Climate Change and Conflict マット・マクドナルド  |  2023年12月15日

COP28、難航の末に化石燃料に関する合意―― しかし、気候の破局はまだ回避されていない

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 この記事は、2023年12月13日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づいて再掲載されたものです。

 交渉官たちがドバイでベッドに倒れ込み、2023年の気候会議が終わろうとしている今、成果の検証を行うべき時だ。COP28は、気候変動に対して世界が必要としている大きな突破口を開くことができただろうか?

 恐らくできていない。しかし、喝采をもって迎えられた最終合意文書には、化石燃料からの転換を各国に求める文言が初めて盛り込まれた。一部の代表者らが強く訴えた化石燃料の段階的廃止を盛り込むにはあと一歩及ばなかった。しかし、この進展は化石燃料の余命が長くないことを示唆している。

 現在世界が直面している最大の問題は、気候変動が加速している状況で、各国が同意した幅広い合意が十分なものかどうかである。その答えは、憂慮すべきことに、ノーだ。

 2023年の話し合いは、最初から議論が紛糾した。

 石油王スルターン・アル・ジャベールがCOP28の議長を務めたことは、化石燃料経済を維持することに多大な利益を有する国であるアラブ首長国連邦のホスト国としての役割に関する懸念をかき立てた。さらに、アル・ジャベールが気候変動対策として化石燃料を段階的に廃止することの科学的根拠に疑念を呈したという報道のほか、交渉の場外では化石燃料取り引きの商談が行われているとの報道もなされた。

 それに加えて、前例がないほど大勢の化石燃料ロビイストや気候工学の推進者が会議に出席した。これでは、気候変動に対する行動を策定するために理想的な状況とはいえない。

 功績を挙げれば、気候変動の影響について富裕国が貧困国に補償する「損失と損害」基金の設立に関する合意を早期にまとめたことである。基金の設立は、会議の大きな成果の一つである。1991年にバヌアツが最初に提唱して以来、2022年にエジプトで開催されたCOPで原則的支持が得られたが、ここに到達するまでには長い時間がかかった。

 なぜ基金が必要なのか? なぜなら、途上国は気候変動がもたらすダメージに対してとりわけ脆弱であり、復興や再建のコストを賄う能力が限られているからである。また、この基金は、問題の大部分を引き起こしている先進国や主要排出国が特別な義務を負っていることも示している。

 しかし、手段についてはなおも大きな疑問がある。最も重要な点は、どのように資金を調達するかである。鳴り物入りで設立されたものの、これまで基金に拠出された金額はわずか7億米ドルである。基金が補償するべき国々が受けている被害は、最近の推定ですでに年間何千億米ドルにも上っている。

 また、世界銀行が基金を管理するという点にも懸念がある。世銀は、環境面での実績に疑問の余地があり、透明性については乏しい実績しかない。

 当然ながら、基金それ自体が失敗を自認するものである。国際社会が気候変動の発生を阻止することに失敗し、それが危険なレベルに達するのを防ぐことができそうにないからこそ、基金が必要になっているのだ。

 協議が進むにつれ、議論はますます紛糾した。厄介な議題は、化石燃料である。部外者にとっては驚きかもしれないが、各国が化石燃料の段階的廃止を直接取り上げたのは、この28回目の年次気候会議が初めてである。2022年、締約国は最も汚い燃料である石炭からの脱却を加速することで合意したが、天然ガスや石油については何も言われなかった。

 化石燃料に対して「段階的停止」、「段階的縮小」、あるいは「未対策」という言葉を適用するかどうかについて、何日にもわたって激しい議論がなされた。「し得る(could)」という言葉でさえ、各国が化石燃料の生産と消費を制約すると見なすかもしれない提案とともに使われた場合、議論の的となった。気候変動の被害者から見れば、このような論争はタイタニック号のデッキチェアを並べ替えているようなものかもしれない。

 一部の国々は、化石燃料廃止の必要性を認める用意ができていた。他の国々は、開発や輸出収入獲得のニーズを妨げることなく、将来的に転換する必要があると述べた。さらに他の国々は、二酸化炭素回収・貯留などの技術によって化石燃料の影響を最小化できるかもしれないと提案した。

 最終宣言の採択には、出席した198カ国全ての承認が必要だった。合意に達することがどれほど困難か、分かるというものだ。

 100カ国を超える国々が、化石燃料の段階的な完全廃止に対する世界的コミットメントを強く求めた。しかし、化石燃料から巨額の利益を得ているロシア、イラン、イラク、サウジアラビアなどの国々は、最終文書で化石燃料に言及することに反対した

 宣言の第一稿は、評判が良くなかった。

 開催国の交渉官らは、段階的「廃止」や「縮小」という言葉を削除することによって、対立する利害の間で交渉をまとめようとした。それらの言葉に代わりに、彼らは、各国が化石燃料の生産と消費の削減を検討「し得る」という表現を提案した。COP28のアル・ジャベール議長とそのチームが作成した妥協案の文言は、化石燃料利権にかなり配慮した内容に思われた。にもかかわらず、化石燃料支持国はなおも反対した。

 強力な気候行動を提唱する国々からは、即座に抗議の声が上がった。脆弱な小島嶼国は草稿を「死亡診断書」と呼び、関係国、NGO、さらにはオーストラリア、米国、カナダ、日本のような気候関連の実績が乏しい国々さえもが厳しい批判を浴びせた。

 本来の会期を超えて協議が延長された状況で、最終文書が比較的迅速に承認されたことはいささか意外だった。

 最終バージョンは、化石燃料の気候変動への影響により強く言及しており、一部の推進者はこれを重大なシグナルと考えた。文書は、化石燃料からの脱却を迅速に、ただし「公正で、秩序ある、公平な形で実現し、この重要な10年間に行動を加速させ、それにより科学に即して2050年までにネットゼロを達成できるようにする」必要があると主張している。

 化石燃料の気候変動への影響がCOP最終文書で初めて取り上げられたということは、1992年に始まった気候会議の進捗がいかに遅々としたものであったかを物語っている。その点では、目標をどのように遂行するか、あるいはコミットメントの実現に関する詳細が欠けていることを批判者らは嘆いた

 また、会議では、再生可能エネルギーの発電容量を3倍にし、原子力発電を拡大するという重要なコミットメントや、エアコンなどの冷房技術による排出量を削減するという新たな誓約を発表した。冷房による排出量の削減は、世界の気温が上がるにつれてますます重要になる。会議では、気候変動に対し農業部門がますます大きな役割を果たしていることも認識された。

 しかし、やらねばならないことはまだある。2023年の気温はすでに、1.5°Cという決定的な閾値を超えて急上昇している。COP28に先立って発表された排出量削減に関するグローバル・ストックテイクは、さらなる温暖化を防ぐには現行の努力では不十分であることを示している。オーストラリアのような国々は、化石燃料の廃止について以前より強い言葉で支持を表明したが、国内では新規化石燃料プロジェクトを絶え間なく実施し続けている。であれば、小島嶼国連合の首席交渉官が「プロセスはわれわれを失望させた」と述べたのは無理もないことだ。

 手短に言えば、ほんの数時間前には無理に思えた合意が外交的に達成されたとはいえ、国際社会がこの途方もない難題を、あるべきように真剣に受け止めつつあるとは、まだ言い難い。

マット・マクドナルドは、クイーンズランド大学の国際関係学准教授である。オーストラリア研究会議および英国経済社会研究会議より助成を受けている。この記事のもととなった研究は、オーストラリア研究会議の助成(DP190100709)によるものである。