Climate Change and Conflict ロバート・ミゾ  |  2023年06月15日

G20議長国としてのインド: 気候に関する国際政治を再構築できるか?

 インドが2023年のG20議長国となったことは、インド国内で盛大なファンファーレと国民の誇りをもって迎え入れられた。主要経済国のクラブであるG20は、2020年の世界銀行のデータによれば世界の総GDPの74%を占めている。従って、その気があれば、気候変動のようなグローバル課題に対処する極めて大きな政治力と経済力を持っている。気候変動は常に同グループが関心を寄せる問題となっており、G20は、気候変動がグローバル経済や人間集団にどのような影響を及ぼしているかを認識している。現議長国であるインドは、気候危機への対処だけでなく恐らく気候に関する国際政治のイデオロギー的輪郭の修正に向けて、グループの集合的エネルギーを方向付ける機会と責任を有している。

 インドが議長国になって以来、G20傘下の環境・気候持続可能性ワーキンググループ(ECSWG)は、インド各地の都市で3回の会合を開いている。ワーキンググループは第1回会合で三つの優先分野を設定し、これらに取り組むことに全ての参加国が同意した。以下はその優先事項である。

  1. 土地劣化の阻止、生態系回復の加速、生物多様性の強化
  2. 持続可能で、気候に対して強靭なブルーエコノミーの推進
  3. 資源効率性と循環経済の促進

 第2回会合では、グローバルな協調努力の必要性と設定目標の達成に即時行動が必要であることが繰り返し述べられた。第3回会合ではブルーエコノミーに重点が置かれ、参加国は、コンセンサス主導のアプローチによって具体的成果を促す決意を改めて表明した。これらの会合は、G20参加国の代表、そして民間企業や市民社会組織から招待された非国家主体やステークホルダーが地球への関心を表明し、考え得る解決策を検討するプラットフォームの役割を果たしている。優先課題の解決策を策定するという目的のほかに、これらの会合は、全てのステークホルダーの間でグローバルな協調努力と協力を行うよう一貫して呼びかけている。さらなるECSWG会合の開催が予定されており、最終的には環境と気候持続可能性に関するG20大臣コミュニケの骨組みを策定することになる。

 気候危機に対処するためにG20が行っている努力は称賛に値し、必要なものであるが、インドが議長国を務めることは、国際気候政治のまさに概念的基盤を作り変える機会となり得る。気候をめぐる国際交渉や合意は、これまで、国益や国家安全保障といった従来的な国際関係の常識によって条件付けられてきた。炭素排出量取り引き、炭素排出量上限設定、気候資金など、二酸化炭素排出を抑制するための努力は、関係するアクターの経済的・戦略的合理性に合致する場合のみ受け入れられる。国際気候政治は、現在G20議長国インドのもとで行われているものも含め、究極的には国際政治という「無政府」領域で機能する各国の経済的打算や戦略的必須事項を中心としている。既存の欧州中心主義的かつ啓蒙合理主義的な枠組みの中で気候危機への解決策を見いだそうとする試みは、これまでのところ極めてわずかな成果しか挙げていない。恐らく、それに代わる本質的に非西洋的かつポストヒューマン的なアプローチ、すなわち、東洋の伝統に見られる一元論(あるいは一体性)のような関係性のレンズを通して気候変動の問題を見るアプローチを検討するべきであろう。その目的のため、インドはG20議長国として、永続的な貢献をすることができる。

 インドは豊かな哲学的伝統を有し、それを通して現行の気候危機に取り組む代替的な認識論的ツールを提供することができる。2023年のG20会合のテーマ「ひとつの地球、ひとつの家族、ひとつの未来」は、人類、動物、植物、微生物の集合的価値と、地球という惑星とより広範な宇宙の相互関連性を強調している。このテーマは、ウパニシャッドに記された「Vasudhaiva Kutumbakam(ヴァスダイバ・クトゥンバカム)」、すなわち「地球の全ての生き物がひとつの家族」という概念を元にしている。同様に、古代インドの政治哲学アドヴァイタは、関係性の認識ツールを提供する。アドヴァイタとは、非二元論(すなわち一元論)を意味し、主体と客体の間に区別がないことを強調する。一元論的概念であるアドヴァイタは、地球とそこに住む住人たちのさまざまな要素の一体性を主張する。このような関係性のレンズを通して気候変動の問題を見ることによって、各国は実質的により容易に、偏狭で自己中心的な関心を捨て、明確に定義された共同の目標に向かってより寛容に行動することができるだろう。いずれにせよ地球は全員で分かち合うものであり、その未来は全ての人々の共有する未来に結び付いている。従って、今日のグローバル課題は、従来の国際関係を支配してきた既存の二元論ではなく一元論のレンズを通して、本質的にグローバルなものとして捉え直されれば、効果的に対処することができる。

 インドがG20議長国を務めることにより、同国が掲げる「環境のためのライフスタイル(LiFE)」ミッションが注目を浴びるだろう。これは、個人のライフスタイルにおいても国家開発のレベルにおいても環境的に持続可能で責任ある選択をし、よりクリーン、よりグリーン、よりブルーな未来の実現を目指すことを強調する運動である。インドは、既存の気候政治に関係性の要素を融合させることを積極的に模索するべきである。地球の未来への関心を原動力とし、国際気候政治のあり方に対する代替的概念を導入することによって、国際気候政治とそのプロセスを作り変えることを目指すべきである。関係性に根差した気候政治は、人間と人間以外の世界が本質的に相互に関連し合い、物事のより大きな流れの中で全てのものが地球に関係していると認識し、その意味で地球の健全性を中心に据えるものである。それは、各国間の信頼を促進し醸成すること、従来の国際政治を特徴付けている戦略的優位性をめぐる競争の要素を抑制することを重視する。再定義された気候政治は、アクター間に説明責任と相互責任を促進し、同じ正義感覚を共有することを求めるだろう。そのように認識論的、概念的に気候変動の問題を捉え直すことは、永続的な解決策を実際に具現化し、達成するためのグローバルな協調努力に不可欠である。

ロバート・ミゾは、デリー大学政治学部助教授(政治学、国際関係論)。気候変動政策研究で博士号を取得した。研究テーマは、気候変動と安全保障、気候変動政治学、国際環境政治学などである。これらのテーマについて、国内外の論壇で出版および発表を行っている。