Cooperative Security, Arms Control and Disarmament マルコ・デ・ジョン、ロバート・パットマン  |  2024年04月16日

ニュージーランド国民はAUKUSに「惑わされ」ているのか、あるいは今や既定路線なのか?

Image: The Mariner 4291/shutterstock.com

この記事は、2024年4月15日(BST)に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。

 ニュージーランドが独立した外交政策を曲げてAUKUS安全保障協定の第2の柱に参加する可能性があることに対して、ヘレン・クラーク元首相が反対を表明したとき、ウィンストン・ピーターズ外相はバッサリと切り捨てた

何を根拠に彼女はあのような表明をしたのか? [……]私は、ヘレン・クラークを含め人々に言いたい。全く事実を伴わない疑念によってニュージーランド国民を惑わせるのをやめて欲しい。何の話をしているのか、冷静に見ようではないか。

 AUKUSの第1の柱はオーストラリアへの原子力潜水艦配備を伴うため、非核政策のもとでニュージーランドが加盟することはできない。

 しかし、第2の柱は、人工知能、極超音速ミサイル、サイバー戦争といった先進軍事技術の開発を想定するものである。少し考えれば、このレベルでの参加がニュージーランドに利益をもたらし得ることは分かるだろう。

 ピーターズは、国民党率いる連立政権が第2の柱への参加を約束しているという点は否定した。AUKUS加盟国との予備協議は、「われわれが話し合っていることに関するあらゆる事実、あらゆる側面を明らかにし、そのうえで国として決定を行うため」のものだと、彼は言う。

 しかし、前労働党政権は第2の柱への参加を検討する意欲を表明したのに対し、現政権はこれを「伝統的パートナー国」とニュージーランドの連携をいっそう緊密化するという、より広範な外交政策目標に不可欠なものと見なしているようだ。

 先週、ワシントンを訪問したピーターズは、ニュージーランドとバイデン政権は「10年前よりもはるかに困難な」戦略的環境において、「共通の価値観と利益を守るために、これまで以上に緊密に協力する」ことを誓約したと述べた

 特に、彼とアントニー・ブリンケン米国務長官は、ニュージーランドがAUKUSのような協定に実質的に関与することについて、「全ての加盟国がそれを適切であると見なす限り」説得力のある理由が存在するという点で合意した。

 文書が機密解除となって明らかになったのは、そのような表明の背後にある当局の熱意と、それに基づいて緻密に計算された公的メッセージの発信である。

 ニュージーランド政府に提出された一連の省庁合同ブリーフィングはAUKUSの第2の柱を、ニュージーランドと伝統的パートナーとの長期的協力関係を強化し、航空部門や技術部門に機会をもたらしうる「非核分野の」技術共有パートナーシップと位置づけている。

 しかしながら、ニュージーランドの戦略的利益の判断は明確でなければならず、部分的な真実や希望的観測によって曇らされてはならない。

 第1に、現政権は伝統的な安全保障パートナーであるオーストラリア、米国、英国との強力な2国間関係、そして中国との一貫した協力関係を継承している。

 第2に、昨今の世界の安全保障環境はニュージーランドの利益に脅威をもたらしており、それらの問題は米国と中国の大国間競争にとどまらず広がっている。

 ニュージーランドが依存する多国間システムは、国連安全保障理事会のような制度の弱体化、ウクライナにおけるロシアの拡張主義など、国境を超えて広がる問題の増大によって麻痺状態にある。

 こういった問題は、気候変動、パンデミック、富の不平等など、いずれも大国が一方的に解決することのできない問題である。

 第3に、国際法の尊重という点で、ニュージーランドは伝統的パートナーと意見を異にすることがある。

 例えば2003年、ニュージーランドはイラク侵攻をめぐって米国(および英国、オーストラリア)と対立した。最近では、「ファイブ・アイズ」ネットワークのなかで唯一、国連総会でガザにおける人道目的の即時停戦に賛成票を投じた

 ピーターズは2024年4月9日の国連総会で行った力強い演説の中で、世界はガザにおける「完全なる大惨事」を止めなければならないと述べた。

 安全保障理事会が世界の平和と安全の維持という本来の機能を遂行することを、拒否権行使(ニュージーランドは常にそれに反対してきた)が妨げていると、彼は述べた。

 しかし、ニュージーランド政府は、決定的な点を公に認めようとしていない。安全保障理事会における拒否権行使と無条件のイスラエル支持によって、ガザにおける体系的かつ大量虐殺的と言い得る国際法違反を引き起こし、ライバル国である中国、ロシア、イランに戦略的利益をもたらしているのは、伝統的な同盟国、すなわち米国であるという点だ。

 ニュージーランド政府は、正義とエスカレーションの抑制を一貫して訴えるどころか、紅海で商業船舶を標的にするフーシ派に対する米国の反撃に加わっている。

 ニュージーランドにとって、世界はいっそう複雑で矛盾した場所になっている。しかし、そこに米国が何の役割も果たしておらず、多面的問題に対処する首尾一貫した戦略を欠くAUKUSとの連携に救いがあると信じるのは、無邪気というものだろう。

AUKUSの第2の柱に代わる選択肢で、原則に基づく独立した外交政策とより一致し、太平洋を中心とし、真剣な検討に値するものはある。

 これらを考え合わせると、AUKUSの第2の柱にニュージーランドが関与することは、同国の地政学的立場の劇的な変化を示すものとなるだろう。現政権はこの見通しについて強気の姿勢のようだ。それが、参加はほぼ確定事項なのではないかという懸念をかき立てている。

 それが事実なら、透明性の問題に直面するのは政府であろう。

マルコ・デ・ジョンは、ニュージーランド・オークランド工科大学の法学部講師である。

ロバート・G・パットマンは、ニュージーランド・オタゴ大学の国際関係学部教授である。