Cooperative Security, Arms Control and Disarmament マンプリート・セティ  |  2020年11月28日

非武装国を武装解除:核兵器禁止条約の現実

 この記事は、最初に「サンデー・ガーディアン」紙に掲載され、許可を得て再掲載したものです。

 ホンジュラスは2020年10月24日、核兵器禁止条約(TPNW)の50番目の批准国となった。その日から90日後に、通称「禁止条約」は発効することになっている。軍備管理条約が途中で頓挫することが多い昨今、これは心強い動きである。しかし、 画期的出来事であるにもかかわらず、TPNWが核兵器なき世界(NWFW)の到来を告げるという目標を達成する見込みは薄い。核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、移譲、保有、貯蔵、使用、使用の威嚇を果敢にも非合法化しているが、現時点では核兵器を持っていない国に対して核兵器を禁止しているのである!

 現時点(本稿執筆時)におけるTPNWの批准国50カ国と署名国84カ国は、核兵器を保有しない国々である。核兵器保有9カ国(NWP)とNATO加盟国は、条約を拒絶している。条約が採択された際、米国、英国、フランスは、「条約に署名、批准、加盟する意思」はないと述べた。中国、ロシア、そして核不拡散条約(NPT)に加盟していない4カ国は、定義、検証、遵守プロセスが欠如しているとして条約を批判した。

 そのため、NWPについていえば、条約が発効する2021年1月22日以降も何の変化も起こらないことになる。いずれの国も、依然として核抑止に執着し、核兵器の性能強化にいそしんでいる。実を言うと、方向転換に消極的な彼らの姿勢こそが、苛立ちを募らせた一部の非核兵器国(NNWS)を動かし、2016年に国連総会で条約の交渉入りを決議せしめたのである。2回の交渉会議が開催され、核兵器保有国はいずれにも参加を拒否した。その後、2017年7月に投票により条約が採択された際には、NWPとNNWSとの間の深い亀裂があらわになった。核兵器に烙印を押し、その廃絶を求めることを目的とする条約は、結局、NWPに烙印を押し、対立のこじれをもたらすことになった。

 条約が署名開放されると、これを支持する国やノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のような非政府組織は、条約発効を目指して精力的な取り組みを行い、成功を収めた。しかし、条約は発効したものの、NWPが行動に同意する時が来るまで核兵器を廃絶することはできない。

 したがって、いまや核廃絶支持者は、核保有国を廃絶の方向に向かわせる方法を見いだすことに重点を置くべきである。そのための一つの方法は、彼らが条約に反対する論点を、相手の立場に立って検討することであろう。例えばインドは、2017年にTPNWに対する自国の立場を説明する際、二つのもっともな問題提起を行った。他の国々もこれに共鳴しているため、この問題に取り組むことでこれらの国々の関与を引き出すことができるだろう。

 インド政府は、主に二つの理由から条約を拒否した。第1に、条約の交渉が適切な討論の場において、または適切な方法で行われていないからである。インドは、核廃絶の複雑な側面について交渉する適切な場は、ジュネーブ軍縮会議だと考えている。これは、65カ国が参加する国連機関であり、合意に基づく意思決定に従う。インドは、この主題に関する議論にすべてのステークホルダーが参加することが重要だと考えている。そうしなければ、主要な関係者にとって受け入れがたい結果がもたらされる恐れがあり、それがTPNWで起こったことだと思われる。

 インドの第2の批判は、検証と遵守の問題に注意が払われていない点である。TPNWはNWPに対し、核兵器を「運用可能な状態から直ちに」取り除くことによって条約に加盟し、「法的拘束力を有する、期限を定めた計画に沿ってそれらを廃棄する」よう勧告する。しかし、これらの用語は定義されていない。また、スケジュールに沿った廃棄を誰が監視し、認証するのか、あるいは不遵守の場合はどのように対処するのかも、条約は定めていない。そのような基本的な問いに答えを出さないままでは、条約は真の軍縮を推進するには不十分である、とインドは考えたのである。

 核の2国間対立が複数存在する現在の深刻な信頼の欠如を考えると、検証制度が織り込まれない限り、核廃絶を期待するのは非現実的といえる。しかし、そうするためには、革新的な技術だけでなく、包摂的な政治交渉も必要である。分断を悪化させてしまっては、元も子もない。実行可能なスモールステップの取り組みを通した合意形成が鍵となるはずである。

 核廃絶に向けた動きは、核兵器の突出した重要性を低減させるためのステップから始めるのが最善かもしれない。人間は本来、価値を置くものを手放すことに抵抗する。つまり、核兵器の価値を低減させることによって、核兵器を廃絶するよう各国を説得できるかもしれない。そのような価値の低減は、核兵器の役割を核抑止のみに抑制するドクトリンを奨励することにより、あるいは、核兵器を使用することの軍事的無益さを示すことにより、あるいは、先制不使用を普遍化することにより、あるいは、核兵器の使用または使用の威嚇をまず禁止することにより、可能となるだろう。このような取り組みの結果、兵器が使用されなくなれば、その廃絶も可能となる。

 興味深いことに、インドの核ドクトリンは、このような取り組みを実践している。いかにして抑止を効果的に維持することができるかを示すと同時に、核兵器の役割を狭め、製造数を少なく抑え、使用する状況を報復のみに厳しく制限している。そのようなドクトリンによって、インドは、従来的に戦力が自国を上回る国も下回る国も同時に抑止してきた。したがって、インドの核抑止の実践は、他国にも採用されれば核兵器なき世界に向けて一歩踏み出すことを可能にする実証的事例といえる。

 TPNWの発効という機会を最大限に活用し、条約のより深い目的を達成するステップを真剣に考える契機とすることができる。それが、核兵器保有国も非保有国も含めたすべての国の利益となるだろう。

 マンプリート・セティ博士は、ニューデリーのインド空軍力研究センターで特別研究員として核安全保障に関するプロジェクトを率いている。過去20年にわたり、セティ博士は原子力、戦略、不拡散、軍縮、軍備管理と輸出管理、BMD(弾道ミサイル防衛)について研究および執筆を行っており、いくつかの著名な学術誌に80篇を超える論文を発表している。