのを防ぐために利用された。また、ワイヘケ島の海産物(カイモアナ=海から採れる食料、ホタテ貝、ムール貝、クレイフィッシュ、パウア貝など)を保護するためにも利用された。
このほか、森林、湖、海岸、海域を数日から数十年の期間にわたってカバーするラフイの例がある。ラフイは広く行われているが、地域の状況による特異性が高い。イウィ(マオリの同族集団)がラフイを実施するためには、ランガティラタンガ(首長権、権限行使権)を有している必要がある。なぜなら、カイティアキタンガはランガティラタンガの存在確認であり、具現化であるからだ。
マオリ族の研究者とコミュニティーに力を与えることが、価値ある協働を実現するために重要である。非マオリの研究者には、自身の訓練と知識の限界を認識したうえでパートナーシップに取り組むことを勧める。
知的謙虚さを持つことで、意味のある共同作業の条件が整う可能性が高まる。協働関係の構築と維持は時間がかかるが、筆者らの協働経験では、時間をかけて信頼と理解をはぐくむことは実りある成果を収めるために極めて重要である。
筆者らの研究が、実績ある実践者にとっても学生にとっても多少のインスピレーションや助言となれば幸いである。
マータウランガと生態系がどのように相互作用し得るかについては、このほかにも多くの事例がある。学術誌“The New Zealand Journal of Marine and Freshwater Research”は、マータウランガ・マオリとそれが海洋保全にどのように寄与しているかを特集した特別号を発行している。このほか、敬意ある協働が科学教育と研究成果の向上にいかに有効であるかを検討した学術誌もある。
タラ・マカリスターは、「ビジョン・マータウランガ能力基金」の助成を受けている。
ケイト・マキニス・ンは、「テ・プナハ・ヒヒコ:ビジョン・マータウランガ能力基金」および、「テ・プナハ・マタティニ」の助成を受けている。
ダン・ヒクロアは、「マーズデン(Marsden)」「企業・革新技術・雇用省(MBIE)」「テ・プナハ・マタティニ、ナ・パエ・オ・テ・マラマタンガ」の助成を受けている。UNESCOニュージーランドの文化担当理事、環境保護機関「ナ・カイホトゥ・ティカンガ・タイアオ」のメンバーおよび暫定ポー・ヘレンガ(Pou Herenga=まとめ役)を務めている。