Climate Change and Conflict フォルカー・ベーゲ  |  2022年11月14日

知識のバスケットを満たす: 太平洋地域の気候変動、人の移動、平和構築をめぐるワークショップ

Image: Suzi Cotton/Shutterstock

 11月7日にシャルム・エル・シェイクで開催された今年のCOP27では、開会挨拶を行ったアントニオ・グテーレス国連事務総長が、人類は「気候地獄へと向かう高速道路をアクセルを踏んだまま走っている」と述べた。そのわずか数日前にニュージーランドのウェリントンで開催されたワークショップでは、この地獄行きの旅が太平洋地域のコミュニティーや国家の安全保障と平和にどのような影響をもたらすかを検討した。参加者は同時に、太平洋地域内外の政策立案者、実務専門家、研究者からなる多様なグループの専門知識と経験を駆使し、地獄への高速道路から降りる道筋を模索した。

 イベントを共催した1員である戸田記念国際平和研究所所長のケビン・クレメンツがその冒頭で説明したように、このワークショップは、文化の違い、次元の違い、さらには国家機関、地域組織、市民社会、草の根のコミュニティーという領域の違いを超えて、互いを尊重しながら心置きなく対話ができる場を提供することが目的である。そのような対話は、それぞれの世界観やアプローチの多様性を認め合い、生かし合うものである。それが、パートナーシップを構築する基礎としての相互理解を可能にし、気候非常事態・安全保障・平和構築という軸が抱える課題に取り組む包摂的な協力をもたらすのである。

 互いを尊重する対話というテーマは、「アオテアロア」ニュージーランドのナナイア・マフタ外相も取り上げた。開会の挨拶で、関係やパートナーシップを構築するために深く耳を傾けることがいかに重要であるかを強調し、例として、近頃クック諸島を訪問した際に気候変動がコミュニティーに及ぼした影響や、人々が直面している存続のジレンマ、つまり、故郷の村に残りたいが気候非常事態によりいずれは移転せねばならないかもしれないというジレンマについて直接学んだ経験を挙げた。このジレンマはワークショップの議論の中心テーマとなり、同外相は、「西洋」の科学的研究と太平洋の伝統的知識、民衆の知識、さらには学識者や政策立案者の知識を編み合わせることによって、「知識のバスケットを満たす」よう助言し、議論を導いた。

 マフタ大臣が紡いだ糸を受けて、ワークショップのもう1人の共催者であり「テ・ヘレンガ・ワカ」(ビクトリア大学ウェリントンのマオリ名)のパシフィカ教育担当副学長補佐であるウィニー・ラバンは、ワークショップ参加者に対し、2017年にドイツのボンで開催されたCOP23において「タラノア」(敬意をもってストーリーを共有すること)という知恵を気候変動に関する国際的言説に取り入れたのは、フィジー代表団であることを思い出させた。その後にワークショップで行われた議論は、まさにそのように耳を傾け、ストーリーを共有するという精神があふれたものとなった。ラバンはさらに、外部の大国が太平洋島嶼国(PICs)を戦略地政学的チェスゲームの駒にしようと試みていることに異議を申し立てるとともに、PICsが太平洋の人々の生活、福利、安全保障を脅かす最大の単独要因である気候変動に政治の焦点を向け直すために懸命の努力を続けていることを称賛した。

 この脅威がいかに大きいかは、ツバルのサイモン・コフェ法務・通信・外務大臣が基調講演で明らかにした。小さな島嶼国ツバルは気候変動の影響に打ちのめされているが、その一方で政府と国民は、国内外を問わず気候非常事態への対応という点に関しては、革新的な発想の最前線に立っている。コフェ大臣は、ツバル政府が実施している現場でのさまざまな気候変動適応プロジェクトについて説明するとともに、ツバルが居住不可能になり、国民が別の場所に移転するという最悪のケースに備えた「プランB」の必要性も認めた。「Tuvalu’s Future Now」プロジェクトは、この最悪ケースのシナリオがもたらす影響について取り組んでおり、根本的な、そして根本的に新しい法的、政治的問いを投げかけている。例えば、国は、その領土が水没したとき、あるいは国民が別の場所に再定住したとき、国家としての地位を保つことができるのか? 領海を維持することができるのか? 物理的領土がないまま「デジタル国家」としてツバルを再建することはできるのか?

 コフェ大臣が基調講演で提起した問題のいくつかは、ワークショップで大いに議論の的となった。論点は、気候変動に起因する移住、移転、立ち退きといったさまざまな形の移動と、それが平和と安全保障に及ぼす影響である。人々は自分の故郷に留まる権利を持ち、それを可能にするためにできる限りのことがなされなければならないという点では意見の一致が見られたが、同時に、気候変動に起因する移動は今日現実となっており、それは今後いっそう切迫した問題となること、その結果紛争が起こりがちになり、したがって紛争に配慮した計画と実施が必要であることについても合意がなされた。

 しかし、気候移住をめぐる言説は有害な影響を及ぼす可能性があることに注意しなければならない。ある場所が居住(不)可能と宣言され、それにより人々がそこに留まるか、または移転するかは、非常に議論を呼ぶ政治的問題である。答えは、“客観的”な科学的データだけに基づくとは限らない。むしろ、居住(不)可能性は社会的・文化的に構成され、物質的側面だけでなく非物質的(社会的、文化的、精神的)側面からなる。ある場所を「居住不可能」と宣言することは、自己成就的予言となる可能性がある。つまり、現地での適応(およびそのような適応への資金援助)をあきらめることを正当化し、いずれにせよ、人々は移転しなければならないと主張するために、利用される恐れがある。

 一方、移転先の場所が、移転を余儀なくされた人々に「居住不可能」と認識される可能性もある。なぜなら、移転は、場所に基づく彼らの存在論的あるいは関係的安心感、文化、アイデンティティーにネガティブな影響を及ぼすからである。政治家や科学者といった部外者が居住(不)可能性を判断するのではなく、居住可能か居住不可能か、留まるか去るかに関する決定は、直接影響を受ける人々に委ねられなければならない。

 居住(不)可能性に関する議論は、ワークショップで交わされた豊かで生産的な意見交換のほんの一例である。このほかの主なトピックには、強制(立ち退き)と自発(移住)という両極端の間にある移動のスペクトラム、土地と人の切っても切れない結び付き(「バヌア」)、さまざまなタイプの移動(移住、移転、立ち退き―国内移動、循環移動、国外移動、不動性)がもたらす紛争的な影響、植民地時代の不正の爪痕、気候不正義と移動の不正義の複合、「気の毒な人たち」としての(「難民」や「被害者」としてではない)気候移住者、コミュニティー関与の経験、コミュニティー移転に対する「タラノア」の取り組み、移住経路、「アオテアロア」ニュージーランドに住む太平洋のディアスポラたち、歴史的移転、気候移住に関する太平洋地域の枠組み、国際レベルでの支援の義務などがあった。

 ワークショップは、その対話性、ストーリーテリングと傾聴により、非常に特別なイベントとなった。また、主流の(トップダウンの)「協議」というやり方は、コミュニティーで影響を受けた人々を、よその誰かによる助言や決定の受け手という役割に押し込めてしまうが、多様性を超えた対話はこれに代わるものと見なされた。水平的・垂直的な経験交換、比較学習、入り交じるさまざまな世界観、存在論、認識論は、気候・安全保障・平和構築という軸が抱える課題や機会に対し、多面的、相互関連的、全体的に取り組むうえで最も重要なものと見なされた。“離れた”島の村落から国の政府、地域組織、国連本部に至るまで、多様な次元におよぶコミュニケーションと協力を図ることは、根本的な課題であり、必須事項でもある。それと同時に、居住(不)可能性や移転に関する決定に関しても、適応のための資金調達や損失と損害に関しても、影響を受けたコミュニティーを中心に置かなければならない。土地(そして海と空)との物理的・精神的結びつき、(資源)ガバナンスと紛争解決の独自メカニズム、伝統的知識、存在論、倫理に根差したコミュニティーの力と作用は、気候変動、安全保障、平和構築に関する主流の言説において見過ごされ、あるいは周縁化されることがあまりにも多い。

 ワークショップの参加者たちは、議論をまとめ、次なるステップを計画する中で、ワークショップで示された多様な経験や視点に基づいて、多くの知見や将来の協力のためのアイディアを見いだした。その好例が、太平洋独自の地域気候倫理枠組み(Regional Climate Ethics Framework)と地域気候カリキュラム(Regional Climate Curriculum)の策定、気候移住に取り組む新たな追加的道筋の創出である。太平洋の考え方、太平洋の存在論と認識論を、気候変動、平和、安全保障に関する国際的言説に取り入れることが緊急に必要であるという点に、参加者たちは同意した。サイモン・コフェがワークショップの冒頭で紹介した共同体としての生活、責任の共有、そして「ファレ・ピリ」(良い隣人であること)というツバルの価値観は、気候地獄へと向かう高速道路の出口標識として役割を果たすことができる。

 ワークショップの報告書は、戸田記念国際平和研究所の政策提言として近く発表される予定である。

フォルカー・ベーゲは、戸田記念国際平和研究所の「気候変動と紛争」プログラムを担当する上級研究員である。ベーゲ博士は太平洋地域の平和構築とレジリエンス(回復力)について幅広く研究を行ってきた。彼の研究は、紛争後の平和構築、ハイブリッドな政治秩序と国家形成、非西洋型の紛争転換に向けたアプローチ、オセアニア地域における環境劣化と紛争に焦点を当てている。